2019年9月16日 マッチの日 マッチ売りのさいか
2019年9月16日
それは雪の降りしきる寒い寒い日の事。
絢爛華麗ながらもファンアート無き美少女、西香は狭い通りの路地で一人、寒さに凍えていました。
西香が持つのは、たった数本のマッチのみ。今日は一日中このマッチを「自分の友達になってくれたらついてくる限定特典」として配布しようと持ち歩いていましたが、結局友達が出来ることはなかったのです。
「寒いですわ……そうだ……このマッチで温まりましょう……」
西香は身をもたれた壁にマッチをこすりました。シュッ!……すると小さな日がポワッと優しく灯ります。
するとマッチの火が暗闇を照らすかのように、まるで最初からそこにあったかのように、西香の目の前に、あるものを浮かび上がらせました。
「あ……素敵な一億円……」
そこには西香の大好きな一億円が見えました。全て一万円札で用意され、テーブルの上にそれっぽい大きさでズデンと置かれた一億円に、西香はほんのりと笑顔になりました。
西香は寒さを忘れ、それに弱々しく手を伸ばします。しかしマッチの火は少しだけ揺れると、西香が一億円を掴む前に消えてしまいます。同時に一億円も立ち消えてしまいました。
寒さも思い出した西香は、再び別のマッチを壁にこすりつけました。するとまたも火は勢いよく燃えだします。今度は西香の周囲まで照らしたその光が、たくさんの紙を浮かび上がらせました。
「あっ……素敵な一億円……」
そこには全て千円札で置かれた一億円がありました。あまりにも無駄に多い千円札は西香の周りで適度な大きさのお金の山を作っていたのです。それに身を埋めようと、再びを手伸ばした西香でしたが、やはりまたマッチの火は揺れ、その一億円も再び立ち消えてしまいました。
西香もう一度、マッチをすりました。今度は見つけるまもなく、西香の目にそれが映りました。
「あぁっ……素敵な一億円……」
なんと先程まで降りしきっていた雪が、全てお札に変わったのです。目の前を落ちていく一万円札。通行人には見えていません。西香は、これが全部自分のお金になるんだと思って、キラキラした目を向けています。
ですがやがてその素敵な一万円たちは逆に空へと昇っていき、西香の手に届かなくなってマッチも消えてしまいました。
そうして空を見上げる形になった西香の目に、ヒューっと空を泳ぐ一つの流れ星が見えました。それを見た西香は友達が出来ることを願いました。
西香は再びマッチをすります。すると西香の周りを優しい光が包みました。
見るとその中に、同年代のちょうどいいブスが立っていました。ちょうどいいブスといっても、それは西香の主観によるものです。自分と並び立った時、全ての要素で西香が勝ちながら、それでいて一緒に並んで恥ずかしくないという、西香にとっての適度なブスでした。要は、西香にとっての引き立て役になる人です。
「わたくしの未だ見ぬお友達!」
西香は寒さに凍えながらも大声をあげました。
「ねぇわたくしのお友達……ちゃんとわたくしの言うことを聞いてくださいますか?わたくしが遊びたいといったら例えあなたのご両親の法事でも駆けつけてくれて、適切なタイミングで姿を消してくれて、わたくしが何かが欲しいと思ったときにはもうそれを持っている、それからわたくしが不機嫌なときにはちゃんとストレスのはけ口になってくれて、対戦アクションゲームでは適度な接戦を演じて負けてくれる……そんな風にわたくしをちやほやしてくれますか……?」
その幻影の友達は優しく頷きました。西香のわがままにも全て応えると言っているのです。
「でも……このマッチが消えたらあの一億円やさっきの一億円、それから今の一億円……消失してしまった合計三億円みたいに消えてしまうんでしょう……?」
西香はそれが嫌で、全てのマッチに火をつけました。そうするとお友達もより強く、赤く照らされます。そして西香には、その友達が「私は一兆円持ってるよ」と言ったように思えました。それに見ればペンタブも持っています。きっと絵も描けるんだ、西香はそう思いました。
そして西香はその友達に導かれ、一兆円を持つ友達の方へ浮かび上がり、空の遠い向こうの方へ飛んでいきました。
そこには寒さも孤独もありません。何故ならお金と本当のお友達がいるのですから。
次の日、西香が壁に寄りかかってうごかなくなっているのを、街の人達が見つけました。それを見て可哀想だと涙を流す人もいました。何故なら西香は喋りさえしなければ性格の悪さもわからないくらい美少女だったからです。
しかし彼女を見た誰も、西香は満足したような表情でいる理由を、きっと知るよしも無いでしょう。彼女が友達を百億人見つけたことも、彼女のたどり着いた世界で千兆億円を得たことも、それから一億万枚のファンアートを貰ったことも……それらは全て、彼女にとっては真実だったのです。