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2020年6月20日 五人少女童話 ~浦島太郎~

2020年6月20日


 ネタに困ったら童話回。今日も夏の童話、浦島太郎をお送りします。


―――――――――――


 浦島の留音(るね)は少年達が亀をいじめていたのを見つけ、それを追い払った。すると助けた亀が龍宮城へ連れて行くというので、見返りはいらないので渋ったのだがおとなしく招待されることにした。


聖美(きよみ)姫「今回は本当に、亀くんを助けていただいてありがとうじゃったぞ……」


留音(るね)「別にいいよ。それよりそんな程度でこんなごちそうになっちゃって。お腹いっぱいだよ」


 留音(るね)は深海の龍宮城で振る舞われた豪華な料理をたらふく食べて満足そうにしている。


 その間に深海の姫、聖美(きよみ)姫は脇にいる亀に小声で言った。


聖美(きよみ)姫「でかしたよ亀くん!! ちゃんと美少女ちゃんを連れてきてくれて偉い!!」


亀「365日毎日少年たちを煽ってきた甲斐がありました……これまでは正義感溢れる青年なんかの介入がほとんどでしたからね……」


聖美(きよみ)「やっと美少女がひっかかったね!」


 コソコソと話すのを見ている留音(るね)が「どした?」と声をかけている。


聖美(きよみ)姫「なんでもないぞよ!」


留音(るね)「ところでそろそろ帰りたいんだけどさ。あー、上まで送ってくれない?」


 流石に深海から泳いで帰るのは無理だ。ここにくるまでも亀の不思議な力で水圧の影響はなかったが、これだけの深い海の底だと外に出ただけでぺしゃんこになるかもしれない。


聖美(きよみ)姫「それはできませんのじゃ……」


留音(るね)「えっ、なんで?」


聖美(きよみ)姫「亀くんの命を救ってもらったお礼はこんなものでは済みません。だって命ですよ? たったこれだけのお礼で済むものですか……大事な家族ですから……あなたには今日も明日も明後日も、ずーっっとここにいてお礼を受けていただきます。大丈夫、安心してください、この中にいればあなたは毎日楽しく、満足な毎日を送れますから……」


留音(るね)「えー……そんなのいいから返してくれよー」


聖美(きよみ)姫「それは出来ません……私達のお礼をし終えるまでずっとずっとずーっと、ここで過ごしてもらいますから!! ……ね」


 留音(るね)はまだ知らなかった。これから毎日胃袋まで管理される日が来ようとは。


 しかし逃げることは出来ない。外の世界は超深海なのだ。龍宮城でしか生きることは出来ない。聖美(きよみ)姫の策略により、留音(るね)はここで一生過ごすことになるのだった。


――――――――――


イリス「……(子どもたちが亀をいじめてる……)」


イリス「(ひどいことをするわね。助けてあげないと)」


 イリスはたまたま通りかかった海岸線で、棒きれをもって亀を叩く子どもたちを見つけた。すぐに助けてあげることを考えた正義感溢れるイリスは、その場で亀の周りに向けて小さな衝撃魔法を放った。


子どもたち『うわぁーっ!!』


「なんだ?!」


 キョロキョロ辺りを見回す子どもたちだが、その周辺には誰もいない。いるのは亀だけだ。


「この亀がやったの!?」


「こ、この亀やべぇー! 逃げろ―!」


 子どもたちは一目散に亀から逃げていった。亀は甲羅の中にこもったままで外の様子はわからない。


イリス「(いじめちゃだめよ、少年たち)」


 イリスは涼しい顔で既にその場を立ち去っていた。亀の視界に凛と歩く美少女の背中はあったが、とても距離が遠くて彼女が自分を助けてくれた人だとは思わない。


 善行は人の見えないところでやる。これがイリスのモットーというものだ。ただし善良な乙姫の待つ龍宮城イベントが回避された。でもそれでもいいのだ。


――――――――――――


西香(さいか)「はぁ~。深海のお姫様。わたくしにもついにお姫様と接点を持つ日が来たのですね……」


乙姫「そうじゃよ西香(さいか)、お主は久方ぶりの客。わしも嬉しいぞ。存分に楽しんで行くがよいぞ」


西香(さいか)「いやしかし、本当にあるもんですのね、こんなことが。奇妙な亀の話に頷いただけですのに」


 西香(さいか)は何故か海沿いを散歩中、突然亀に話しかけられた。「あなたが私を助けてくれた人ですか?」と。そして西香(さいか)はこう答えた「わたくしはいつでも誰かをお助けしていますわ」と。


