2020年6月25日 在宅の日
2020年6月25日
聖美宅。起動したパソコンの画面が新しい窓を開くと、そこから音声と映像が届く。
留音『……あ、もしもし?』
画面の中にヘッドセットをつけた留音。それを見たイリスが隣にいる聖美の袖を引っ張ってはしゃぐ。
イリス「あっ! 繋がった! 繋がったわよ聖美!!」
聖美はそうだね、と嬉しそうだ。お互いの画面が届いたようで、留音も画面を見て言う。
留音『おっ、繋がった。……これ聞こえてんのか? おーい』
イリス「聞こえてるわよ! ふふん、まさかこうしてパソコンを介して戦うことが出来るとは思わなか」
留音『あれ? なんか口パクしてんだけど。 なぁ衣玖、これ大丈夫なの?』
イリスの言葉を遮った留音は画面外から衣玖を呼び出している。どうやら留音達にはイリス達の声が聞こえていないらしい。衣玖は脇にあるトラックパッドを操っているようだ。ひょひょいと操作すると、音が聞こえない原因を見出したらしい。
衣玖『あっちがミュートしてるみたい。イリス、聖美、聞こえてるならマイクのミュート解除して』
聖美が「あっ」とミュートを解除する。これでやっと聞こえるようになったようだ。
イリス「……これでいいの?」
聖美「うん、もう聞こえてるよ」
イリス「そう。……ふふん! どうだ留音! まさかこうしてパソコンを介して戦うことが出来るとはね!!」
留音『え? なんて? ちょっと回線悪いかも』
というわけで、今日は在宅の日。美少女たちも時期を多少外しつつもリモートバトルに切り替えている。
イリス「だから! まさかこうしてパソコンを介して戦うことができるとはね!!」
聖美「(ちゃんと言い直してる……)」
留音『……おー。ちょっとマイクの音量大きいかも。感度ちょっと下げれるか?』
イリス「マイク……? ちょっとわかんない……聖美」
聖美「あっ、うん、たぶんこれで……これくらいかな?」
イリス「どうなの?」
留音『わかんない、ちょっと喋ってみて』
イリス「な、何をしゃべるのよ。あーあーあー」
留音『んー、多分大丈夫。で、なんだっけ?』
そこで少し口元が緩んだ留音に気づいたイリス。
イリス「だから……まさかこうしてパソコンを介して戦うことが出来……もしかして茶化してる?」
留音『あっ、バレた』
イリス「もーー! 許さない! 聖美! 早く留音と勝負するわよ!」
留音『でも勝負ったって。こんなんでなんの勝負出来るの?』
イリス「さぁね! でも聖美はいつもどおり出来るって言ってたから、この前テレビでみたバーチャルっていうのが使えるんじゃないっ?」
聖美「あ、そういうのじゃなくて……いつもどおりっていうのはおしゃべりできるねーってことで……」
聖美は留音に手を振っている。
イリス「えっ、そうなの……? じゃあ勝負は出来ない……?」
聖美「でもこれでいつでもみんなとおしゃべり出来るよっ」
聖美は自然な流れで五人少女達とネットでの繋がりを得たことを嬉しがっている。
イリス「そっか……てっきりこの前見たテレビみたいに戦えるのかと思ったわ……」
前にPCにログインしてバーチャル空間で戦う映画を見て、そういうことが出来るものだと勘違いしていたらしく、イリスはしゅんとしてしまう。
留音『そんなしょぼくれられてもな……』
それから結局、イリスと留音はあまり話すことも無く、ただ聖美が誰かが留音の後ろを通り掛かる度に声をかけ、それで何言か交わしたりはしたものの、ダラダラ話す、という感じでもなかったりして、そろそろ通話を切ることにした。
留音『じゃあまたなーイリスー』
イリス「在宅が終わったら覚悟しているがいいわ!」
というわけでヘッドセットを置いた留音。そのまま席を立っていったしまったのだが……。
イリス「あ、あらっ? ……んっ? いいのこれ?」
聖美は今は退室中だ。操作がわからないイリスはどうしようもないのだが、留音はカメラのスイッチを切らずに席を離れてしまったらしい。
誰もいなくなった五人少女宅のパソコン前。若干の生活音が聞こえてくる。
西香『ぶぁ~……あっぢぃですわ~……』
西香がアイスを口にくわえながらゾンビのように歩いていたり、真凛とあの子が楽しそうに話している声が聞こえてきたりする。
イリス「ちょっと……もしもーし! 切れてないんだけどー!」
イリスは見てはいけないと思いながらも、油断しまくりの留音があくびをしながら歩いてどこかへ行き、画面の隅でお皿を持って何かを食べながら誰かと話しているのが見えると、画面をじっと見つめている。
イリス「(なにか弱点が見つかるかもしれないし……)」
と、いうところでパソコンに衣玖が座り、画面が遮られた。イリスは自分が見ていた事を気付かれないようにさっと画面外に隠れる。衣玖はカメラがつきっぱなしだということに気づいたようだ。「あれ?」と言った衣玖の前に、イリスは何食わぬ顔で現れた。
衣玖『あぁイリス? もう終わりよね? 切っていいんでしょ?』
イリス「いいけど?」
すると衣玖は「じゃっ」と短く挨拶してカメラをオフにした。イリスは小さくため息だ。
イリス「びっくりしたぁ……覗いてたことバレたかな……」
―――――――――
イリス『覗いてたことバレたかな……』
衣玖「ん?」
こちらのカメラは切ったが、イリス側のカメラは切れていない。絶賛配信中で呟きもマイクに乗っている。
留音「あれ? 何やってんの?」
衣玖「さっき通信終えたんだけど、あっちのカメラ切ってないのよ」
留音「マジっ!? 配信事故だ! ちょっと見ててみようぜ!」
衣玖「悪趣味~……」
画面の中のイリスはキーボードと画面を交互に見つめては頭の上にクエスチョンマークを浮かべているようだった。
イリス『ねぇ聖美ー! どうしたらいいのー!?』
そこに聖美が戻ってきたらしい。聖美はパパっと操作してから言う。
聖美『よーっし、これで録画も完了だねっ』
留音「おい、あいつら録画してたらしいぞ」
イリス『これであいつらの弱点を分析出来るのね』
聖美『そう! 弱点分析のための録画だからねっ!』
衣玖「特に出して惜しい情報なんてないわよ」
聖美『じゃあ再生し直してみてよっか!』
イリス『あ、う、うん。これって最後まで録画されてるの……?』
聖美『もちろん! さっきの瞬間までね!』
衣玖「なんだか恥ずかしいわね。何を分析するんだろう」
その後、確認を始めた聖美はかわいいかわいいと連呼してイリスはんん……と唸るだけだったので、特に面白みもなくて配信事故を楽しむのをやめた衣玖と留音だったが、その後一人になった時に。
イリス「えっと……ここで再生すると……あ、出た……留音……なにを食べてるのかしら……」
真剣な表情で無防備な留音が食べていたものが何なのか真剣に分析しようとしている光景も映っていたそうな。




