2019年8月31日 I Love Youの日 みんなの告白編
2019年8月31日
*留音だったら
突然、留音に呼び出された。それが体育館の裏だなんて物騒だが、不器用というかなんというか、彼女の性格を考えれば、きっと他の人の目に触れたくなくて呼び出したんだろうな、とそう思えた。なんて思っていたら足音がして……。
留音「よ、よぉ。お待たせ……」
彼女の様子はどこかおかしい。こちらを見ようとしないで、チラチラと別の方を見ながら赤らめた頬を人差し指で擦るような動作を見せている。どうしたのか尋ねると、彼女はこっちを見て少しだけはにかんでから言った。
留音「あの、さ。ほら、あたしたちってこうして毎日会うようになって……ほら、もう一ヶ月以上経つだろ?それでその……」
いつもは強い彼女が、今日はとても弱々しいというか、少し震えているようにも見える。
留音「お、お前はさ……あたしの事、どう思ってんのかな、って、聞きたくて……」
それは一体どういう意味なのだろうか。自分のしかめた表情に、留音は意を決したらしい、少し息を吸ってからこう言った。
留音「言おうかどうかはすごい迷ったんだけど……でもっ、他の奴らに取られるのも……あたし、嫌だって思って……それで……」
頭の奥の方では彼女が何を言いたいのか理解しているつもりだった。だがこんな唐突に急速に進んでいく展開に戸惑うばかりでもある。そんな戸惑いを押し切るかのように、彼女は畳み掛けてきた。
留音「つ、つまり!あたしはお前の事を好きになっちゃったんだ!こんなに男みたいな口調で、ガサツなのにっ、変だよなっ?でもっ……そんなあたしにもお前は優しくて……っ、気づいたら、お前のこと目で追ってて……迷惑……だったかな……?」
泣きそうな表情の彼女に掛ける言葉は決まっている。迷惑なことなどあるものか。嬉しいことしかない。自分でガサツだのと言っているが、本当は繊細で女の子らしいところをたくさん持っているのが彼女だと知っている。
留音「嬉しい……?ほ、ホントに……?じゃあっ、あたしで……いいのか……?」
頷いて、こちらも恥ずかしさを隠すように笑った。それから自分もまた、本当は同じ気持ちだった事を伝える。
留音「そう、だったんだ……良かったぁ……あはは、なんかあたしバカみてー……じゃ、じゃあ……その、これからも、よろしくなっ……で、いいのかな……こういうときの事わかんなくて……」
それからもう一つ、自分から伝えられなかった言葉を伝えた。
留音「ぅわっ……ぁぅあ、あたしも……愛して……って言えるかっ!バカー!」
*真凛だったら
真凛「はー、面白かったですねぇ♪」
真凛の住む家のリビングで、普段は見ない恋愛映画を見終えた。個人的にはむず痒い話だったが、彼女は満足しているようだ。
真凛「恋愛かぁ……」
そう言って漏れ出た微かな吐息には憧れのような気持ちをにじませていた。そこで興味があるのかと尋ねると、苦笑しながら彼女は答える。
真凛「ありますよぉ。好きな人もいますしね☆」
それは少し意外な言葉だった。幼馴染として真凛とはそれなりに長い時間を過ごしてきたつもりだが、彼女に好きな人がいるとは思わなかった。
真凛「むぅー。やっぱりわからないんだぁ」
むすぅっと頬をふくらませる真凛。その様子がおかしくて軽く笑ってしまったのだが、次に彼女が発した言葉は。
真凛「わたしが好きなのはあなたですよぉ。もぉー、こんなにずっといるのに、わたしのことなんて見てないんですねっ」
ふんっとわざとらしくそっぽを向く真凛。どういうことなのかと焦りながら訊ねる。
真凛「子供の頃から一緒にいるじゃないですかぁ。一緒の学校に進学したのも、こうやって一緒に遊ぶのも、別に単なる幼馴染だからってわけじゃないんですよぉ?」
呆気にとられてしまった。いつも脳天気なまでに朗らかな彼女からそんな言葉を聞くとは思えなかったからだ。
真凛「気づかないですよねっ、鈍感さんなんですからぁ。でもわたしが言っちゃったんですから、あなたもちゃんと答えてください。……わたしの事、どう思ってるんですか?ただの幼馴染ですか?それとも……恋人に、してくれますか……?」
脳が熱を持つのを感じる。すごい速さで回転して、脳細胞のひとつひとつが汗をかいているようだった。でも本当は彼女との関係を壊したくなくて封印していた言葉を一つ、伝えるだけだ。
真凛「そっか……そうなんだ。えへへへへ……嬉しいです。えへへ……なんだか照れちゃいますねぇ☆」
