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2019年10月18日 ドライバーの日、タクシードライバーまりんちゃん

2019年10月18日


 タクシーは載せた客を目的地まで連れ運ぶが、そのタクシーのドライバーは違った。お客さんの迷える心の目指すところまでも、的確に案内を遂げるのである。そう、記念日と共に。


運転手真凛(まりん)「お客さん、どちらまでですか?」


 今日もまた一人、そのタクシーにお客が乗り込んだ。そのブロンドの美少女は努めての明るい声で言った。


留音(るね)「ん……そうだなぁ、海の見える丘陵公園までお願いします」


真凛(まりん)「承知いたしました」


 乗客は憂い顔で、十分程のドライブに身を委ねる。窓の外をぼんやり見る様子からは何かを悩んでいるのであろうことがありありと感じ取れた。


真凛(まりん)「お客さん、何か悩んでいらっしゃるようですね」


留音(るね)「あぁ……わかります?……まぁちょっとね。どうにもならないんですけどね」


真凛(まりん)「どうしたんです?良かったら相談に乗りますよ」


留音(るね)「こんな事を言っても仕方ないことかも知れませんけど……可愛いって、どういう事なのかなぁって……ふふ、バカみたいだなぁ」


真凛(まりん)「可愛さ……ですか。お客さんも十分にお綺麗だと思いますけど」


留音(るね)「はは、ありがとうございます。でもダメダメ。先日ちょっとやらかしちゃって」


真凛(まりん)「何かあったんですか?」


留音(るね)「いやその……先日、ちょっと……その、あたし実はミニドラマみたいなのをしてて……」


真凛(まりん)「あ~、女優さんだ。通りでお綺麗なわけなんですねぇ」


留音(るね)「いやいや……それで、そのね、先日主役が回ってきたんですよ、すごいかっこいい探偵の役だったんですけど……」


真凛(まりん)「はぁー、すごいじゃないですか」


留音(るね)「すごいんですけど……でもね、その回の放送後、番組の評価ポイントっていうのがあるんですけど……それが2ポイント下がってたんです。あと1点で140ポイントだって思ってたのが……その回が終わった後に137ポイントなってね……それってあたしが主役やった回の、アレなのかなって……」


真凛(まりん)「あちゃ……」


留音(るね)「でもまぁ、美少女ものだって言って、あたしも美少女って話の割に爆発オチとか夢オチとかで妙な落ち重ねてね……その結果がそんな感じで……あたしがもっと可愛ければよかったのかなって」


真凛(まりん)「なるほど。つまりお客さんは可愛さが欲しい、ということなんですね?」


留音(るね)「はい、まぁ……いやでもほら、そのドラマももう90部を超えるシリーズで、あたしってそういうキャラだからさ、今更って気もするし……」


真凛(まりん)「そんな事はありませんよ。お客さん、よかったら目的地を変えても?」


留音(るね)「え?……はい……?」


 キュキュ、とタイヤを警戒な楽器のように音を発し、Uターンする。タクシーに揺られるがままに留音(るね)が運ばれたのは、カジュアルな洋服屋だった。


留音(るね)「ここは……?服屋?」


真凛(まりん)「お客さん、今日はね……ミニスカートの日なんですよ」


留音(るね)「えっ、ミニスカート?」


真凛(まりん)「来てください」


 そしてドライバーはあれよあれよと言う間に洋服を一式かき集めると、留音(るね)に手渡した。試着してどうぞ、と試着室に押し込むと、留音(るね)は渋々それに着替える。その試着室の中で、ミニスカートを中心としたコーディネートにワクワクする気持ちを高め、それを全て着用したところで試着室をおずおずと出た。


真凛(まりん)「わぁっ、ふふ、思ったとおりです。お似合いですよ」


留音(るね)「えへへ……悪くないかも……」


 男性用の少し大きめな白いブラウスシャツをあえて選び、そこに可愛らしい紐のリボンを巻くと、それは長身の留音(るね)にはぴったりの萌え袖と可愛らしいアクセントを備え、ゆるふわな雰囲気を生み出す。その上にカジュアルな薄地のセーターを着ることで同時に少女的なあどけなさを演出。ベージュを基調とした色合いは彼女のブロンドにもマッチする。


 そしてチェック柄のミニスカートはキュッと締まった腰のラインを浮き彫りにしながら、下から伸びる健康的な肌を主張させつつも、黒の大きめなシューズはきっちりと色合いに締まりと、一種のアンバランスさが男性心をくすぐるかのような危うさを与えている。そこにショルダーポーチを携えれば、そこにはおよそ馬鹿な脳筋キャラとは思えない美少女が誕生した。


真凛(まりん)「お客さん、ミニスカートはね、大人も子供も、綺麗から可愛いまで演出する事ができるアイテムの一つです。評価の2ポイントがなんですか。その2ポイントをきっかけにした悩みのおかげで、お客さんはこんなに可愛いミニスカートと出会う事ができたんです」


留音(るね)「可愛い……」


 留音(るね)は鏡の前に立ち、くるくると回ってスカートを翻す。長い金髪がひらひらと風に揺れる草花のように優しくそよいでいる。


留音(るね)「ドライバーさん……ありがとう。こんなに可愛い格好が出来て……みんなに見せてはやれないけど、でも自信がついたよ。あたしもやっぱり、本物の美少女だったんだなって」


真凛(まりん)「それに気づいてくださったのなら良かったです。大丈夫、自信を失わないでください。あなたは確かに美少女なんですから」


留音(るね)「はい……最近はノリノリで必殺技の音再現をしたりカラオケあるあるで恥ずかしい感じになったり、それからよくわからない推理をしたり……ネタキャラにされたのかなって思ったんですけど……やっぱりあたし、ちゃんと美少女だったんだ。だってこんなに可愛い格好が出来るんだもん。もう落ちもいらない。ミニスカート最高」


 留音(るね)は意識していなかったが、その店にいた女性客らはみんな、留音(るね)を羨望の眼差しで見つめていた。長身、ブロンド、スタイル抜群。そんな留音(るね)がそれほどまでに可愛らしい格好をしていたのだ、同じ服がどんどん売れていく。


 こうして今日も真凛(まりん)は迷える心をまた一人、目的地まで送り届けるのであった。


留音(るね)「ありがとうドライバーさん、あたし自信がついたよ。これからもちゃんと美少女できそうだ」


真凛(まりん)「それは良かった^^」


 運転手真凛(まりん)は今日も迷える心をどこかへ送り届けるのだ。


 今日はドライバーの日。ドライバーという職種についたプロに敬意を示す日なのである。

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