表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
55/414

2019年9月9日 救急の日 お料理ドクター24時

2019年9月9日


 どたどたと、その病院内では担架を押して走る美少女看護師の姿が。その少し後ろを必死に留音(るね)が追いかけながら問うた。


留音(るね)「助かりますよね!?あたしの大事な……!」


西香(さいか)「落ち着いてください、先生はこの分野のプロですわ。それで、患者の詳しい症状は?」


 追走する留音(るね)西香(さいか)看護師は尋ねると、留音(るね)はうろたえながらも状況を思い出した。


留音(るね)「昨日まではちゃんとしてたんですっ……ちゃんとパリパリしてて、でも一日置いてたら……シナシナになっちゃっててっ……!」


 留音(るね)は一晩置いてしまったポテトチップスを涙ぐみながら撫でると、とってもおいしいのり塩味のフレーバーが指についてしまう。それをぺろっと舐めて、拭くところがないので自分の洋服で伸ばし拭った。


西香(さいか)「どれ……あむ。ポリポリ。こ、これは!なんというシナシナ具合……!一日置いたというのは、まさかこの高湿度の日々の中でサランラップもせずに一日置いたということですか!?」


 西香(さいか)も走りながらポテチをポリポリ。白衣の胸ポケットに入れていたハンカチで手を拭う。


留音(るね)「ちょっと忘れてただけなんです!食べようと思って、袋を開けてっ……でもその後、何故か近くに置いてあった知恵の輪を触りだしたら全然解けないまま小一時間経過しててっ、すっかりポテチの事忘れてその後寝ちゃったんです!!あの知恵の輪が難解なばっかりに!」


 留音(るね)の脳裏に思い出されるのは9っぽい形が二つ連なった、難易度☆10分の☆1という初級知恵の輪だ。箱には初級と書いてあったし、衣玖(いく)は1秒もかからずに解いていた。だから自分にもすぐ解けるはずだと思って手にとったのが、この悲劇の幕開けだったのだ。


 担架はオペ室に到着する。


西香(さいか)「過ぎたことを悔やんでも仕方がありませんわね……先生!急患ですわ!対象は湿気りきったシナシナポテチ!歯で噛んだ時にもうほとんど音がしない、かなりひどい状態ですわ!」


真凛(まりん)「どれ、こちらへ……ふむ、なるほどぅ。これはなかなか、際どい状態ですねぇ~」


 真凛(まりん)医師は手にとったポテチが若干ふにょくなっていることで全ての状態を把握したらしい。手についた青のりフレーバーを舐め取った後、部屋の水道でしっかり手を洗った。


留音(るね)「そ、そんな!でも、先生ならなんとかしてくださるんですよね!?」


真凛(まりん)「ふふ、出来ないとは言っていませんよぉ。さぁ西香(さいか)さん、すぐに電子レンジの扉を開けてください。タイマーは30秒に」


西香(さいか)「はい。30秒……セット完了しましたわ」


留音(るね)「先生!じゃあこのポテチをレンジに入れればいいんですねっ?」


真凛(まりん)「はい。あ、待ってください。そのポテチをお皿に出したのは良い判断です。でもサランラップをかける必要はありませんよ」


留音(るね)「そ、そうなんですか?!」


真凛(まりん)「はい。レンジの中で水気を飛ばすのが目的ですから、ラップをしているとあまり効果が見込めません。安心してラップを取ってレンジにかけてください」


留音(るね)「流石先生だ……!それじゃあレンジでチン、します!!」


 それから30秒が経ち、留音(るね)は取り出したポテチを一つ口に放り入れた。


留音(るね)「……?……」


 だが表情はぱっとしない。


真凛(まりん)「さっきよりはマシになったけど、まだ少しシナッている……そんな表情ですね?」


 うんうん、と一人で頷く真凛(まりん)


真凛(まりん)「それはそうでしょう、まだオペは完了していませんから^^」


留音(るね)「えっ?そうなんですか?」


真凛(まりん)「はい。今度はそのポテチを少し混ぜてください。なるべく裏表が反対になるように」


留音(るね)「わ、わかりました!先生!」


真凛(まりん)「それではまた30秒のレンチンですよ。西香(さいか)さん、タイマーのセットを」


西香(さいか)「はい。この作業に助手の意味を問いかけたいところですがセット完了です」


 そしてもう一度鳴り響く、レンジのチン音。取り出したポテチを、留音(るね)はもう一度ぱくついた。


留音(るね)「……サク!あっ!!シナッてない!!」


西香(さいか)「どれどれ……パク。サクサク。あったかいポテチうまーですわ」


真凛(まりん)「ふふ、これにてオペ完了です。しっかりポテチのサクサク感は戻りましたね」


留音(るね)「うぅっ!ありがとうございました、先生!ぐすっ」


真凛(まりん)「次から開けてしまったポテチを保管する場合は、冷凍庫がおすすめですよぉ~☆」


西香(さいか)「先生、料金外の豆知識まで……またファンを増やしてしまいましたわね」


 スーパークックドクター真凛(まりん)。彼女は今日もまた、賞味のタイミングを失った食べ物に救いの手を差し伸べるのだ。


 お料理救急病棟24時。これはまさに救急の日の出来事であった。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