2020年7月4日 解放者ルネ ~お直しの日を解放せよ~
2020年7月4日
衣玖「準備は整ったわ。そっちも大丈夫ね」
ルネ「あぁ。あたしが変えてくる、全てを」
解放者。それは記念日を解放する者。今日は一体なんの記念日を解放するというのか。
衣玖「本当は止めたい……でもこれだけは、解放者、あなたにしか出来ないこと……」
相変わらずこの回には妙にヒロインぶる衣玖が、風に揺れるマントを着けたルネの背中に向かってそう言った。
ルネ「わかってる。大丈夫だ、ちゃんと解放して戻ってくるよ、お直しの日をな」
今回の解放者の役割はお直しの(0704(おなおし))日を解放すること。それも衣玖の作ったタイムマシンを使い、過去に戻って。
この時空は、今読者が読んでいるであろう時空とも、これまでの衣玖たちが過ごしてきた時空ともまた少し違う次元、いわゆる強いパラレルワールドというべきか、そのような時空での出来事だ。そして同時に、読者らが近い世界を通るはずだった、とも言える。
どういうことかは後述する。
衣玖「よし、ルー、座標の確認も間違いない。大量のお直しの日発動のきっかけとなった特異点の目の前に転送出来る」
ルネ「やってくれ」
こうしてルネは飛ぶ。解放者として、時間遡行すらしてみんなのために記念日を解放するのだ。
ルネは四次元のトンネルを単身で通っていく。無限とも刹那とも取れる時間の流れの中で、ルネは手元のメモ帳を確認すると、そこにはこう書かれている。
7月4日の記念日一覧。
ゲーム機お直しの日、洋服お直しの日、テレビお直しの日、エアコンお直しの日、ポータブルDVDプレイヤーお直しの日、人間関係お直しの日、パソコンお直しの日、腸内環境お直しの日、歴史的名画お直しの日、ファッションお直しの日、建築物お直しの日、歪んだ恋愛感情お直しの日、和服お直しの日……
まだまだあるお直しの日。これらは毎年毎年増えており、現在は108まで数が増えている。これらは全て年一で壊れるもののリストに等しい。毎年このお直しの日に適切な機関によって治療であったり修理、修繕を受けなければならない世界なのである。
しかしそれはあまりにもおかしい。そう思った衣玖が調査して判明した事実が、全ての壊れやすさの原因はルネの向かう先にあったのだ。
そうしてリストを読み切る前に次元トンネルが開き、ルネはその日に降り立った。
ルネ「……お前が元凶か……」
その場所は現在の時間軸よりもずっと空気が澄んでおり、空も青々しく感じる。
だがルネの見上げた空に黒い影のような球体が存在していたのだ。
これは破壊の化身。これが衝突することで世界のあらゆるものがだんだんと壊れやすくなっていくのだ。
ルネ「お前のせいで世界のあらゆるものが毎年壊れていくことになった。今は社会お直しの日が作られるか検討されているくらいだ……」
そしていずれは世界お直しの日まで出来るだろう……それが衣玖の未来予測である。それもこれもこの破壊の化身が地球に融合してしまったためである。
ルネ「だからあたしが止める、お前を! あたしは解放者! 記念日を解放する者だぁー!!」
ルネは渾身の力を持って、地球に近づいてきた破壊の化身を押し返し、そのまま超最強波を持って破壊の化身を消し去った。
だが破壊の化身はいくつかのかけらを残していた。それが少しだけ地球に溶けてしまうのを止めることは出来なかった。
ルネ「くそ、逃したか……!」
事が済み、ルネは現代に戻る。衣玖に迎えられ、現在の記念日状況を確認した。
ルネ「やっぱりお直しの日はまだあるか……和服、洋服、パソコン、ファッションのお直しの日……衣玖、もう一度転送してくれ、今度こそ全てのお直しの日を解放する」
4つのお直しの日だけは消すことが出来なかった。
衣玖「いいえ、その必要はないわ。ルー、あなたは十分解放した。ほとんどのお直しの日を消したの」
ルネ「でも衣玖、まだ4つも残ってる……お前だってパソコンお直しの日は迷惑だろう? 毎年パソコンが壊れていたら……」
衣玖「ううん、あなたは成功したのよ。お直しの日を起こした破壊の化身の欠片は、既にほとんどの力を失っている。あなたが撃ち漏らした欠片は、単なる名称的な記念日として残るのみになった。だから基本的にパソコンは毎年壊れなくなったの」
ルネ「でも衣玖、ファッションお直しの日は? お前のその超天才と大きく胸に書かれためちゃくちゃダサいシャツはお前のファッションセンスが壊れている証拠になるんじゃないのか?」
衣玖「これはわかりやすい個性の演出よ。私のファッションセンスが壊れているわけではない。だから安心して。もうパソコンはあんまり壊れない」
ルネ「そうか……じゃあやったんだな、あたしは」
衣玖「えぇ。記念日を解放した。よくやったわね、ルー」
こうして日本には四つのお直しの日が残るのみとなった。そして、この変革があった世界を、今の読者は生きているのだ。この一人の解放者のおかげで。
破壊の化身による年一破壊という概念は無くなった。解放者が破壊の化身を消し去り、ほぼ全てのお直しの日を解放したから。
これからはそれなりに丈夫なものが出回るだろう。もちろん粗悪品は壊れてしまうだろうが。
しかし人は忘れてはならない。破壊の化身の小さな概念は地球に取り憑いているということを。
いずれ破壊の化身が力を強めれば、社会お直しの日、世界お直しの日が作られるとも限らないのだ。何か壊れた関係があれば、お直しの日は一つの修復のきっかけになるだろう。




