2020年6月14日 旧友の日
2020年6月14日
旧五人少女の中核メンバー、西園寺 遙華。彼女が1ヶ月ちょっと前の4月30日にたずねて以来、再び五人少女宅に現れていた。
というわけで、五人少女宅で団らん中の6人娘達。
衣玖「しかしよく来てくれたわね。旧友の日というこれ以上ないタイミングよ」
遙華「そうですわね。皆様が日めくりというものをし始めてから、わたくしも記念日というのを気にするようになって……少しでも旧友のためになれたらと、ちくわ持参でやってまいりました」
留音「ほんと、西園寺の持ってくるちくわは美味しいよ。噛めば噛むほど味が滲み出てくる」
遙華「はい。どうぞたくさん食べてください。西香さん、あなたもどうぞ、さっきから一つも食べてらっしゃらないようですし」
西香「わたくしは結構!! 同じような喋りをして、わたくしの座を狙う刺客を受け入れるなどできますか!! 第一ちくわってなんですか!」
遙華「練り物ですわ。筒状になっているのは竹棒に輪のように巻きつけて作るから竹輪、でして」
西香「ちくわは知ってますわよ! わたくしが言いたいのはどうしてちくわってことです!」
衣玖「西香は知らないわよね。遙華は信者さんなのよ。加工食品教の。とくに魚介系に強い宗派なのよ」
西香「加工食品教」
遙華「はい。人の手によって加工された食品を作った神様を信奉していますの。最近は魚介系以外にも理解を深めていますわ」
西香「人の手に加工されたと言っていますけど。というか、作るのは人か機械か工場長なのでは?」
遙華「かつてはそう信じられていましたわ。でも聖典が見つかった今では加工食品は神によって作られたことがわかったんですの。ですからわたくしは巡礼の旅に出ているのです」
留音「巡礼の旅なんて大変だよなー、世界各地に神様がいるわけだろ」
真凛「それがなければ一緒にいられたのになー」
衣玖「最近はどこに行ってたの?」
遙華「えぇ。先日までニューヨークの方に。着色料でギトギト色のレトルトカレーの工場の方へ行って祈りを捧げてきましたわ」
西香「わたくしほんの少しだけ安心しました。張り合う必要も無いやばい方で」
留音「神はきまぐれだなぁ。レトルトカレーなのに着色料でギトギトに色付けするなんて」
遙華「はい。真っ青なカレーでした。食欲の減退となんとなく胸がムカムカする感じに二日ほど悩まされましたの。これも神からの試練だと、なんとか乗り切れました」
真凛「敬虔な信者さんですね~」
遙華「そんなことはありません。神は食べられない加工食品をお作りにはなりませんの」
西香「この方、超やべーやつですわ」
そんな話に西香が飽きて、少し経つと遙華は再び旅立つため、この家を出ることにした。
真凛「寂しいです……また来てくださいますか?」
遙華「どうでしょう。わたくしは今神の元に赴くだけの風のような存在ですから。もしもこちらでまた美味しそうな加工食品の神が現れれば、こちらにお邪魔するかもしれませんわ」
西香「この方、もしやただの食いしん坊なのではありませんの?」
衣玖「いつでも待ってるからね」
留音「元気でな西園寺ー」
遙華「皆さんお達者で~」
こうしてまた、旧友の遙華は旅立った。まずは新たな神の気配を感じ取るために商店街へと足を向ける。
イリス「あれ? ハルカ?」
遙華「……? まぁ」
イリス「ちょっと、遙華じゃない! どうしてこんなところにいるの!?」
遙華「旧友を尋ねていましたの。イリスさんこそ、お久しぶりですわね」
なんとミニーズとすれ違い、どうやらイリスとは顔見知りだったようだ。
アンジー「イリスちゃん、知り合い?」
聖美「(かわいい子……)」
イリス「えぇ、あたしの命の恩人よ……付き合いは短いけど、忘れないわ」
遙華「そんな。大げさですわよ」
アンジー「何があったのー?」
イリス「ええと……魔法学校にいた頃ね、一人でなんでも出来ると思って、ちょっと無理をしたことがあったの。そこで油断して毒を受けたことがあって……動けなくなっちゃったのよね」
聖美「えぇっ?! それでどうしたの?!」
イリス「下手したら死ぬかもって思ったんだけど、そこに彼女が通りがかったのよ」
アンジー「へぇー、毒を治す魔法を使えたってこと?」
イリス「いや、遙華は魔法使いじゃないのよ。でも神術、奇跡の類を扱えるのよね」
遙華「そんな大層なものではありませんわ。ただあの時は海ドラゴンのしっぽの練り物を探していただけですわよ」
聖美「じゃあ毒にかかったイリスちゃんを看病してくれたってこと?」
イリス「それもちょっと違うわね。なんとこの遙華はね、通りがかった時に毒のワクチンを持っていたのよ」
アンジー「へぇー。じゃあ薬師さんみたいなこと?」
遙華「いいえ。わたくしはただの神の僕です。ただその時、ちょうどちくわを持っていただけの、ですわ」
聖美「ちくわ……」
イリス「おどろいたわよ。まさか突然ちくわを差し出して食べなさいって。食べたら本当に治ってしまうんだもの」
アンジー「ちくわで治る毒だったってこと……?」
イリス「いいえ、普通はちくわで毒なんて治らないわ。でも遙華はこう考えた。ちくわを反対から食べたら、それは『わくち』……ワクチンを摂取したことになる。初めは半信半疑だったけどね……でも実際にちくわくちんであたしの体は動けるまでに回復した」
遙華「本当に安心しましたわよ、あの時は」
アンジー「は、はぇ~……ちくわくちん……」
イリス「遙華、こっちには長いの? もし不慣れだったら案内するわよ」
遙華「いえ、以前住んでいたのですよ。でももしよかったら、今こちらで流行っている加工食品を紹介してくださると助かりますわ。体に良いものも、悪いものも」
イリス「住んでたの。魔法界行き来したり、相変わらず不思議な人ね。加工食品には詳しくないけど、今から買い物に行くところなの。一緒に行きましょうか。二人共いい?」
アンジー「あ、うん。もちろんボクはいいよぉ」
聖美「私も!! え、っとお名前なんていうんですかぁっ?」
遙華「西園寺。西園寺 遙華と申しますわ」
イリス「お嬢様言葉と言ったらこうよね。とても清楚なのよ。西香とは大違いよ」
旧友の日。