 すると亀は「やっとみつけました!」と嬉しそうに西香(さいか)を甲羅に乗せ、ルンルン気分で龍宮城へと招待した。「あの時は怖くて、でも本当に助かった」「ずっとお礼が言いたかった」と西香(さいか)にはよくわからない話をされたが、西香(さいか)は話しがわからない時、とりあえず自分が有利になりそうな受け答えをする。


西香(さいか)「ふぅ。たらふく食べました。本当はサーモンやいくらなどの海の幸が食べたかったのですが、ここでそれを言うのは流石に酷というものでしょうか……ともあれ上出来でした」


乙姫「ふふ、西香(さいか)は面白いな。亀よ、アレを持ってまいれ」


亀「はい」


 亀はどこからか小さな箱を用意して乙姫にわたすと、西香(さいか)を手招きしてその箱を見せた。


乙姫「西香(さいか)よ。これをお前にやろう。玉手箱じゃ」


西香(さいか)「まぁ!! 海といえば真珠! もしかして最高級真珠やサンゴなんかが入っている宝石箱ですか!?」


乙姫「いんや。これは絶対に開けてはならぬ箱。じゃが特別な箱じゃ。持って帰るがよい」


西香(さいか)「……ん? イマイチ話がよくわからないのですが。つまりこの箱自体に価値があるということですか?」


乙姫「そうではない。箱の中身が特別なのじゃ」


西香(さいか)「でも開けちゃダメなんですのよね? そう言われると開けたくなるんですけど、ここで開けてもよろしいですか?」


乙姫「絶対に駄目じゃ。これを開けると老けてしまうからのぅ」


西香(さいか)「は? 老ける? 大層な爆弾じゃありませんの。どうしてそんな物を渡すんです? 嫌がらせ? 口封じのつもりですの?」


乙姫「そうではない。確かに開けてはならぬが、開けなければ老けんのじゃ」


西香(さいか)「でも開けたら老けるんでしょう? で、箱自体に価値もないし、それじゃあ中身的に売ることもできませんわよね?」


乙姫「わらわの贈り物、売りたいのか?」


西香(さいか)「ちょっと常識的に考えていただきたいのですが、もう少し別の形にすることは出来なかったんですの? それに、わたくしが聞くまで箱の中身も言いませんでしたし。なんですの? 嫌がらせ??」


乙姫「い、嫌がらせではない。時を封じる箱なのじゃ。西香(さいか)、お前は美しい。その美しさを永遠にできると言っておる。箱さえ開けなければ」


西香(さいか)「絶対開きますわよ。何かの拍子に絶対開きます。わたくしじゃなくても誰かしら開きます。こういう話って大抵そういう感じですから。そんなの渡すなんてね、あなた少し配慮が足りませんわよ。この箱が存在する時点でリスクになりますわ。でしたらわたくしの時を封じた上でそちらが厳重に管理してくれるというのが筋ではありませんの?」


乙姫「お、おう……そうじゃな……」


西香(さいか)「とは言え……わたくしとしては永遠の命よりも鮮烈な経験ですわね。できればそんなものよりも金目のものが欲しいのですが」


乙姫「……で、では、わかった、この深海でしか編めぬ、僅かな光を取り込み七色に輝く布を……これはわしの衣服を織った布で……」


西香(さいか)「今どき布? あの……布ですか? 海の底ですわよね……真珠やサンゴではありませんの……?」


乙姫「真珠……サンゴか……わしの大事な海の仲間なのじゃが……」


西香(さいか)「はぁぁぁぁぁぁー……もういいです。布きれ持って帰ります」


乙姫「そうか……すまぬな……」


亀「(もう地上へは絶対に行かないし行ったとしても誰にも頼らないぞ……)」


 せっかくいい感じだったのだが、やっぱり友達は作れそうにない。

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― 新着の感想 ―
[一言] 西香ちゃんの言っていることは、この物語の核心を衝いていますよね。 そんな危険なものを持たせるなという。 留音ちゃんだったら、水圧も気合で何とかなりそうな気もしますがwww
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