自分も実は、いつからか幼馴染を女性として意識していたことを思い出した。でも踏み込むことが出来なかったのは、もしも自分の気持が相手と違った時にこの関係に亀裂の一つも入れたくなかったからだ。でもこうなればもう違う。本当の気持ちを更に伝えきるだけ。
真凛「あわわ……わ、わたしも……大好き……です」
* 衣玖だったら
衣玖「遅かったじゃない。もう実験始めちゃってるわよ」
同じ部活の衣玖は白衣を来て、いくつかのフラスコの底を謎の液体で染めていた。それはいつもの事で、この部室には彼女と二人しかいないこともいつものことだった。過疎部というか、本当に部活なのかもわからないこの場所で、もう入学以来の長い時間を彼女と過ごしている。
衣玖「困るのよね、我が愛する助手はあなた一人しかいないんだから。……何やってたの?」
わざとらしく愛する、をつける衣玖。これはいつも言う便利屋の方便みたいなものだ。彼女の質問に、ただ単に先生の手伝いをしていただけ、となんてことのない事実を伝えると、彼女は訝しげにこちらを一瞥した。
衣玖「ふーん……また女の子に声かけられてるのかと思ったわ」
それを言われて思い出したのは、先生の手伝いをしていたのは自分ともう一人の女子生徒だったことだ。彼女と話が盛り上がったこともまた事実である。それを聞いた衣玖の表情が険しくなった。
衣玖「むっ。ちょっと、私の助手っていう自覚あるの?あ、あなたはちゃんと時間になったらここにいなきゃ駄目なんだからね」
そう言われても困ってしまう。友達と話し込むこともあるし、何か用事が出来てしまう事だってある。だいたいこんな部活とも思えないような活動であるし、それに衣玖は部長なのに部員を増やそうとはしなかった。彼女は確かにすごい研究をしているのかもしれないが、助手の手を増やしたいならもっと部員を、と話しかけたところで、彼女の表情は曇る。
衣玖「ふ、増やしたら……あなたと二人でいられないじゃない……」
何かの聞き間違いがあったのだろうか。疑った自分の耳から生まれた疑問が口から溢れた。
衣玖「わ、私は!あなたと一緒にいたいから、この部を作ったの!!いい加減気づきなさいよ!この鈍感!!」
突然の罵倒に驚きながら、脳裏では今の言葉の意味するところを考えている。衣玖は自分と一緒にいるために……?
衣玖「そ、そんなに驚くこと無いじゃない……あなたは私のことを変人扱いしないし、私の話も聞いてくれるし、一緒にいて、楽しいし……」
もじもじと、彼女はフラスコをかき混ぜるために使っていた撹拌棒をペンのようにして机にこすりつけていた。そんないじらしい彼女はボソリと言う。
衣玖「そんなの、好きになっちゃうじゃない……」
確かに聞いた言葉に浮かんできたのは、彼女でもそういう事を考えるのだなということだ。それは決して悪い意味じゃない、それに同じ気持ちを、自分も持っていたからだ。でも今までそれを意識しないようにしていた。
衣玖「えっ……あ、あなたも同じ気持ちだったの……?な、なんで、言ってくれなかったの!?超恥ずかしいじゃない!」
それは単に彼女がそういう事に興味を持たないと思っていたからだ。彼女の事だから恋愛感情なんて脳科学の延長で、「錯覚よ」の一言で済まされてしまいそうだったし、自分も彼女となんとなく近くにいて、なんとなく活動できればそれでいいか、という思考に切り替えていた。
衣玖「そうよ。全くを持ってその通りね。恋愛感情なんて脳のバグよ。でも……私もバグっちゃったっていうか……あなたは別なの!大好きになっちゃったんだもん!」
キュっと拳を握って言う小さな彼女が愛らしくて、自分も素直に気持ちを伝えた。
衣玖「うっ、ストレートな告白……この大天才を惑わせるとはやるわね……。じゃあ……あなたはこれから……部活の時以外も、愛する助手、なんだからね!」
*西香だったら
西香「はーい。じゃあ今日のファンクラブ握手会はここまでですわ。次回も貢金額上位3名は私と七秒のお話タイムを与えますので、皆さん奮って貢ぎなさいな~」
大熱狂の西香ファンクラブが今日も終わった。西香に雇われてからもう何度か運営を手伝っているのだが、この熱狂ぶりに反して西香のサービス量はあまりにも少なすぎると思う。
西香「……ちょっとあなた。何かコメントがありそうですわね。やはりわたくし、サービス精神旺盛すぎますか?」
自分の思う所は全くの反対であることを伝えた。
西香「だ、だって、わたくしが金を払っただけのファンと七秒もお話するんですわよ?!あなた我慢出来ますの?!普通嫉妬に狂ってしまいそうになるはずじゃありませんの?!」
それよりもファンが可哀想なのだ。今日なんて資産家の一人が億に迫る金額を出して一位と二位の座を手にして十四秒のお話タイムを手に入れたが、西香の方は適当にあしらっただけである。資産家の方は泣いて喜んでいたしWin-Winなのかもしれないが。
西香「どうしてなんですの……?わたくしはこんなに毎日あなたに嫉妬されようとしていますのに!あなた、もしかしてわたくしの事嫌いなんですの?」
話が飛躍している。自分は西香に、嫌いならこんな風に手伝いなんてしないと言う。西香は他に手伝いの人を入れていなくて、全ての荷が自分にのしかかってくるのだ。西香が嫌いならそんな役目は負えない。守銭奴の彼女は日給で五百円しかくれないことも加味して、嫌いならここにいない。一緒にいるのはしょうがない彼女を嗜めたいというか、多分教師のような心持ちなのだろう。
西香「じゃあ、わたくしの事好き!?」
いや何故そういう話になるのだ、と一歩引いた自分に彼女は詰め寄ってくる。
西香「うぅっ……どうしてなんですのぉ……わたくしはこんなにあなたのことを操りたいと考えてるのにぃ……どうしてそんな風に……っ、わたくし、四六時中あなたの事を考えて、ずっとずっとあなたに嫉妬されたいって思ってますのに!」
その言葉にとてもこっ恥ずかしくなってしまう。彼女は自分の考える意味で言っているわけはないのだろうが、まるで愛の告白だと思った。もしかして好きなのかと、茶化し聞いてみる。
西香「好き……?これは好きということなんですの?ただあなたを理解して、もっとかまってもらいたいだけなのですけど……好き?」
首を傾げている西香。不意に、少しだけ可愛いと感じてしまった。いや、正確にはいつも見た目だけは可愛いのだが、そのいじらしさに小動物的な愛情を覚えたとでも言うのだろうか。
西香「じゃああなたは、わたくしがあなたの事を好きって言ったら、もっとわたくしのすることに嫉妬してくれるんですか……?」
不覚を取って思わずどもってしまった自分の言葉に、西香はニヤリと表情を作った。
西香「えぇえぇ!実はそうなんですの!わたくしね、あなたのことが好きなんですの!ずーっとあなたのことを考えて、どうすればわたくしに振り向いて、嫉妬してくれるかを考えてますもの!だからわたくし、あなたのことがだ~いすきですわ!……あら、なんだか顔が熱くなってきますわね……何故かしら……」
この生来悪の彼女が何を考えているのかはわからないが、両手で頬を抑えて顔に現れた紅潮を抑え込もうとする様子は見ていられないと言うか。西香は人の行動の意味なんてほとんど考えないから、自分は更に茶化すようにハイハイと適当な相槌で誤魔化そうとしたのだが……。
西香「ねぇ不思議ですわよ!わたくし体があっついの!ほら手を持ってくださいな!」
西香はこっちの気持ちの変化などお構いなしに両手でこっちの手を握ってきた。これでは否が応でも反応が出てしまう。
西香「あなたのことを考えるとたまになるんですの!悔しさからかしら?って、あなたも真っ赤っかですわね!わたくしと一緒ですわ!」
そんな彼女の態度に、どうしても平静を保っていられずに顔を逸らしてしまった。きっと表情は焦りみたいなものを滲み出していたのだろう、西香はそんな自分を見て楽しそうに言った。
西香「あら!あらあらあら!なんだかその反応は気持ちが良いですわね!なるほど、これは嫉妬させるのとは違う意味でわたくしの心を充足させますわ……!あなたの弱点!掴めましたわよ!」
そう言って、西香は今度は手を繋ぐだけでなく腕を絡め取ってきた。いくら彼女の性格が悪いのを知っていてもこれは別の意味で毒になっている。
西香「ファンがいるときは出来ませんけど……二人っきりのときは存分にくっついて差し上げます!それでわたくし以上に朝から晩まで頭から離れないのを悩みなさいな!そ、そうしましたら……」
彼女は一呼吸起き、紅潮した頬でこちらの目を見てこう言った。
西香「あなただったら、わたくし公認の一番のファンにして差し上げますわ!」
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今日は8文字、3つの単語、1つの意味を持つ言葉の日で、それが意味する所のI Love Youの日です。好きな人に告白したり、好きな人に改めて好きを伝えるとか。
なお、上の文章はフィクションであり、実際のなにがしとはおそらく関係はありません。