2020年5月20日 破壊者マリン ~森林の日を伐採せよ~
2020年5月20日
マリン「こんな悲しい記念日が……あっていいわけがありません……!」
ある悲しみを知った美少女、マリン。彼女はとある記念日に大きな悲哀を持ち、そしてその記念日を破壊することに決めた。
イリス「やめなさい、マリン! そんな、記念日を破壊するなんて……!」
留音「そうだ! 一体何故日めくり大使のあたしたちから記念日の破壊者が出なければならない!」
マリン「止めないでください……あってはならないんですよ、こんな、森林の日なんて記念日は!!」
イリス「一体どうして……! 森のマナが怯えているわ!」
ちぎれかけのボロ布のように見えるだけの実際は清潔なマントを風にたなびかせて、森林公園の前で三人は言い争っている。
ちなみに、背景に森林があってもマリンは森林そのものを焼き払おうなどという考えでいるわけではない。それぞれの雰囲気作りなだけである。
留音「きかせてくれないか? お前が破壊者となり、そしてこの森林の日を破壊しようとする意味を……」
マリンは暗くうつむき、旧友に対しての礼儀として語り始めた。
マリン「この森林の日の生い立ちと末路を知れば、今日という森林の日を消し去りたくなる理由もわかるはずです……」
イリス「末路って……森林の日に一体何があったの?」
マリン「今日という記念日を制定をしたのは、とある村の集まりでした。森にある10の村が集まり、美し村連邦を発足して……その連邦によって作られたのがこの森林の日……でも、それはいつまでも続きませんでした」
留音「どういうことだ……?」
マリン「滅んでいるんです……滅んでいるんですよ、美し村連邦は……!」
イリス「滅んでいる、って……?」
マリン「言葉通りです。連邦は発足して森林の日を作り、そして……やがて消滅したんです。たった4年で」
留音「そんな……」
イリス「でも、それでどうして森林の日を消さなければならないの? ただあるだけでも森林の日の自然保護という意図は伝わるんじゃないの……?」
マリン「そうかもしれません。でもわたしはそれでも、この森林の日を消してしまったほうが良いと思ってるんです」
留音「一体なぜだ!?」
マリン「人が、安心して眠るためですよ!!」
マリンは力の限り叫んだ。それはこの地球で長い時を過ごしてきたことで培ってきた人類愛から出た言葉なのだろう。
イリス「教えてマリン、どういう意味なのか」
マリン「この森林の日には……この世の真理が隠れています。わかりますか……?」
留音「さっぱりわからん」
マリン「美しい村々に住む人が定めた森林の日……これだけが残り、人々のコミュニティだけが消滅したんです……これはある意味人の世の真実です。遠くない未来に起こること……森林の日は、そんな真理を体現してしまった記念日なんです……」
イリス「叡智への皮肉……」
留音「わからん……」
マリン「この地球の縮図を表した記念日……、新しい世代にはこの闇を伝えないようにする必要があります。この記念日を知ることで自分の将来を悲観し、悲しみに押しつぶされないために」
イリス「それが人が安心して眠るためということか……」
マリン「あっちゃいけないんですよ……こんな悲しい記念日は……人はやがて死に、滅ぼべくして滅ぶ。それを見ないように、何かを騙して、何かに酔い続けてしか生きていけない人類にとって、この記念日は毒でしか無いんです……! だから止めないでください!」
記念日どころか地球を破壊しそうな勢いでポーズを構えたマリン。しかし彼女の前にシュタっと降り立った小さな影がそれを制した。
イク「それは違うわ、マリン!!」
マリン「あ、あなたは!! 革新者イクさん!!」
留音「そんなのいた?」
イリス「あんたんとこ、みんな二つ名みたいなの持ってるの?」
留音「知らん……」
イク「人はもがく。もがくのよマリン。森林の日だってそう。確かに制定した連邦は滅び、森林の日が物悲しい事実と共に残ったように感じられる……でもね、森林の日はその姿を変えて、精神を受け継いだ記念日が新たに現れているの」
イクは記念日パンフレットをひゅっとマリンに投げ渡した。そこには国際森林デ―、九州森林の日など、新たに登場した森林の日が書かれている。
イク「それを見ればわかるでしょう。森林の日は人間が常にもがき続けていることの証。人はどんなに悲しいことがあっても立ち上がり、どんなに小さくとも一歩でも前へと進もうとする。この記念日を知れば、人がただ静かに滅びゆく存在ではないこともまた伝わってくる……森林の日とはそういう日なのよ……」
マリンはポロポロと泣き始めた。
マリン「うっ……うぅっ……わたしが……わたしが間違っていました……! そうだったんですね……そうか……森林の日、それはまさに木々のように根強く、そして少しずつ広まっていく強さの象徴……わたしが失望し、そして同時に希望を持ったことと同じ。人間そのものの記念日だった……!!」
イリス「感動的ね……そうよ、絶望するには早すぎるわ」
留音「よく……わからん……」
イク「行きましょうマリン! 木漏れ日の向こう側へ!」
マリン「はい!!」
留音「本当によくわかんない」




