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2019年8月23日 不眠の日 一緒に寝てみる? 衣玖編

2019年8月23日


 衣玖(いく)は一人、夜遅くのリビングに現れた。音を殺しているのはその家に住む他のみんなが寝静まっていることに配慮してのことだろう。だがリビングには先客がいた。


衣玖(いく)「あら。あなたもまだ起きてたの?」


 寝間着姿の衣玖(いく)はトボトボと冷蔵庫まで歩き、その中から豆乳を取り出すとコップに注ぎ、あなたの座るテーブルの隣に座る。


衣玖(いく)「眠れないの?」


 あなたは頷いて、衣玖(いく)が来るまで遊んでいたスマホゲームの画面を切った。


衣玖(いく)「まぁ、暑いしね。暦上は今日から少しずつ涼しくなっていく処暑(しょしょ)に入るんだけど……暑いもんは暑いわ。私も暑くて眠れないしね」


 一応、エアコンは入れているのだけど、とあなたは説明する。


衣玖(いく)「寝るときも朝まで自動運転でつけっぱなしがいいわよ。でも体に風は当てないようにね。風邪引いちゃったり、体のストレスになるかもしれないから」


 あとはスマホは駄目、とあなたの手元を見ながら豆乳を啜る衣玖(いく)。光の刺激で目が覚めてしまうと、前にも教わった事がある。


衣玖(いく)「ま、眠れないときに遊んじゃうのはすごくわかるわ。私も眠れる呼吸法とか、頭の中で暗算をする、みたいなのでも眠れないから、結局スマホで遊びがちで……あ、もしかして何か心配なことでもあるの?」


 衣玖(いく)はあなたの顔を覗き込んでそう訊ねた。


衣玖(いく)「……ま、そりゃあるわよね。あなたはあいつらと違って繊細だし。うーん……心配事か。軽い不眠症なのかもね。そっか……お互い大変よね」


 あなたは衣玖(いく)にやわらかく微笑んだ。すると衣玖(いく)は少し俯いて、コップの中に広がっている波紋が収まるのを見ると、おずおずとあなたに視線を移してこう言った。


衣玖(いく)「ん……じゃあ、あなたが良かったらだけど……一緒に布団に入ってみる?」


 その言葉にあなたは身をビクリと震わせた。


衣玖(いく)「何よ、その反応。不安なことがあるときはオキシトシンやセロトニンの分泌が必要なの。あなたが手頃なぬいぐるみでも持ってるなら話は別だけど……」


 どういうこと?と訊ねたあなたに、衣玖(いく)は手をもじもじさせながら答える。


衣玖(いく)「ふわふわのぬいぐるみを抱いたりすると脳に幸せを感じるホルモンが分泌されるの。そうすると心が安定してゆったり眠れるようになるんだけど……人と触れ合っても分泌はされるのよ。お気に入りのぬいぐるみほどではないと思うけど」


 衣玖(いく)は更に視線をあなたから遠ざけるようにしながらリビングの時計をちらっと見やりつつ言う。


衣玖(いく)「ほら、私はこんなナリだから、ギューはしやすいって言われるし……片方の部屋に二人いれば、一部屋はエアコン代もかからないでしょ、私の部屋でちょっと強めに使って……人が眠りやすいのは布団に入った状態で33℃だから、それよりはちょっと暑くなっちゃうかもしれないけど……私も、眠れないし……」


 衣玖(いく)はそう言うと、その小さな体で控えめにあなたを見上げる。少しだけ頬を赤らめているのは、処暑にも残るしつこい暑さのせいなのだろうか。それと同じ暑さを、どうやらあなたも感じ始めたらしい。


 それから衣玖(いく)は少しだけ首を傾げ、この夜のように静かで、でも確かに熱のある声であなたにこう尋ねるのだ。


衣玖(いく)「幸せホルモン……分泌させてみる?」

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