2019年8月28日 民放テレビスタートの日
2019年8月28日
その会場は黒を基調としたテーブルや椅子が用意され、柔らかい暖色の明かりが広がって、慎み深さを演出していた。だが会場にはそれなりに人がいて、部屋中央のテーブルに向けてカメラを向けている。そこにいる人物の一人が、何かの指示を合図に言葉を発した。
「真実ドキュメント、"その時、歴史はファンアート"。本日も始まりました。本日取り上げるのは五人少女シリーズでおなじみ、最強の格闘家でもいらっしゃいます、アクティブ脳筋系美少女の留音さんです。どうぞこちらへ!」
留音「どうも。よろしくおねがいします」
収録会場は厳かな拍手で留音を迎え入れ、それに留音は照れくさそうに軽く手を上げ、会釈で応えた。
その会場の中には真凛、衣玖も来ている。西香は嫉妬から辞退したようだ。
「えー、早速ですが気になってる方も多いことでしょう、始めましょうか。留音さんと言えば、不可能に思えていた"五人少女シリーズにファンアート"という偉業を達成したことで世間に名を馳せた事が記憶に新しいところですが……この事実について留音さん、どうですか?」
留音「えぇ、あはは、恥ずかしいですね(笑)まぁもともとあたし、私達っていうのは、冗談の範疇で……いや、本当に来ればいいなぁとは思ってたんですけど、それくらいでしかファンアートについて認知してなくて……そうですね。本気で来るなんて、思ってはいなかったので……"まさか!"という感じでしたね」
会場の隅で衣玖と真凛がボソボソと喋る。
衣玖「何あの喋り方。なんか腹立つわね」
真凛「仕方ないですよぅ、きっとインタビューみたいなのってああいう感じになっちゃうんです、番組とかもあんな感じじゃないですかぁ」
「はぁー……つまり最初はそう期待してもいなかったんですね?」
留音「そうですね……だってほら、あたしたちはビジュアルはめちゃくちゃ可愛いんですけど、やってることはね、……可愛いとは、ちょっとね(笑)それを文字だけでやってるわけですから、そういうところはどうしても懸念材料だったというか……はい」
「なるほど……そうして活動を重ねるうちについに、ファンアートをもらった、と言うことなんですが……じゃあそのファンアートをですね、ちょっと今日はこちらで用意させてもらったので、出しますね」
留音「あ、はい///」
「いやぁ……可愛らしいですね。どうですか?留音さんはファンアートが来て、何か生活が変わられたりはしたんですか?」
留音「あっ、そうですね……いやぁ、暇さえあれば眺めちゃうといいますか、ね(笑)すいません、照れちゃって。ほんと可愛くて……」
衣玖「私たちは一体何を見せられてるのかしらね」
真凛「……あっ、ごめんなさい、ちょっと寝てました……」
「そんな中で、今留音さんは五人少女内部分裂の危機にも直面しているようですね」
留音「……えっ?そうなんですか?」
「えー、本日は番組内容を変更いたしまして、特番"五人少女、パワハラで解散の危機"をお送りしたいと思います」
衣玖「あれ」
真凛「様子が変わりましたね?」
広い会場に待機していたスタッフたちが一斉に留音の言葉を一言一句逃すまいという気迫で詰め寄って行った。
「どうやらここ数日、留音さんはファンアートを持ってメンバーにかなりのパワハラを行っている、という内部告発がありました。連日"ファンアートをもらった"という言葉を連呼し、貰っていない同居人に圧政を敷いているそうですが、それは本当ですか?」
留音「えっ、なんだそれ?!してない!そりゃちょっと言っちゃうことはあったけど……」
会場内にパシャパシャ!と響き渡るシャッター音とフラッシュの光。
「それはパワハラを認めた、ということでよろしいんですね?!」
留音「おおい!なんだこれー!おい衣玖!真凛!どうなってんだこれは!?」
真凛「知りませんよぉ……」
衣玖「西香でしょ、犯人」
「留音さん、あなたはその発言が他の同居人の方に多大な心的苦痛を与えているとは思わなかったんですか?!」
留音「知るか!嬉しかっただけだし、なんなら場を和ませる冗談のつもりっていうか……っ」
パシャパシャパシャ!!
留音「やめろー!カメラやめろー!そこ!テープ回してんちゃうの?!」
衣玖「……ネタがちょっと時期外してるわ」
「西香様はとても苦しんでいるんですよ!?何か謝罪の言葉は無いんですか!!」
留音「おー!お前!何だSaikaTVって聞いたことないぞ!!?完全にあいつの手先じゃねぇか!」
真凛「なんだか最近の留音さん、こういう感じ続きますね~」
衣玖「そうね。でもいいんじゃない、なんか楽しそうだし」
真凛「ところで衣玖さん、今日って何の日だったんですか?」
衣玖「民法放送が始まった日よ」
真凛「は~、それで今日はドキュメンタリーとかニュース風なんですねぇ~」
衣玖「これは多分バラエティだと思うけどね」
「たった今、留音さんが重要参考人として連行されていきます。栄枯盛衰とはこの事でしょうか。あまりにも早い失墜でありました」
留音「うわ~!やめろ~!あたしはファンアート貰ったんだぞ~!うわ~」
西香「ふッ……ざまぁないですわね……わたくしより先に幸せになるのが悪いのよ……」