2020年6月4日 武士の日
2020年6月4日
安慈の助「お願いします!! 抜刀西さん! ボクに稽古をつけてください!!」
安慈の助は抜刀西と呼んだ人物にすがりついた。その抜刀西は少し伸びた髪を後ろで軽く束ね、高貴な秘剣サイカステキとその対剣である剛剣マンジサイカを携えた浪人である。
安慈の助ことアンジの住む村は、定期的に山賊からの襲撃を受ける。しかし村にはろくに戦える者もおらず、いつもたくさんの食料を取られてしまうのみだった。
それを通りがかった剣士、抜刀西に村から護衛と山賊の討伐を依頼すると、山に一人で入った抜刀西は見事に山賊を討ち取って戻ってきたのだ。
抜刀西「まいりましたね……弟子は取らない主義なのです」
アンジ「お願いします!! ボクも村を守りたいんです!! 抜刀西さんは言ったじゃないですか!自分の必凶流抜刀術にかかれば敵はいないと! せめてどうやって山賊をやっつけたのかを教えて下さい!」
抜刀西は浪人であり、ひとところには留まらない。だからまたこの村に山賊が現れた場合、守り手が必要なのは事実であった。
抜刀西「仕方がありません。ではどうやって山賊を倒したかを教えましょう。それはつまり一番基本的な必凶流抜刀術の習得につながります。しっかりと覚えなさい」
アンジ「はい!」
2日ほど村に滞在した抜刀西。アンジは抜刀西のお世話係としてたくさんの話を聞いた。様々な場所への旅路、出会いと別れ……アンジは抜刀西に深い関心と興味を持っており、その感情は好意と尊敬であった。
少し森へ入り、山賊を倒したらしい場所の付近でアンジは尋ねる。
アンジ「抜刀西さんみたいになって、ボクも村を守りたい……抜刀西さん、必凶流とはどんな剣術なのでしょうか?」
抜刀西「うむ、人理ごと切ると呼ばれる剣術ですが、基本の型は普通の刀と変わりません。切っ先を上に向けて握り……」
そして通常の素振りをするように、抜刀西は刀を上から下へ振ってみせる。まるで変わったところはない。抜刀西は自身の持つ剛剣をアンジに持たせ「振ってみなさい」と頷いた。
アンジ「えい! とう!」
アンジは真面目に素振りをしている。これまでにも鍛えようと棒切れを振っており、意外にもその筋は鋭い。
抜刀西「うん、筋がいい。必凶流に一番大事なのはそうしてまっすぐに刀を振り下ろすことと、その速度ですよ。これでもう1対1の戦いでは負けないでしょう」
アンジ「えっ……でも、たったそれだけ、素振りだけで……? 抜刀西さん、ボクにはこれだけで大人の山賊に勝てるとは思いません」
抜刀西「まぁそうでしょう。これがもし剣術勝負ならまず勝てないでしょうね……ですが……これをこうしてみれば」
抜刀西はアンジに渡していた刀の柄を手にし、その柄の一部を懐から取り出した小さな金槌と釘のようなものを使って叩く。すると刀の留め具の一つである目釘を取り外した。
抜刀西「これで振ってみなさい」
アンジ「うん……?」
まさかと思いつつ素振りをするアンジ。しかし想像通りに刀身はピューンと柄からすっぽ抜け、いい感じに縦回転をしながらまっすぐ飛んでいった。
抜刀西「刀は手入れを怠ってはなりませんよ。刀身はもちろん、柄にもしっかり潤滑油を垂れ流しておくのがポイントです。こうすることで射出された刀身が相手に致命傷を与えてくれますから。あとは消化試合のようなものです」
アンジ「(うわぁ……)」
抜刀西「なんといっても真剣ですから。刺さればもう勝ちみたいなもんです。そのために二本刀持っておきなさい、弱った相手をバサッと行くために。でも一本目外したら全力で逃げるのですよ」
アンジ「で、でも、山賊は五人はいましたよねっ? 抜刀西さんの刀は二本だけ……まさか徒手空拳での戦いにも精通しているのですかっ?」
抜刀西「いや……仕方ない、特別に見せましょう。刀の留め具、目釘を取る時には目釘抜きという金槌のような道具を使うのは知っていますね?」
アンジ「はい」
抜刀西「実はこの金槌と目釘に火薬を仕込んであるのです。勢いよく叩くと火薬が爆発して目釘が炸裂する。これで敵の数を減らしていくのです。最悪これで全部倒します」
抜刀西はそう言って秘剣の柄を横から目釘抜きで勢いよく叩いた。押し出した程度では反応しないが、金槌部分でバチコンと叩くと「バギューン!!」と炸裂音が山に響き、木に着弾したらしい、木の皮がピチュンと弾け飛んだ。
抜刀西「……これで残り一人にまで減らせばあとは柄外して不意打ちで止めをさすのもありです。これこそが必凶流抜刀術」
アンジ「武士っぽくはないんですね……」
抜刀西「形式に囚われていては足元をすくわれるという物です。ちなみに刀相手に拳銃は印象が悪いので最終手段ですが、もちろんチャカも持ってますよ」
アンジ「……」
抜刀西「これが人理断つ剣術、必凶流。遠距離攻撃と不意打ちと逃げを使いこなす剣術です」
当時最も生存率の高い剣術だったという。




