2020年7月26日 幽霊の日 Ver.ミニーズ
2020年7月26日
聖美「……ってことなんだって」
アンジー「うわ~こわーい……幽霊だったのかなぁ……」
イリス「(ブルルッ……)」
長い日の差す夏の夕方、電気をつけなくても普通に過ごせるような明るい時間だが、カーテンを締め切った聖美の家では今日の幽霊の日にちなんで怪談話で盛り上がっている。
一応、気持ちとしては百物語のつもりだ。ただ三人ではそんなにレパートリーも無いので、十五物語ということで、聖美、アンジー、イリスの順番で自分の持っている怪談を披露している。
ろうそくも十五本用意したわけではない。一本のろうそくに十五本のマッチが用意され、話の度につけて消して、というようにしているようだ。
アンジー「じゃあ次はボクだね。うーん、何の話にしようかなぁー」
聖美「わーっ、楽しみー!」
イリス「……なんで二人ともそんなに怖い話持ってるの……」
アンジー「文化圏の違いだと思うよぉ」
ちなみに、イリスの幽霊話は「最終的に死霊使いに退治された」なんて落ちがつけられてしまう。
アンジー「えっとじゃあ、これは友達から聞いた話なんだけど……友達のお父さんが昔入院した病院でのことなんだけどね」
聖美「うん」
アンジー「病気を治すための入院だったんだけど、お父さん自身は元気に振る舞えるくらいだったんらしいのね。それでその友達は本当にまだ小さくて、両親の目を盗んで病院内を探検するのが好きだったらしいの」
イリス「うん……」
聖美「元気だ」
アンジー「それでね、病院内をパタパタ走ってると、すごく細い体のおばあさんが話しかけてくるようになったんだって。お父さんは1ヶ月入院してたんだけど、毎週2回尋ねてたんだって。で、ほとんどそのおばあさんが話しかけて来たのはすごく覚えてるって言ってて……」
イリス「なになに……何が起こるの……?」
アンジー「うん、で、おばあさんは子供に言うんだ、その部屋を出た先にある階段を一番下まで降りていったら行けないよって。聞いてないのに必ず毎回聞かされたんだって。友達はどうして? って聞くと、おばあさんは楽しそうになんでだろうねって、毎回はぐらかしてきたらしいの」
聖美「なんなんだろう……」
アンジー「それで、お父さんが退院する日。最後の準備の間に友達はおばあさんに挨拶しようと思っておばあさんの部屋を尋ねていったんだけど、おばあさんはいなくてね、どこか外に居るのかなって探そうと思ったら、例の階段の方に歩いていくのが見えたんだって」
イリス「うわ……」
アンジー「友達はおーいって声をかけながらおばあさんを追いかけたの。おばあさんはどんどん下に降りていくから、友達も一緒に下へ降りていって……でも全然追いつけなかったんだって。入院の部屋は3階にあったんだけど、どんなに降りても追いつかなかったって。それで地下まで降りようとした時に、看護師さんに見つかって、コラって。地下は立入禁止だよって怒られて戻っていったんだけど……」
聖美「おばあさんは……?」
アンジー「うん。それで3階のナースステーションでね、おばあさんに伝えてくださいって手紙を書いて渡したんだって。もう来れないけど、おばあさんの病気も治ると良いねって」
イリス「うん……」
アンジー「そうしたら手渡した看護師さん、少し驚いた表情でその手紙を受け取って頷いてたのを覚えてるって……でも帰るときにナースステーションの奥を見たら、そのナースさんが友達の渡した手紙を箱に詰めているのが見えたんだって。そこには何枚も手紙が入ってて……後日お父さんの検査で病院に無理やりついて行って、おばあさんのいた病室に行ったんだけど……そこ、部屋がなかったらしいんだ」
聖美「ひぇぇ……」
アンジー「じゃあ自分は誰と話してたんだろうって、看護師さんに聞いたらしいの。そしたらね、子供の入院患者とか、よく来る子がたまにその人の話をするんだって。それで『もしかして地下に連れて行かれそうになった?』とも言われて……友達は連れて行かれそうではなかったけど、ついて行ったよって。看護師さんはやっぱりねって。みんなそうだったみたいなんだ……地下には霊安室があるんだけど、なぜだか子供がそこに向かうって……」
イリス「なんで……?」
アンジー「そこまではわからないけど……友達は悪いイメージはなかったけど、おばあさんが一体何をしたかったのかはわからないって。もしかすると、連れて行きたかったのかなぁ、とか思ったりするけど……真相はわからないね」
アンジーはフッと息を吹きかけ、ろうそくの火を消した。
聖美「不思議で怖い感じの話だったね……」
アンジー「うん。それでね、まだ続きがあって……その病院って新しくなった場所なんだけど、立て直す前の写真見るとちょうどおばあさんの居た部屋の辺りにはちゃんと病室があったんだって。だからどうってわけじゃないけど……」
イリス「意味深ね……はぁ。しんどいわね……」
アンジー「まぁそんな感じ。……あっ、終わりみたいだね。うーん楽しかったねー、十五物語」
イリス「あたしもっとレパートリー増やしたいっていうか、二人みたいにゾゾゾってする話がほしいって思ったわ」
聖美「イリスちゃんのも楽しかったよ!」
アンジー「うんー! 魔法界の怪談なんて新鮮だし!」
イリス「まぁ楽しんでもらえたなら……で、このとりあえず私達の幽霊の日の日めくりは完了ね」
聖美「そうだねー。百物語だと話してるうちに怪奇現象が、とかあるみたいなんだけど……何もなかったねぇ」
アンジー「イリスちゃんが幽霊も倒せちゃうって話すから怖くて出てこれないのかもねっ」
イリス「まっ、五人少女共の日めくりを上書きしたってだけで満足よ。じゃあ今日はもう終わりね」
ということで怪談話を楽しんだミニーズだった。
マッチが一本消えていることには気づいていない。




