2020年5月17日 いろんな愛のかたちがある日
2020年5月17日
留音「ごめん、あたしにはもう好きな人がいるから……」
気だるくなるような生暖かい風が吹く公園で交わされた会話。留音の前に立つ金髪をツインテールにした美少女は、彼女の言葉に呆然と立ち尽くしていた。
一世一代の告白をして、たった今振られた美少女の名前はイリス。海外から留学してきて、その珍しさからみんなに距離を取られる中で一番気さくに接してくれたのが留音だった。その気持ちを、好きだという気持ちをついに伝えたのだが。
イリス「好きな人って……好きな人って衣玖?! そうでしょ!」
留音は答えづらそうにしている。
イリス「ずるい……少し前に知り合ってたからって……あたしはこんなに好きなのに……っ」
留音「イリス……違うんだ。衣玖じゃないんだよ……」
イリス「じゃあ誰だって言うの!?」
留音「西香……西香だよ……」
イリス「嘘っ……なんであんなやつと……!」
留音「放っておけなかったんだ……あたしがいてやんないとって……そう思ったらいつのまにか婚約してて……あいつ馬鹿だからさ……誰かが守ってやらないと」
イリス「バカ……ばか! もう知らない!!!」
こうしてイリスは恋に破れた。相手が自分よりもすごい人だったらもっと受け入れられたかもしれない。でもあんな友達もいないような性格の悪いやつに負けた。それがイリスをより惨めな気持ちにさせる。
家に帰ったイリス。家と言っても住まわせてもらっている聖美の家。そこでベッドに突っ伏して、泣いているつもりはなかったがじんわりと悔し涙を枕で拭いていると聖美が帰ってきた。
聖美「どうしたの……?」
心配そうに聞いた聖美に、今日の出来事を全て話すイリス。
イリス「一人で本当に馬鹿みたい……どうしてあんなに優しくしてくれたの……? なんだったのよ、これまで……」
聖美「イリスちゃん……」
聖美はイリスを強く抱きしめる。
聖美「探せばまた見つかるよ、イリスちゃんにはいい人いる! ここにだって! ……あっ」
イリス「聖美……? 今のって……」
聖美はみるみる頬を赤く染めていき、イリスから視線を逸している。
イリス「ねぇ聖美。ちゃんと答えて。今のってどういう意味……?」
イリスが聖美の腕を掴み、それで意を決した聖美。
聖美「友達だから……って思ってきたけど……こうやって一緒に過ごすうちに……ホントは……」
イリス「聖美っ……でもだめよ……こんなタイミングでなんて……」
聖美「でも、傷ついたイリスちゃんをわかってあげられるの、私だけだから……」
こうして二人は静かに抱き合ってお互いの愛を形にし始めるのだった。
―――――――――――
留音「ただいまー」
西香「おかえりなさい留音さん」
留音「ただいま。みんなは?」
西香「衣玖さんと真凛さんは今日も二人で星間飛行に出てます。飽きませんわよね、あのお二人」
留音「そっか。もう言ってくれてもいいのにな、宇宙デートしてますって。バレバレだっての。あの子は?」
西香「買い物に出るとかで」
留音「じゃあ……二人きり?」
西香「う……ま、まぁ……」
それを聞いた留音は楽しそうに西香の隣に座ると、西香の頭を自分の体に抱き寄せた。
留音「お前はほんと温かいなー……」
西香「うぅ……まさかお友達の前に婚約者が出来るなんて……」
西香は顔を真赤にして留音に身を預けている。
留音「そうだ、恋人誓約書は作ったのか?」
西香「いえ、恋人については夢想して来なかったものですから……今のところは一緒にいること、しか思いつかないので作る意味はないかなと……」
留音「ふふ、可愛いやつっ」
―――――――――――
そして買い物に出ていたあの子。いつもより少しゆっくり歩き、ほんの一回りだけ遠回りをして帰宅する。
なぜかと言えば家の状況からである。なんだか知らないうちにみんなくっついてしまっている。居場所がないとまでは思わないが、ゆっくり二人にしてあげることを考えてのことだった。
そんなときに。
アンジー「……あっ」
あの子は一人で歩くアンジーと出会った。夕日に照らされる二人はお互いにどこか共通の感情を持っていることを深いところで認識して、だから自然と二人で歩いていた。
アンジー「あはは、最近、静かだよね、みんな……」
アンジーは会話を引っ張ろうとしているらしい。あの子もこくんと頷いた。最近めっきり対決が減っていて、みんな二人組で行動するのが目立っている。
アンジー「イリスちゃんと聖美ちゃんはボクと一緒にいてくれるけど、でもなんていうか……二人の仲が良くて……」
アンジーはこころの何処かで置いてけぼりにされているような感覚を持っていた。ここは海を望める高台公園のベンチで、二人はそこに座って、長い空白を交えながらそんな話をしている。
そこから見える海の広さは、今の二人には雄大さではなく、ただの空虚なものに見えた。
アンジー「このまま……みんな、バラバラになっちゃうのかな」
それぞれ好きな人ができて、それぞれの道を歩んでいく。それは仕方がないし。だがそれに対して気持ちがどう思うかというのは全く別の問題で、アンジーにとってはすごく嫌なことだった。どうすることも出来ないが。
アンジー「ボクは……もっとみんなと遊びたいな」
そこであの子はアンジーの腕に触れた。
お互いの視線が、そこで何か深い交わりを感じさせる。その後の二人がどうなっていったかは、また別のお話。




