2020年5月30日 女子将棋の日 第1回エクストリーム将棋王者決定戦
この競技の始まりは本作2019年11月17日分、エクストリーム将棋の回にあります。
2020年5月30日
真凛「さぁ始まりました、エクストリーム将棋、女子プロ笑竜杯王者決定戦。実況と解説はわたし、吉野 真凛と如月 衣玖でお送りしていきます。さて衣玖さん、2019年11月17日の将棋の日に発足されて以来、エクストリーム将棋もすっかり浸透し、こうしてついにプロの王者が決定するときが来ました。今どういったお気持ちですか?」
衣玖「え、あ、はい。とても喜ばしいです。喜ばしい。はい」
真凛「なるほど。それでは今日の対局ですが……西香女流プロ八段と、新進気鋭、聖美女流プロ五段の対戦カードになっていますね」
衣玖「うん」
真凛「さてどんな対戦が見られるか楽しみですね……それでは対局、開始です!」
衣玖「先攻は聖美五段ね。得意な戦術は誘い攻めと襲い受けか」
真凛「一見反する戦法を自在にコントロールすることで盤面を優位に制圧する戦法ですね」
衣玖「対する西香八段は……金庫破りの術が既に神域に到達していると言っても過言ではないわ。発祥の祖の一人であることは確かだけど、それでもここまで強くなるとは正直考えもしなかった」
真凛「はい。同じくエクストリーム将棋を最初に始め、『ヘルファイアドラゴンブレス』や『インヴィンシブル・スターカート』などのテクニックを発見した留音さんは引退してしまいましたが、西香女流プロはあまりにも強いですね。今回も楽しみです」
衣玖「留音プロは結局、龍頼みのワンパンチ戦法に頼ってばかりだったからね……あれでは実力が頭打ちになってしまうのは、私も見えていたことだった」
真凛「さぁ、両者の対局は着々と進んでいます。まずは……さぁ入りましたね。西香プロお得意の銀崩しです」
衣玖「これが強いのよね……銀将を一つ犠牲にして財産を歩兵に分与、成金として全ての歩兵が金に変わるという序盤最強のパワーアップだと思うわ」
真凛「これを発見したことこそ西香プロの強さですねぇ……金をもたせるのではなく、銀をもたせることで王の国庫はしっかり潤沢のままというのがポイントです」
衣玖「それを受けての聖美プロ、何をするでもなく着々と歩兵を前線にあげているわね。一体どんな考えがあるんだろう」
真凛「あっと! ここで西香プロ、武将角行さんを使って成金を敵陣に投げ始めました!」
衣玖「なるほど、今回の西香プロは歩の成った金を金将ではなく、黄金の弾丸、つまり敵陣直接攻撃の遠距離兵器として運用しているのね」
真凛「でも待ってください……聖美さんのフィールドの歩兵は全て前進しています! 投げた黄金弾が一つも当たりません!!」
衣玖「聖美プロはこうなることを読んでいたとしか思えないわね……西香プロにとっては金を相手にくれてやったもの……金を重用する西香プロには大誤算だったでしょうね」
真凛「この隙を差し込むかのように、聖美プロの陣営はどんどん攻め立てていきます! 歩を金に変えて投げてしまった西香プロ陣営には守りがほとんどありません!!」
衣玖「これはもう決まったかもしれないわ……んっ!? ちょ、ちょっとまって……この形……いや、まさか……」
真凛「ど、どうしたんですか? 衣玖さん……?」
衣玖「まさか、まさかね……西香プロはこれを考えて……いや……でもこれは……」
真凛「んん……? しかし聖美プロ、今回は初の王者決定戦ということで緊張して"らしい"戦いが出来ないのではないと思っていましたが、押せ押せプレイで西香プロの黄金弾戦法を破り、既に戦いが決しようとしています。このまま若き王者が誕生することになるのでしょうか……?」
衣玖「あ! 待って!! やっぱりやるわよ!!」
真凛「え……? 西香プロ、一体何を……武将角行に王を背負わせて……投げた!?」
衣玖「これよ!! 西香プロは最初からこれを……くぁー!! なんという一手!! これは歴史に残る一手よ!!」
真凛「一体どういう……? お、王を相手の陣地のど真ん中に置いてしまいましたけど……! 相手の飛車からも角行からもすぐに王手してしまう位置ですよ!?」
衣玖「でも見て……王が成るわ」
真凛「王が……成る!?」
衣玖「えぇ。そしてそこに書かれている文字は『西』……そう、これは西香プロ本人よ。盤面に西香プロが降臨した!!」
真凛「な……どういうことですか……?」
衣玖「がめつい守銭奴が相手の国に舞い降りたのよ……そしてここで、さっき投げた金が活きてくる。はーやられた。これはやられたわ」
真凛「聖美プロの表情が一転し、かなり焦っているようですね……金や銀を使って王の守りに徹しようとしていますが……西香プロ、西の駒をどう使うのでしょう……?」
衣玖「ほら、見て。今聖美の陣地には金が溢れてるでしょう? さっき投げ入れられた金が。そしてその金の周りには敵兵が集まってる。金を集めるにはどうしたらいい? ……そう、全員殺すしかないのよ」
真凛「ま、まさか……」
衣玖「そう、西の駒は守銭奴の悪魔。金の周りにある駒を全て一撃で葬る。……それに大変なのはここからよ」
真凛「一体何が……」
衣玖「西の駒はズルの駒よ。相手が金を持つ限り類まれなる行動力で1ターンに100回行動出来るの。つまり……黄金弾が打ち込まれ、その後に西が成った時点で勝敗は決していたということ」
真凛「あぁ……聖美女流五段、蹂躙される自陣を前に駒台に手を置き、頭を下げました……投了です」
衣玖「……これは……西香女流八段、もしかしたら止められる人間はいないかもしれないわね……ちょっと強すぎる。まいったなこれは……近いうち、この打ち方を禁止するための国際新ルールが制定されるかもしれない。それほどまでに強いわよ、この打ちは……」
真凛「大変な試合を見てしまいました。エクストリーム将棋、初代王者は西香女流プロ八段に決定いたしました!」
衣玖「恐ろしいわね。これまでの試合でも多分思いついていたはずよ。それを今まで使わず、この王者決定戦にまで温存していた西香の打ち筋……こんなことになるとは……いやぁ素晴らしい、興奮して眠れないかもしれない」
真凛「それでは、後ほど今回の試合を最初から振り返りたいと思います。いったんCMです」




