最終回の話 6
全員の救助から数時間後のこと。
真凛「へぇ~! わたしもその次元は観測してなかったかもー!」
衣玖「面白いわね。私達が演じられてる世界なんて」
留音「役者がそっくりってのは面白いな」
西香「マミさん。あぁマミさん、マミさぁん……なんて美しいのかしら……あなたがお友達になってくれてわたくし、本当に嬉しいですわ」
9人は奇妙な形で対面している。これまでの経緯も話しきってすっかり団らんタイムになっている。どうやら時間位相がおかしかったために、真凛たちにとっては失踪したと言われても数分の出来事だったそうだ。その話はすっかりさっぱり終わって、みんな来訪者に夢中だった。
留音「しかしなぁ。あたしはなんか気弱っぽい感じだし、衣玖はホントに子供だし、真凛はサバサバになってるし……西香はすげーまとも……に見えたのに……」
衣玖「西香の事知ってるのよね? なんで友達になるなんて言い出したの?」
マミ「……他のみんなにはあなた方を理解するタイミングがあったのに、あたしにはなかったからです。きっとこうして本物の西香さんと友達になることで私は彼女を真に理解しないといけない……そう思って」
そうじゃないと私には最終回が来ない、マミは本気でそう思っているようだ。
真凛「やっぱりどっかおかしい☆」
西香はまぁっ! と嬉しそうに手を叩いて言う。
西香「あぁマミさん! わたくし嬉しいですわ! こうやって隣に並んでも……ってちょっと待ってください。
映えはしますけど、同じ顔じゃありませんの。わたくしが目立ちませんわね。というかそもそも、わたくしのお友達はわたくしよりも明らかにブス。ちょうどいいブスじゃないと成り立たないことを忘れていました」
どうしましょう……真剣に頭を抱える西香に、マミは凛とした表情で告げた。
マミ「大丈夫です。化粧を少し下手にやります。友達にしておいてください。あなたのことをもっと知りたいんです」
すると西香は再び表情をぱぁっと明るくさせて言う。
西香「……聞きましたか皆さん! わたくし役の方、わたくしにメロメロ!! 一番のお友達になれっ……ってちょっと待ってくださいマミさん。
許しませんわよ、わたくしのお顔で化粧を下手にするなんて。完璧なお顔立ちです、化粧を下手に、なんて万に一つも許されますか。だいたいあなたがブスになるということは、わたくしにもブスになる死角があるということになるじゃありませんの。何を考えているんですかあなたは。もう少し考えて発言してください」
マミ「あっ、ご、ごめんなさい……そうでした。西香さんは一番の美少女ですもんね……すいません……っ」
一番の美少女だという言葉に気を良くした西香はまたもニッコニコになって大声で言う。
西香「もー! やっぱりわたくしの事いっちばーん、理解してますわねっ!! いいんですのよマミさん、そんな深々と頭を下げ……いやちょっと待ってくださいマミさん、そんなの許しませんわよ。
何をわたくしと同じ顔をして頭を下げているのですか。わたくしが謝ってるみたいで気味が悪い。わたくしがそんな簡単に謝らないのはわかっています? あのですね、わたくしは中心。宇宙の真ん中に根付いた世界樹。いわば世界。ここからすべてが回っているのです。何故謝らなければならないのですか。わたくしがトレンドですわよ。あなたはわたくしではありませんが、わたくし的なあなたはちゃんとそういった自覚を持ってもらわないと困りますわ」
何を言っても緩急をつけて否定してくる西香に、マミはついに過呼吸を起こしながらあわあわと手をバタバタ動かしてどうしたらいいのかわからなくなっている。
留音「なんだこいつら怖い」
衣玖「放っておきましょう。それにしても……ネムちゃんはすごくよくやったね。偉い偉い」
ネム「ありがとう、衣玖……ちゃん?」
衣玖「遠慮しないで衣玖お姉ちゃんって呼んでね。年齢は私の方が上なんだから。双子の妹みたいで可愛いわ」
ユウカ「真凛ちゃんのお菓子食べたかったなぁー」
真凛「また来てくださいね^^ 次のときは用意しておきますから♪」
留音「リンコもよくやったな。手合わせでもしとくか?」
リンコ「え、遠慮しておきます!」
そうしてこの日、9人はそんな風にお互いを知る機会を楽しんで……。
衣玖「さて……じゃあそろそろ。名残惜しいけど、みんなを元いた場所に返さないとね」
真凛「そうですね~……」
ネム「帰れるの……?」
ユウカ「でも私達、多分あっちで死んだからこっちに来たんだけど……」
留音「ナイナイ。死んだ人が死んだままになったことなんてあったかよ。五人少女だぞ?」
西香「はぁ~。皆さん理解が足りませんわね。特にマミさん、あなたは初めてお友達失格になりそうですわよ。全然わたくしの事を理解してませんわ。わたくしの鼻につくことばっかりやって。でもまぁ、見どころはありますから、元の場所に戻ったらわたくしの勉強のためと思ってしっかり演じてきなさいな」
マミ「は、はい……精進します……」
リンコ「どうやって戻るんですか……?」
衣玖「ちょうどさっき開けた穴が次元を歪ませる穴だったみたいだし、あれ使って戻れるでしょ。というわけで真凛」
真凛「はーい、ちょろいもんです☆」
真凛は予備動作無しで時空をこじ開けた。わぉとユウカが拍手している。
留音「あ、そうだ。おまえたちがやるあたしらの……番組? 最終回なんだろ?」
リンコ「はい……」
留音「それは好きにやってよ。番組は終わっちゃうのかもだけどさ、でもあたしたちはずっとここで暮らしてるし、好きにのんびりやってるからさ。そう思ってやってくれたら嬉しいかな」
衣玖「そうね。あんまりしんみりする必要も無いし。その事忘れないでね」
西香「いいですかマミさん、美少女は年を取りません。リピーツアッフトゥミー」
マミ「美少女は年を取りません」
西香「よろしい。常に自分は特別な美少女であると心に刻みなさいね。あなたはその辺の矜持が足りてませんから」
マミ「は、はい! ありがとうございます!」
西香「わたくしはそう簡単にお礼を言いません」
マミ「す、すいません」
ユウカ「まだやってるよ……。ま、楽しかったよ、みんな。ありがとね。あなたも」
あの子「(*^^*)」
真凛「よーっし、それじゃあそっちの地球に送りますね~。あ、うーん……事故がなかったことにしちゃうと……」
衣玖「時間整合と改変なら任せて。こんな事もあろうかとさっきそんな感じのがなんかうまくいく感じの装置作っといたから。じゃあまたね、ネムちゃん。いい女になるのだな……」
ネム「う、うん……?」
こうして四人はやがて五人少女達と別れて自分たちの世界に帰っていった。
「最高の最終回をよろしくね」
その言葉を胸にして、まさにそのための旅だったのだ。
こうしてマミらの演じる「まいにちニコニコ! 日めくれ! 五人少女!!」は無事に最終回の収録が始まった。
もう終わるけど、みんなはしっかり生活してる。だから終わっても終わりじゃないと想いながら、マミたちは心から彼女たちを演じるのだった。




