2019年10月14日 シャールネック・ホームズの冒険
2019年10月14日
ここはロンドンのとあるアパートの廊下にて、倒れている何者か。血を流し、恐らく死んでいるのだろう。そしてその近くには数人の女性が立っている。とは言っても、一人は子供のようだ。
イクソン「それでシャールネック~、これは一体どういう事なのですかぁっ?(わたわた)」
小さな身長で慌てふためいている少女の名前はイクソン。IQは3で基本的に相棒がいないと何も出来ない。そんな彼女が呼んだ相棒というのが長身で知的、美しい金髪を靡かせたハンチング帽をかぶった乙女、シャールネック・ホームズである。シャールネックは微笑みながら答えた。
シャールネック「落ち着きたまえイクソン君。あたしのIQ千億万の頭脳が落ち着きたまえイクソン君と言っているよ」
シャールネックは自分の類まれなる頭脳をひけらかすでもなく、クールに同じ事を2回言ってみせると、イクソンはそのかっこよさに卒倒しそうになってしまう。
イクソン「ひぇぇぇぇ~!おちつ、おちゅちゅ、おちゅちゅきましゅ~っ(わたた)」
シャールネック「まったく。君は仕方ないな。すいませんね、サイカレード警部。イクソンはあたしが推理を披露しようとするといつもこうなるのです。あたしの大ファンなので仕方ないですが」
シャールネックはサラリとその長い髪を宙にそよがせながらそう言うと、サイカレード警部と呼ばれた人物はしきりに頷いている。
サイカレード警部「まぁ無理もありませんわよ、あなたの持つ黄金褐色の頭脳の煌めきを間近で見られるのですから。わたくしもあなたのその頭脳から紡がれる推理の一つ一つを見るのが楽しみで仕方ないのです」
シャールネック「まったく。サイカレード警部も仕方ないな。さて……待たせましたね。この事件の真相を紐解くときが来たようだ。事件の整理から始めましょうか……」
やれやれと肩をすくめ、目をつぶってお手上げのポーズを取りながらも、シャールネックはその目に鋭い光を宿し、そばに倒れている遺体を見た。
イクソン「うっわー!出た!シャールネックの推理ショーだー!」
シャールネック「ふふ。じゃあまずここに倒れた誰かの遺体……この死因は明らかに頭打ち付け症候群によるものだ。つまりそれはどこかに頭を打ち付けたために死んだということ……ではどこに?」
シャールネックはイクソン、サイカレード警部の両名に尋ねるようにそう言った。
イクソン「うっ……う~ん……シャールネックぅ、私のIQ3の頭脳では何もわからないですぅ~っ(うるうる)」
シャールネック「初歩的なことだよ、イクソン君。ほら、この死んでいる人の足の裏を見てご覧。この白っぽい黄色っぽいなんかもにょもにょしたこれに注目するんだ」
シャールネックの物の例え方はとても曖昧であった。文章的にどう扱えば良いのか困るような説明をしている。
サイカレード警部「こ、これは……甘い香りがしますわね……それとミルクと混ぜたら美味しそうな……」
シャールネック「そうだ。ではイクソン君、踏んだ時に白っぽくて黄色っぽくてなんかもにょもにょしててミルクと混ぜたら美味しそうな甘い香りのするもの……それはなんだかわかるかい?」
イクソン「もずく?!もずくですか!?」
イクソンは特に考えずに即答した。IQは3だから仕方がないのだ。
シャールネック「君はミルクと混ぜてもずくを食すのか。それは違う。正解は……そう、この遺体の足元の少し離れたところに落ちている……このバナナの皮だよ」
サイカレード警部「ば、バナナ!まさかそんなところに落ちていたなんて……」
イクソン「私はリアルなバナナの皮の模様だと思っていました……」
シャールネック「二人共、小さな事でも見落としてしまったら難解な事件を紐解く事は出来ないぞ」
シャールネックは立てた人差し指をチッチッチと横に振ってそう言うと、そのかっこよさにイクソンは瞳をうるませている。
イクソン「流石シャールネックですぅ~っ(うるうる)」
シャールネック「被害者はこのバナナの皮を踏み、滑って転んで頭打ち付け症候群によって死亡した……それがあたしの演繹的推論による答えだよ」
サイカレード警部「でも……そんな方法ありえませんわ!一体誰がそんな事を……」
シャールネック「わからないかい?……使われたバナナの皮、食品を扱い、これほど難解な事件を起こす頭脳を持つ者……マリンアーティ教授」
イクソン「えっ……あのシャールネックの宿命の敵、マリンアーティ教授ですかぁっ!?(あたふた)」
シャールネック「これほどの事件を起こせるのはやつしかいないさ……まぁ、やつなら待っていればやがて来るだろうな。今日のところは221Bに帰るとしよう。アノコンさんの淹れた極上のミルクティーを飲む時間だ」
サイカレード警部「今回も助かりましたわ、シャールネック・ホームズ」
こうしてイクソンと共に帰った自宅である221Bの室内では、身の回りの手伝いをしてくれるアノコンさんと楽しそうに話す何者かの影があった。自室に入ったシャールネックにはそれが誰なのかすぐに分かった。
??「おかえりなさい、シャールネック・ホームズ」
シャールネック「……マリンアーティ教授」
お料理エプロンにひらがなで「まりんあーてぃ」と書かれている。それを見れば明らかに目の前に立っている相手がマリンアーティ教授である事がわかった。
マリンアーティ教授「流石、鋭い観察眼ですね……でもわたしはもう爆発します。終わりです」
マリンアーティは自身から生じる爆発波によって全てを吹き飛ばし、シャールネックの体を表し難い浮遊感を感じさせた。すると……
留音「(びくっ!)……あっ?」
眠っていた留音の体が崖から落ちる夢を見た時のようにビクンと動き、薄く目を開ける。
留音「(……悪くない夢だったのに……)」
そういえば衣玖から今日、シャーロックの本が発売された日だって聞いたっけ……留音はそんな事を考えながら再び微睡みに落ちていった。




