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2019年9月4日 供養の日 供養衆と会う

2019年9月4日


「ご供養、如何かね?」


衣玖(いく)「供養?」


 衣玖(いく)は一人、人の通らない辺鄙な道をゆく途中、小さなテントに身を隠す老人に声をかけられた。すえた臭いは死臭とでも言うのだろうか。土気色をしたその顔に、見える歯はボロボロで変色して、体は異常に細く曲がっている。不気味な老人だったが、相手の見た目を気にするタイプではない衣玖(いく)は、興味を持って足を止めている。


「さよう。死者たちのご冥福のため、品を売っておる。見た所あんたも、随分と罪深いようじゃ」


衣玖(いく)「なんのことなの?」


「ご供養、していきなされよ」


 老人は何も言わず、テントの脇からズズイと品物を取り出し見せた。まるで「あんたにはこれがいいだろう」と伝えるかのようだった。テントの近くに止まるカラスが数羽、カァカァと鳴き、飛んでいく。


衣玖(いく)「よくわからないのだけど」


 出された品は、お金だった。お金でお金を買えというのだろうか。衣玖(いく)はそのお金になにか意味があるのかと手に取り、方向を変えたりしてよく見てみるのだが、それはなんの変哲もない普通のお金だ。そんな不思議がった衣玖(いく)に、老人は言う。


「これはあなたにゆかりのある、死者の品。どんなものか、聞きたいかね」


 衣玖(いく)はいよいよ興味を惹かれて、その老人の前に腰を下ろし、うなずいた。


「これはとある美少女が生前大事にしておったもの。金を愛しておった、生粋の、見た目だけは最高級の、ある美少女の品じゃ」


衣玖(いく)「……お金を好きな美少女……誰かしら。その子はなんで死んでしまったの?」


「寂しさ、じゃろうかな。渇望していた可愛さの境地に、ついぞ辿れぬと絶望し、この山で生命を絶ったのじゃ」


衣玖(いく)「でも、見た目だけはすごく美少女だったんでしょう?可愛さはあったんじゃないの?」


「そうじゃな……そこがもしも小説の中でなければ、死ぬこともなかったのじゃろう」


衣玖(いく)「そっか……小説の中の美少女だったのね。小説において見た目だけ美少女という設定はほとんど意味ないも同義……可哀想に……」


「周りの人間が日々の中で可愛さの個人技を披露する中で……その美少女は個人技の場を持てずにのう」


衣玖(いく)「そ……きっとネタにしないという方向性でネタにしやすかったのね……なら買わせてもらうわ。今日は供養の日だし。その五円玉、おいくらかしら」


 衣玖(いく)はお尻のポッケから財布を取り出した。


「5005円+税で5505円……」


衣玖(いく)「途方もなく暴力的な商売してるわね、しかも税率10%計算。でも買ってあげる。その美少女を供養してあげて」


「なんまんだぶなんまんだぶ……」


衣玖(いく)「その小説が美少女モノじゃなくてコメディ系だったら……きっと今もネタにされて喜べたでしょうにね」


 衣玖(いく)はその五円玉をぎゅっと握りしめた。そしてその五円玉を、空に向かって解き放つように投げる。死んでしまったお金好きの美少女への手向けのお金だ。まさか対価1000倍以上の値段を取られるという高い費用だったが、その美少女がしっかり成仏出来るよう、願い込めて供養とする。


「死者があるところ、また供養衆あり。どこへ行こうと、ご供養を欠かさぬようにの」


 今日は供養の日。もしも大事な人が遠くにいるのなら、ご供養なされよう。

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