2020年10月14日 シャールネック・ホームズの冒険2
2020年10月14日
数十メートルも続く崖を、ザーザーをものすごい音の水が叩きつけるように流れている。
ここはライヘンバッハ。落ちたら真っ逆さまに水しぶきに消えていきそうな断崖で、シャールネックはある人物に対峙していた。
その名はシャールネックに勝負を挑んだ天才的犯罪者、イーリス・モリアーティ。
イーリス「くっくっく……よくぞここまでたどり着いた。褒めてあげるわよ、シャールネック・ホームズ」
勢いよく流れる水の飛沫が、かすかにだが2人に届くことがある。おかげで周囲の温度は低くなっており、その場の2人を冷たく包んでいる。
シャールネック「……あ!? なんか言った!?」
イーリス「くっくっく!! よくぞここまでたどり着いたって言った!!」
シャールネック「え!? チキンでも食べんの!?」
滝はとんでもない騒音を飛沫よりもずっと撒き散らしており、2人の会話はほとんど成立していない。
イーリス「そう!! 褒めてあげる!! で・も!! この犯罪王を追い詰めた気n」
シャールネック「確かにチキンはいいなーーー!! これここで話さないとだめかー!?」
イーリス「はーーはっはっは! 馬鹿め! お前に明日など来ないぞ! お前はここで落ちて死ぬのだ!!」
シャールネック「ここで話さないとだめなのかー!?」
イーリス「……あっ、ここで話すかどうか聞いてるのか。確かにうるさいわ。……じゃあ、"氷結魔法"!」
ここで滝は凍りつき、凍った水しぶきが地面に叩きつけられて儚い破砕音が数秒続くとその場には完全な静寂が訪れた。
イーリス「さぁシャールネック……あたしの最後の犯罪の推理を聞こうじゃない」
シャールネック「いいだろう。先日の西香殺人事件、そして次に起こった西香消失事件、それから最後、わざわざあたしの目の前で起こした西香失踪事件……それらは全てお前の仕業だ」
イーリス「だけどね、それら全てに証拠はない。なんて言ったって全ての事件であたしは現場から遠い場所でのどかにバカンスをしていたのだから」
イーリスは懐から写真をひらりとシャールネックに投げ渡した。そこにはそれぞれ、事件当日、どんな移動手段を使っても不可能な距離のリゾート地で撮られた場所でイーリスが撮影されている。
シャールネック「そうだ。お前に西香の事件への関与は出来ない……そう思っていた。つい先日まではな」
イーリス「……なんですって」
シャールネック「気付いたんだよ。この事件、お前に魔法の能力があれば全て可能だってな」
イーリス「ま、まままま魔法ですって!?」
シャールネック「そうだ。なんらかの魔法によって西香を殺害したり消失したり失踪させたりするなんて簡単だと、あたしはそう考えたというわけだ」
イーリス「し、しかしよシャールネック……そんなものただのイチャモンよ。あたしが魔法を使ったという証拠は出ないのだからね」
シャールネック「ふっ……だろうな、そういうと思ったよ。だが……あたしはなイーリス、お前をわざわざこのうるさいライヘンバッハの滝に誘導したんだ。どうしてかわかるか」
イーリス「……はっ!!!」
イーリス・モリアーティは自ら魔法により滝を凍らせたことを思い出した。眼前には凍りついた滝が静かに2人の話を聞いている。
シャールネック「そうだ。こうしてお前が魔法を使えるということを証明するためだ。あとはこの証拠を裁判とかに出してなんやかんや推定有罪みたいな感じでお前を有罪にする。終わりだイーリス・モリアーティ」
イーリス「まさかそんな頭脳プレイが出来たとは思わなかったわよ。ならばこれでどう!」
イーリスは再び滝に魔法をかけると、何事もなかったかのように滝は水流へと変わるのだ。
シャールネック「あ!!! ずっりぃ!!! しまった~~! 戻すことを考えてなかった~!」
イーリス「はーはっはっは! どうやら悔しがっているようね!! よく聞こえないけど!!」
シャールネック「え?!!! なんだって!?! ちょっともう一回!!」
イーリス「あ!?」
シャールネック「もう一回!! 滝 凍らせて!!!」
イーリス「……仕方ない」
こうして再び静寂が訪れる。
イーリス「見た? あたしの魔法を。あんたには証明できない。あたしの完全犯罪はね」
シャールネック「どうやらそうらしいな。じゃあ仕方ない……拳でわからせるしかないようだな!!」
イーリス「あ! それは卑怯!! あーー!!」
イーリスはシャールネックに組み付かれ、滝壺に真っ逆さまに落下していく。完全に凍りついた滝壺へと。
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しばらく後のこと。
イクソン「はぁはぁ……あ、あれは……」
イクソンは最後にシャールネックの影を確認されたライヘンバッハの滝までたどり着き、そしてつい先程まで2人がいた断崖に立っていた。
そこはこれまでに飛んできていた水飛沫から足元の土が柔らかくなっていたこともあり、2人分の足跡確認することが出来たのだ。
イクソン「シャールネックの……プロテインシェイカー……そんな……」
断崖の岩陰に見つけた、シャールネックの愛用のシェイカーを手にとったイクソン。足跡の具合からして、最終的に格闘戦となった2人は足を滑らせてこの凍りついた滝壺に真っ逆さまに落ちていったようだ。
完全に地面と一体化した氷。ここから落ちて無事なものなどいるわけがない。よっぽど身体が頑丈でなければ。
イクソン「シャールネック……」
悪のカリスマと共に永遠に無くなったシャールネックを想い、イクソンはしばらく放心した。
だが法の守護者・シャールネックの活躍はきっと民衆の記憶に残っている。シャールネックこそ、イクソンが尊敬し続けた賢明な素晴らしい人物なのだ。




