2019年9月9日 救急の日 お料理ドクター24時
2019年9月9日
どたどたと、その病院内では担架を押して走る美少女看護師の姿が。その少し後ろを必死に留音が追いかけながら問うた。
留音「助かりますよね!?あたしの大事な……!」
西香「落ち着いてください、先生はこの分野のプロですわ。それで、患者の詳しい症状は?」
追走する留音に西香看護師は尋ねると、留音はうろたえながらも状況を思い出した。
留音「昨日まではちゃんとしてたんですっ……ちゃんとパリパリしてて、でも一日置いてたら……シナシナになっちゃっててっ……!」
留音は一晩置いてしまったポテトチップスを涙ぐみながら撫でると、とってもおいしいのり塩味のフレーバーが指についてしまう。それをぺろっと舐めて、拭くところがないので自分の洋服で伸ばし拭った。
西香「どれ……あむ。ポリポリ。こ、これは!なんというシナシナ具合……!一日置いたというのは、まさかこの高湿度の日々の中でサランラップもせずに一日置いたということですか!?」
西香も走りながらポテチをポリポリ。白衣の胸ポケットに入れていたハンカチで手を拭う。
留音「ちょっと忘れてただけなんです!食べようと思って、袋を開けてっ……でもその後、何故か近くに置いてあった知恵の輪を触りだしたら全然解けないまま小一時間経過しててっ、すっかりポテチの事忘れてその後寝ちゃったんです!!あの知恵の輪が難解なばっかりに!」
留音の脳裏に思い出されるのは9っぽい形が二つ連なった、難易度☆10分の☆1という初級知恵の輪だ。箱には初級と書いてあったし、衣玖は1秒もかからずに解いていた。だから自分にもすぐ解けるはずだと思って手にとったのが、この悲劇の幕開けだったのだ。
担架はオペ室に到着する。
西香「過ぎたことを悔やんでも仕方がありませんわね……先生!急患ですわ!対象は湿気りきったシナシナポテチ!歯で噛んだ時にもうほとんど音がしない、かなりひどい状態ですわ!」
真凛「どれ、こちらへ……ふむ、なるほどぅ。これはなかなか、際どい状態ですねぇ~」
真凛医師は手にとったポテチが若干ふにょくなっていることで全ての状態を把握したらしい。手についた青のりフレーバーを舐め取った後、部屋の水道でしっかり手を洗った。
留音「そ、そんな!でも、先生ならなんとかしてくださるんですよね!?」
真凛「ふふ、出来ないとは言っていませんよぉ。さぁ西香さん、すぐに電子レンジの扉を開けてください。タイマーは30秒に」
西香「はい。30秒……セット完了しましたわ」
留音「先生!じゃあこのポテチをレンジに入れればいいんですねっ?」
真凛「はい。あ、待ってください。そのポテチをお皿に出したのは良い判断です。でもサランラップをかける必要はありませんよ」
留音「そ、そうなんですか?!」
真凛「はい。レンジの中で水気を飛ばすのが目的ですから、ラップをしているとあまり効果が見込めません。安心してラップを取ってレンジにかけてください」
留音「流石先生だ……!それじゃあレンジでチン、します!!」
それから30秒が経ち、留音は取り出したポテチを一つ口に放り入れた。
留音「……?……」
だが表情はぱっとしない。
真凛「さっきよりはマシになったけど、まだ少しシナッている……そんな表情ですね?」
うんうん、と一人で頷く真凛。
真凛「それはそうでしょう、まだオペは完了していませんから^^」
留音「えっ?そうなんですか?」
真凛「はい。今度はそのポテチを少し混ぜてください。なるべく裏表が反対になるように」
留音「わ、わかりました!先生!」
真凛「それではまた30秒のレンチンですよ。西香さん、タイマーのセットを」
西香「はい。この作業に助手の意味を問いかけたいところですがセット完了です」
そしてもう一度鳴り響く、レンジのチン音。取り出したポテチを、留音はもう一度ぱくついた。
留音「……サク!あっ!!シナッてない!!」
西香「どれどれ……パク。サクサク。あったかいポテチうまーですわ」
真凛「ふふ、これにてオペ完了です。しっかりポテチのサクサク感は戻りましたね」
留音「うぅっ!ありがとうございました、先生!ぐすっ」
真凛「次から開けてしまったポテチを保管する場合は、冷凍庫がおすすめですよぉ~☆」
西香「先生、料金外の豆知識まで……またファンを増やしてしまいましたわね」
スーパークックドクター真凛。彼女は今日もまた、賞味のタイミングを失った食べ物に救いの手を差し伸べるのだ。
お料理救急病棟24時。これはまさに救急の日の出来事であった。