2019年10月12日(その2) 豆乳イソフラボンの悪夢
2019年10月12日
12日。リビングでは列島を縦断する暴風の情報を共有するため、衣玖以外の四人がニュース番組に耳を傾けつつ、それぞれ好きな事をやって過ごしている。
留音「しかしすんげー風だなぁ……うわっ、屋根飛んじゃったって。こわー」
あの子「((p*>_<*q))」
真凛「大丈夫ですよ☆あなたはわたしが守ってあげますからね☆」
西香「外には出られませんわね。こういう日には通販サイトを覗きながら出前を注文したくなりますわ」
留音「やめたれよ。それにしても衣玖は良く寝てるのか?なかなか起きてこないな」
衣玖「起きてるわよ」
それは衣玖の声と口調であったが、どこか大人びたものである。
留音「お、起きて……えっ」
留音の前にはグラマラスな女性が立っていた。大きなバスト、引き締まったウェスト、丸みのあるヒップ……先程の衣玖の声を発したのはどうやらその人らしい。
西香「ど、どちら様……」
真凛「あれ、衣玖さん、雰囲気変わりました?」
衣玖「おはようみんな。すごい雨風ね」
どこか色気のある、憂いを帯びた声音で窓の向こうを見た衣玖が言う。
留音「えっ、お前衣玖か……?その体どうしたの……?!」
驚愕する留音の質問に、長い髪の毛をさらりと手で払いながら健康的な顔色で答える衣玖は、やはり大人のお姉さんの口調だった。
衣玖「豆乳よ」
留音「あぁその断片的で意味のわからない情報の出し方は衣玖だ……豆乳?」
すると衣玖は目を細め、昔の男でも思い返すかのようにどこか遠い目をして語り始める。
衣玖「私は……牛乳が苦手だった。だから豆乳になんて正直興味もわかなかったの。あれば飲むけど……。でも今は違う。さっきの日めくり存続会議では豆乳の日を軽んじた発言があった事を正式に謝罪しようと思う。水渕さんから頂いた感想をきっかけに、私は豆乳を見直したのよ」
西香「はぁ……意味のわからない時間が続いていますが……」
衣玖「イソフラボンよ。豆乳を見直し、女性ホルモンに影響するイソフラボンの成分を強化して摂取したの。その結果私は超グラマラスになったのよ!」
家にいるのにブラもおっきいの付けたわ。と誇らしげな衣玖。
留音「いや、なったのよ!じゃないよ……」
真凛「衣玖さんからいい匂いがするー」
衣玖「みんな、肩こりとは無縁だった少女の体が突然身長が20センチアップしてメリハリのある艷やかなボディになってみんな戸惑うのはわかる。でもね、豆乳ってこういうものだったのよ。女性の強い味方……たんぱく質を始めとした栄養素を手軽に摂取出来る素晴らしい飲み物……!私は目が覚めた!この大きなお胸はちょっと邪魔だけど、でもなんか良い!今まで知らなかった誇りをもらった気分よ!」
白衣の前がちょっとぷくってなってるの!衣玖は嬉しそうに言う。
西香「この人は一体何を言っているのか……」
衣玖「私は豆乳を称える!豆乳の日バンザイ!それにしてもさっきからザーザーうるさいわね!なんなの外!」
衣玖は窓の外をもう一度見た。目視は出来ないが細かい雨がザーザーと窓を叩きつけているようだ。
留音「いや……台風来てるからね……」
衣玖「こんなに雨降って!雨音聞いてるとトイレに行きたくなるじゃない!」
でも今の私は大きくなったから貯水量も少し上がったわ!なんて反論を一人で考えている衣玖。
真凛「我慢してるなら行ってきてくださいよぉ」
衣玖「いやよ!今行ったらおもらしになっちゃうかもしれないでしょ!せっかくこんなに素敵な体を手に入れたのに!えへへへ……でもトイレ行きたいわね……トイレ……」
衣玖は窓にうっすら映った自分の美しい姿に表情を綻ばせていたが、トイレへの渇望と共にその姿が雨に流されるように霧散していった。
衣玖「はっ。……はっ」
気づけばベッドの上にいた衣玖は、暴風雨の音を聞きながらもぞもぞと自分の胸を見た。
衣玖「……さいあく……」
それは豆乳の見せた夢。豆乳を軽んじるものはイソフラボンに泣くのである。




