2020年5月29日 アンジーの誕生日
2020年5月29日
恵梨華「安城家始まって以来の危機だ……」
安城 恵梨華。志恵良ことみんなからアンジーと呼ばれる男の娘の姉である。シスターアンジーでシスジー。特に名乗ってはいないが、友達には稀にアンジェリカとも呼ばれるそうだ。
シスジー「まさかしぃくんが、いや、アンジーちゃんが他所でお誕生日会を、それも女の子と……いや男の子とするほうが……いや……お姉ちゃんとお誕生日会をしてくれないなんて……寂しすぎる……」
そう、今日は世界一可愛い弟の誕生日。盛大に祝おうと思っていたが、友達とパーティすると出ていって置いていかれた悲しい姉の図である。
シスジー「うぅ、お姉ちゃんもアンジーちゃんのお友達と遊ぶの混ぜてほしいな……どこに行ったんだろう……帰ってきてからもお姉ちゃんとケーキ食べてくれるかな……一応買ってこよ……」
というわけで。
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聖美「アンジーちゃん、お誕生日おめでとうー!」
今日はアンジーのお誕生日会である。場所は街のカラオケボックスで、ちょっとしたパーティ料理を注文してワイワイと歌わずに過ごしている。
イリス「おめでとうアンジー」
イリスは指を鳴らすと空気中に小さな炸裂音を数度発生させ、そこに光が弾けるような魔法で演出する。まるで小さな花火だ。
アンジー「ありがとうみんな~! 嬉しいよぉ、祝ってもらえて!」
とはいえ、ここにいるのは三人だけ。アンジーの家には姉が居て見つかったら混乱することになるし、かといって聖美の家でするわけにもいかない。五人少女宅で開催という可能性もあったが、アンジー自身は早くもあまり誕生日を祝われたくないという境地にあるので、ミニーズのみでの開催にしているようだ。
ちなみに祝われたくないのは、年令を重ねることであまり男らしくなりたくないから、という話である。もちろんアンジーは奇跡の男の娘なので問題ないのだが。
聖美「でも私達だけでよかったの? みんなのとこならたくさんお祝いしてくれると思うよぉ?」
アンジー「いいのいいのっ、小さめにするほうが好きなんだぁ、ボク」
ちなみに、これまではほとんど家族とだったし、小学生の頃に一番仲の良かった友達を呼んで以来他の子と自分のお誕生日会をしたことがないアンジーだった。
イリス「ま、気軽でいいわよね。ぱぁっと食べましょう」
アンジー「わーい!」
と、カラオケボックスながら歌わないで過ごすことも出来るそのお店。パーティゲームなども充実していて、歌ったり騒いだり、料理も美味しくて楽しい時間を過ごしたようだ。
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と、こちらは街中で。留音と真凛が買い物に出ていたらしい。
留音「おっ、アンジーじゃん。お前こんなところで何やってんの? 聖美から聞いたけど今日誕生日なんだろ?」
話しかけられたのはスカート姿でいつもより誤差程に髪の長いアンジーだった。
アンジー?「えっ? ……えっ?? 聖美ちゃんに? ……えっと?」
アンジーは二人の顔を見比べるようにしながら目を丸くして考えを走らせているようだ。その様子を見てか真凛が首をかしげた。
真凛「んん……? アンジーさん、ちょっと雰囲気変わりました? お誕生日だからかなぁ?」
そこで、やっと留音の背丈と真凛の様子から思い至ったようにパーにした左手にグーをトンとのせて、頭の上に電球でもちらつかせて言う。
アンジー?「……あっ! ご、五人少女ちゃん!」
留音「何言ってんの? それより誕生日はどうしたんだ? ミニーズの方はもう終わり?」
アンジー?「えっ、あっ、えっと……」
アンジーは少し焦った様子でどう答えようかと思案しているようだ。
真凛「もしかして……この時間ってことは開催出来なかったとかですかぁ……?」
パーティが終わるには早い時間ではないか、と考えている。
アンジー?「そうじゃないんだけどぉ……」
答えづらそうにするアンジーは手に有名ケーキ屋の袋を持っていた。それに気づいた留音が「あー」となにかを察したように視線を泳がすとこう言った。
留音「良かったらウチくる? いいよな真凛?」
真凛「そうですねっ、ちょうど今日カスタードクリームタルトを作ってたんです☆ お誕生日ケーキの代わりに食べていってくださいよぉっ」
アンジー?「い、いいの?」
真凛「こっちには来ないって聞いてたので大きなものは用意出来ませんでしたけど……それでもよかったらごちそうしますよぉ」
アンジー?「やったっ! えっと、留音ちゃんと真凛ちゃん!」
留音「どうしたんだ? 突然盛り上がって」
アンジー?「ううん、一度ゆっくり話してみたかったんだぁ。皆のことも教えて欲しいー!」
アンジーは留音と真凛の腕を抱き寄せてくっつく。
留音「う、おい、あんまくっつくなよ、恥ずかしいだろ……」
アンジー?「えーっ? 恥ずかしいってー? ボクこんなに可愛いのにー?」
留音「いや、そういう問題じゃ……男にひっつかれるのは慣れてないから……」
アンジー?「ん? あそっか。ボク男の子だったんだ」
留音「何いってんだぁ?」
アンジー?「安心してよ~、ボク本当は女の子だから☆」
留音「は?」
真凛「衣玖さんに何か作ってもらったんですか?」
アンジー?「ううん、違うよー。ほら、ぺたぺたーって。ちゃんと女の子でしょ?」
アンジーは留音の手を取り、何らかの方法で性別を確かめさせた。
留音「えぇっ、あれっ!? ほんとに女……? そういや元から確かめたこと無いけど……」
アンジー?「実はたまに性別が入れ替わるの……他の子にはナイショだよっ☆」
真凛「あー、だから雰囲気変わったように見えたんですね~」
留音「まじかよ……そんな事あんのか? え、もともとどっちなの……?」
アンジー?「さぁーどっちかなぁ? んっふっふっふ」
奇跡の男の娘アンジー。彼の知らないところでその神秘性は加速していくのだった。
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アンジー「へきしゅっ」
聖美「あれっ、アンジーちゃん大丈夫?」
イリス「ちょっと寒い?」
アンジー「ううんっ、気温は大丈夫なんだけど……なんだか変な感覚が……」
多分ドッペルゲンガーの仕業。




