9月5日 計画と実行の日 Ver.ミニーズ
2020年9月5日
アンジーちゃんの場合
「(ボクはやっぱりいちばん可愛くありたい……でも最近、というかほぼ初っ端から、ずっとフォロー役に回ってばかりで損をしている気がする)」
アンジーは一人物思いに耽っていた。可愛さの表現について。自分の可愛さについて。男の娘でありながら一番可愛いとされるための計画を練っているところらしい。
「(作戦が必要だ……見た目はもう十分に美少女なんだから、後は……なんだろう、守られる感じ……これはもう出来てる……周り強い子ばっかりだし……)」
アンジーは難解な推理を巡らせるシャーロック・ホームズばりに難しい表情で固まっている。
「(か弱さでしょ……ボクが一番か二番で華奢まであるし……やっぱりきゃるるんパワーを全面に……そうだよね、たまには積極的に見せていかなきゃ。ボクが露骨に狙ってあざといのって一番しっくり来るはずなんだから……)」
そんなこんなで西香を目の前にして。
アンジー「あっ! 西香ちゃん! やっほーきゃるるーん☆」
新しい挨拶らしい。目からハートマークでも散らせていそうなウィンクと、長くてきれいな指を見せるようなポーズで
西香「うわぁ、な、なんですのいきなり……奇妙な挨拶をして……」
西香はカラダをビクッと強張らせ、一歩引きながらそう言った。
アンジー「奇妙なんてひどいなぁ。ボク最近あんまり可愛いところ見せられてないから、これ新しい挨拶にしようかなって」
西香「へぁあ……やめたほうが良いですわよ……キャラじゃありませんもの……なんというか、ママっぽいアンジーさんには向かないムーブですわよそれ……わたくしが言うなんてよっぽどですわ……」
アンジー「えっ……ママ、っぽい……?」
西香「うるさい童を二人も統率しているじゃありませんか。あなたまでそんなんなったら手に負えませんわよ……おーこわ」
アンジー「ママ……」
やはり固まってしまった何かを壊さねば。アンジーは強くそう思った。
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イリスちゃんの場合
イリス「(ふっ……我ながら完璧な強襲計画ね……さてそろそろか)」
イリスはとある道の木陰に身を潜め、ある人物を待っていた。
イリス「(まさかジョギング中を狙われるとは思うまい。日課が仇になったな、留音……!)」
というわけで、留音への先制攻撃のため、隠れながら魔法を腕にチャージしている。相手が来たら飛び出して、驚いている隙にどかんと大きなのを食らわせて、そのまま畳み掛けて倒してしまうという計画は、留音が見えてきたことで実行に移ろうとしている。
留音「ほっほっほっほ……」
留音は早めのリズムでジョギングをしており、今は走っている中でも疲労と苦しさを感じなくなった一番良いところだ。この辺は木々が茂っているため、緑の匂いと影を通った風が心地よく留音を包んでいる。
そんなところで。
イリス「(いまだ!!)」
イリスがババっと、留音の前に飛び出していった……のだが、
イリス「ぶわぁ!」
道と木々の間には浅い仕切を使って整地がされており、イリスは見事にそれに引っかかったのだ。留音は飛び出してきたイリスを見えていたし、驚くどころか「あ、イリスだ。また変なこと企んでるな。っていうか足元あれ危ないんじゃないかな。あ、やっぱり引っかかった。転びそうだなぁ」まで考える余裕があった。
なのでジョギングで身体全体に熱が周っている状態の留音は、少し加速して転ぶイリスを受け止めた。ただ、イリスは魔法をチャージしていた腕に妙な重心があったのか、留音も思ったように腕で受け止められず、身体で支えるような形になった。
イリス「(やわら……ハッ!)」
留音「だいじょぶか?」
イリスは留音から身体を引き剥がし、一歩距離を取る。それから少し時が止まったように固まった後。
イリス「喰らえ!!!!」
とりあえず留音に一歩分の距離から魔法をリリース。かなりの速度で飛んでいった魔法だが、至近距離にも関わらずひょひょいと留音はそれを片手で弾き飛ばした。この次もあったような気がするのだが、イリスは頭がまわらない。
イリス「……覚えてろ!!!」
もう恥ずかしいやら何やらでイリスは走って逃げ帰っていった。
留音「なんだあれ」
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聖美ちゃんの場合
聖美「(ふふっ……我ながら完璧な強襲計画……さて、そろそろだ……)」
お次は街角にて。聖美は曲がり角のすぐ近くで携帯を触りながらある人物を待っていた。
聖美「(なんでこんな簡単なことに気づかなかったんだろう。曲がり角でのハプニングはとっても自然なことだって)」
というわけで、いわゆるラッキースケベ待ちの聖美である。ここは商店街と五人少女宅をつなぐ道で、そろそろ真凛が帰ってくる。そこにちょうど鉢合わせ、転んだふりをしてダイブしようという作戦らしい。
聖美は耳を澄ませて真凛が通りかかるのを待っている。
真凛「……今日はお魚が安かったので、煮魚を作って……」
聖美「(来たっ!)」
しかもこれは僥倖、真凛は誰かと喋っている。この時間、西香は家にいるし留音はジョギング、衣玖はほとんど家から出ない。ならば真凛の話す相手は一人! 聖美はドキドキと男子中学生のように一人で盛り上がっている。どうする!? 行っちゃう!? はぁはぁ! そんな具合である。
そして一番よい足音の大きさで、聖美はついに偶然を装って足をもつらせながら躍り出た。
聖美「あぁ~! 躓いたぁ~!!」
しかしここで衝撃。真凛の横に居たのはあの子ではない。衣玖だった。めったに家から出ないのに。しかし何かのマンガで見た。今日しかないという日に限って相手は予想外の行動をするものだと。
聖美「(おのれ衣玖ちゃん! でもいい! この軌道上だと真凛ちゃんに突撃するのはもう不自然……それに後で怒られるリスクがある……ならばいい! このまま衣玖ちゃんの胸に! ええいままよ!!)」
聖美「うわぁ~~っ」
衣玖「うわぁっきよっ……」
聖美は頭から衣玖の胸に突入した。
……ガチン!!
聖美「……ったい!!(訳:痛い!)」
真凛「えぇっ、大丈夫ですかぁ? もんの凄い音しましたけど……」
衣玖「えぇ~っ……」
聖美は頭を擦っている。当たりどころが悪かったのか、たんこぶが出来るかもしれない。
聖美「いたたたた……」
衣玖「そ、そんなに痛くないでしょ……私は全然痛くないんだけど……」
真凛「でもガッチン言いましたよ。聖美さん大丈夫ですかぁ……?」
聖美「う、うん大丈夫……いた……いたぁ……」
下心にバチがあったたというものだろう。聖美は本気で痛がっている。
衣玖「……そんなに痛がる……? 壁に頭打ったわけじゃないし……」
聖美「ごめぇん……あ~っ……スゥーッ(息を吸う音)……ったぁ……」
真凛「コブにならないかな……でもどうしてこんなところにいたんですかぁ?」
聖美「ううん、たまたま……ごめんね、ちょっと……頭冷やしてくるね……スゥー……」
聖美はトボトボと近くの自動販売機へ行き、冷たいお茶を買って患部に当てることにした。
衣玖「なんか……私はショックを感じていいのか悪いのか……そんなに痛がる……?」




