2019年10月8日 愛をささやく日
2019年10月8日
今日は愛を囁く日、という記念日が制定されている事を知ったあの子。
普段はみんなが日めくりを頑張ってくれるし、今日くらい率先してみんなに感謝を伝えてみようかな。あの子はそう思い、よりにもよって「愛を囁く日」にそれを実行した。
あの子は順番に、みんなに素直に愛を伝えて回った。囁き声で一人ずつに伝えたものだから、普通に愛してると伝えるよりも重みがあったのかもしれない。そこにあったのは確かに"愛情"で、みんなへの感謝から生じる女神の持つ無償かつ無限の、真の人類愛の気持ちである。その結果がこれだ。
留音「あぁ!!衣玖お前!!ちょっと邪魔!!くっつきすぎだぞお前!!」
衣玖「私はちっこいから邪魔にならないもーん。ふところに~もぐりこんじゃう~えへへへへへ」
あの子の腰に手を回し、極上にだらけきった顔で溶けそうになりながらあの子のお腹に顔を埋める衣玖を引っ剥がそうとする留音だが、もう諦めて自分もこの子にくっつくことにしたらしい、あの子の頭を自分の方に抱き寄せて頭を撫でつつ頬をピトッとこの子の頭にくっつけていた。あの子は苦笑いでそれを受け入れている。
西香「ちょっとぉ!!わたくしっ……わたくしもっ……うー!」
衣玖と留音が独占状態にあるせいで西香が抱きつく場所がないため地団駄を踏んでいる。西香は遊具からあぶれた子供のように拗ねた表情で目の前の光景を羨ましそうにしていると、あの子は仲間はずれにするわけにはいかないと、なんとか空いている両手で西香のことも受け入れ、西香の頭を優しく撫でた。
西香「はにゃ~……しゅわわしぇ……」
あの子の手は全てを浄化する。西香は毒気を抜かれ、ナデナデ大好きな子猫のように喉をゴロゴロ鳴らしてあの子の手の温もりを堪能している。
真凛「まったくもう皆さんったら、仕方ないですねぇ」
真凛がその光景に呆れたように言った。持ってきたお盆には真凛が自作した極上プリンが乗せられている。真凛が抱きつく場所はもはや残されていなかったが、真凛はそれでも良いらしい、今の目的はプリンを食べてもらうことのようだ。
真凛「はい、わたしが腕に縒りをかけて作ったプリンです☆くっつき虫さんが多いですから、食べさせてあげますねぇ♪」
ほくほくした笑顔でプリンをおしゃれなスプーンでつつき、丁度いいサイズを掬って眼下に上げる。それから熱い物を冷ますかのように息を吹きかけた。
真凛「ふぅー、ふぅー。はい、食べごろですよぉ☆」
留音「あー!お前!プリンにふーふーはいらねーだろー!それいっちばん露骨だからな!一番露骨なやつ!!アウト!倫理協定違反ー!!」
真凛「ち、違いますー!常温に近づけることで甘みが増すからやっただけでーす!!それ以外に他意はありませんー!!」
そのやり取りにあの子は困ってしまい、口論を止めるために目の前にあったプリンをパクりと食べてしまう。それを味わって食べたあの子はとても美味しいと伝えると、間接的に呼吸をやり取りしたことを意識してか、真凛は真っ赤になってしまった。
留音「あー!やっぱり意識してたんじゃん!ずる!!あたしもやりたい!」
真凛「だったらそこをどいてください!わたしもギューしたいですぅ!……えっ?もう一口?は、はぁい☆」
衣玖「むんむんむんむんむん(あの子の脇腹辺りに顔こすりつけ中)いい匂いがする~……」
西香「もうわたくしこの子がいればなにもいらないですわ……」
この子にはわからないのは、自分をこうして愛してくれるみんながどうしてここまで自分を好きでいてくれるかということ。みんなの方がよっぽどすごくて、無力な自分などほとんど居るだけのような存在であるにも関わらず、こうして大事にしてくれている。
それが本当に嬉しくて、だから改めてみんなに伝えることにした。
あの子「みんな、本当に愛してる。大好きだよ」
愛を囁く日。小さな声でも良い、あえて言葉にすることで本当に大切な気持ちを共有することが出来るのだ。