2019年9月30日 あれから十数年……奥様の日に
2019年9月30日
楽しかった日々、みんなで過ごした日々を過去に、彼女たちはそれぞれ道を歩みだし……もう十年以上の時間が経っていた。そんな彼女たちにだが、なんの機会があってかまた集まって話でもしよう、なんて流れになったのだ。昔住んでいたみんなの家はもう無くなってしまったため、ちょっとした料亭の個室に席をとって集まるようだ。
衣玖「あら。まだ西香だけなのね」
西香「衣玖さん、お久しぶりですわね~!」
予約していた料亭の個室に案内された衣玖が戸を開けると、そこには西香が座って携帯端末を触っていた。西香は昔よりもずっと質素な格好だったが、その表情は嫌味さというか、鼻につくような雰囲気が一切なく、心から衣玖を迎え入れたように見えた。
衣玖「本当に久しぶりね。もう最後にあってから十年以上経っているものね。……雰囲気変わったんじゃない?」
西香「恥ずかしいですわ。まぁ……ちょっとはオトナになったのかもしれませんね」
その言葉は飾らないでいて心から紡がれている。衣玖は西香の変化に興味を持ったようだ。だが聞く前に西香の隣の空間が歪むと、グワングワンと異音を立て、光とともに真凛とあの子が姿を表した。
西香「真凛さん!あなたも!!お久しぶりですわねぇ~!相変わらずダイナミックな登場ですわ!」
真凛「あーっ!お二人ともお久しぶりですー!あれから一年くらいですかぁっ?」
衣玖「こっちの時間だとあの日から十年以上経ってるわよ。まぁ、ブラックホールを通り抜けられる真凛は時間軸もずれてしまうから仕方ないわね」
衣玖の説明通り、あの子と真凛だけはほとんど当時と見た目も何も変わっていなかった。それから同じくらいのタイミングでまた一人、今度は留音が部屋の扉を開けて入ってきた。
留音「あ~!もうみんな集まってたか!ごめんごめん!旦那に娘預けるのに時間かかっちゃってさ」
登場した留音は昔よりも大人らしい、落ち着いた雰囲気を身にまとって入ってきた。見た目だけはしっかり女性として綺麗に決めていたが、その内面は大して変わっていないようだ。
真凛「ちょっとー!聞いてないですよぉ留音さーん!お子さん作ってたんですかぁ!?」
留音「言いたかったけどさ、お前気軽に連絡取れねぇんだもん。あたしこないだ結婚してさ」
留音は左手薬指の指輪を見せつけるように手を掲げ、笑って言った。
衣玖「連絡は受けてたけど……まさか本当に子供ができてるとはね……」
西香「おめでとうございますわ、留音さん。ホント良かったですわね、嫁の貰い手があって」
やはり西香の物言いは悪女感を控えさせ、塩梅のいい茶化しで場に柔らかい空気を生んでいる。それが何故なのか、みんな意識の奥で気になり始めているのだろうか。それぞれが今どういう生活をしているのか、という話題にすぐに変わっていった。
真凛「わたしはいつもどおりですけどぉ、皆さんと別れてからはこの子と一緒に宇宙の平穏を守っていますよぉ~」
真凛の言葉にあの子も少し照れたように頷いている。
衣玖「そうよね……この世から笑顔一つで戦争を根絶し、永遠の平和を実現させたこの子を地球だけにとどめておくのはもったいないもの」
留音「あんまり会えなくなったのは寂しいけど、銀河の平和を守っているんだから本当にすごいよ」
真凛「さっきもここから8万光年くらい離れた場所で発生した星間戦争を一つ止めてきたんですよぉ☆」
西香「流石、わたくしたちの天使ですわねっ」
あの子はそんな風にできるようになったのもみんなが応援してくれたおかげだと、感謝を怠らなかった。それに対してみんなはあの頃のように嬉しがっている。
真凛「それで、そういう西香さんは何をしてらっしゃるんですかぁ?」
西香「ええっと……少し恥ずかしいですわね。わたくし、実は役者を目指していて……」
留音「0から頑張ってるんだよな。すごいことだよ、こんな風に夢が見られるって」
西香はいつの日か、一人でテレビを見ていた時にある作品に強い影響を受けたのだ。そこで人生が変わり、それまで全く興味のなかった分野に足を踏み出した。そこで自分の器というものを知り、夢に本気で向き合っている。三十路を前にして夢を見るということはじめ、人が変わったように人間性というものに向き合うようになったのだ。
衣玖「ホントね。表現者という道を選ぶとは思わなかったわよ。……かっこいいと思うわ」
西香「えへへ……照れますわね。衣玖さんは何をしているんでしたっけ?」
衣玖「ん?私は大したことしてないわよ。自動でお金を稼ぐシステムを作って毎日遊んで好きなことやってるだけだからね」
留音「言ってもIT会社の社長と研究所所長と……あとなんだっけ?すげぇ役職掛け持ってたよなぁ?」
衣玖「アニメ会社とゲーム制作会社も持ってるわね。まぁ任せてるだけだから……有名監督の手がけた作品をいち早く遊ぶために建てたけど、本当に正解だったと思ってるわ」
西香「すごいですわね……天才はやることが違うということですか……」
衣玖「西香ももし行く宛がなかったら雇ってあげるわよ」
西香「ふふん、余計なお世話ですわ。わたくし、今度テレビにも出るんですから。セリフはありませんけどね」
留音「はぁー。みんなすげぇなぁ。あたしは世帯に入っちゃったから……」
衣玖「そうだ、真凛とあなたは知らないでしょ?ルーが結婚した経緯。ルー、二人に教えてあげなさいよ」
真凛「わー!聞きたいですー!」
留音「えー……恥ずかしいなぁ」
西香「この人、カツアゲされてる男の人を助けたんですのよ。そしたらもうベタ惚れされてしまったんですわよね?こってこてのべったべたストーリーですわ」
留音「すげぇ早さで核心言っちゃったよ……まぁ簡単に言えばね。それでまぁ、話してたらすげぇいい人だったし……その頃ってもう地上最強の道は極めちゃってたし、あたしみたいなの好いてくれる人もいるってさ、まぁ乗っかってもいいかなって思って……」
衣玖「このエロ。子供まで作っちゃって。ドスケベよホント」
留音「そういうお前だってバンドマンと付き合ってたんだろ?」
衣玖「その話、禁止」
真凛「何かあったのかなぁ……?」
留音「あっ、すまんみんな、旦那から電話だ。娘のことかも。ちょっと出るな。……もしもし、ハナオくん?どうした?……おむつ?あっ、買ってなかったかもしれない……ごめーん!」
衣玖「ペッ!ペッ!」
西香「しっかり主婦って感じになってますわね……ポンコツっぽいですけど」
真凛「皆さん本当に……あんまり変わりませんけど……変わりましたねぇ~……」
今日は奥様の日。奥様という年齢になった彼女達もあまり変わらないのかもしれない。
だがしかし、そもそも美少女は男と付き合ったりしないのだ。これはなにか別の次元かパラレルの話であるのであしからず。全部ウソである。安心だ。