2020年5月15日 Jリーグ発足の日
2020年5月15日
衣玖「まずいわね……」
そこは毎日学園サッカー部の部室。届けられた一枚の果たし状によってサッカー部員は頭を悩ませていた。
真凛「わたしたちはただサッカーを楽しんでいただけなのに……」
その辺り一帯の土地は狭く、しっかりとしたサッカーの練習をするには公園のグラウンドを借りなくてはならない。定期的に借りていたこの毎日学園サッカー部だったが、それがどうやら強豪サッカーチーム『チームミニーズ』に目をつけられたらしい。
『正式試合を申し込む。開催は明日。そこで負けた方はチームを解散するか練習場を一生使わないようにする。来なければ負けだ』という旨の手紙が届けられたのだ。
西香「一体なんの権利があって……くっ、それでも相手はあのミニーズ……とんでもないドリブルテクとシュートスキルでプロチームはもちろん海外のオールスターチームですら歯が立たないと聞いていますわ……」
真凛「そんなに強いチームがわたしたちを潰しに来るなんて……うぅっ! もうこのサッカーチームは終わりですぅ!」
衣玖「まいったわね……自慢じゃないけど地元最弱のサッカーチームなのに」
西香「なんせ誰もボールを蹴る気がないのですからね……」
真凛「う~! サッカーグラウンドでお弁当を食べたりしてピクニックをしたいだけだったのに~!」
既に解散の未来は見えている。モブサッカー部員も含め、チーム全体がどんよりとした空気に飲み込まれた。
しかしそんな時に、部室の扉が勢いよく開け放たれた。
留音「邪魔をする」
真凛「えっ!? 誰ですか!?」
留音「あたしは最弱サッカーチームに所属して数々のチームを全国区に押し上げてきたハイパーお助けサッカープレイヤーの留音だ。ここが地元最弱のチームというのは本当か?」
衣玖「え、えぇ。でもその話が本当だとしても所属する意味なんてないわよ。もう明日には解散するのだから……」
衣玖が手紙を手渡し、留音はそれを読むとクシャッと丸めてそれを捨てた。
留音「面白い。あたしにぴったりじゃないか」
真凛「で、でも……みんなサッカーをする気がないんですよ……? わたしはたまにボール蹴りますけど……」
西香「でも真凛さん、ドタ足で子供みたいなキックしますからね。わたくしだってサッカー部という名前が『西香ー部』と聞き間違えて所属してしまっただけですし……」
衣玖「私だってサッカーアニメの影響でやろうと思ったけど結局動くのが大変で一番動かないでいいゴールキーパーのポジションで座ってるだけになったし……あなたがいくら強くても勝つのは無理よ……」
留音「ふっ。あたしのことを知らないらしい。あたしはこういったサッカー部を救い続けてもう30年の美少女だぞ。お前たちがいくら弱くても、あたしは不可能を可能にするんだ」
弱小サッカー部の顔に希望の光が灯っていく。
留音「まずは分析だな。相手チームの情報はわかってるのか?」
衣玖「え、えぇ……チームミニーズといえば超強豪。いくらでも情報はあるわ。そうだ、先日行われた海外オールスターチームとの戦いの様子を収録したビデオがあるから」
衣玖はそのビデオを再生する。ロナウド、マテウス、メッシ……超有名プレイヤーチームを前に、ミニーズは三人でフィールドに立っていた。
留音「三人だと? 面白い……まさに掟破りのチームってわけか……プレイスタイルは……?」
ゲームスタート。ミニーズボール。スタープレイヤーであるイリスがボールに触れた瞬間、ボールは空高くポーンと打ち上がり、そのままリモコン誘導されているかのように相手のゴールまで飛んでいった。
衣玖「この必殺シュートよ……最早サッカーというレベルじゃない……イリス選手の触った球は魔法のようにゴールまで飛んでいくの……」
留音「ふっ、おもしれぇ……」
次は相手ボール。しかし相手がドリブルをしはじめた瞬間にボールはカチカチになってうごかなくなり、そこに歩いて現れたイリスが手をヒョヒョイと動かすとそのままボールを操るかのように歩きだしてゆっくりとゴールまで運んでいった。
真凛「ボールキープ率は99対1ですから……どんなすごいチームもお手上げなんです……」
留音「いや、どうにかなるさ……勝てるよ、明日の試合」
不敵に笑った留音。そして次の日。
イリス「くっくっく、どうやら来たみたいね。ザコチームども! そんな新入り一人加えたところで、あんた達の負けは決まってるの!」
最早練習の意味が全く無い2チームがサッカーグラウンドに対峙した。
留音「どうかな。さぁ、試合開始だ!」
響き渡る笛の音。最初にボールを得たのはミニーズ。プロ相手と同じく、イリスがボールを適当に蹴るとボールは誰にも届かない空中へと上がり、相手のゴールポストへと飛んでいく。
しかし衣玖はゴールポストに寄りかかってぼーっと座ってゲームをしている。サッカーはもう飽きた衣玖には止められるわけもないボールだった。しかし。
留音「だっしゃーー!!」
跳躍。留音は空高く舞い上がり、そしてくるくるとその身を回転させながらボレーシュートをお見舞いする。空中に浮いていただけのボールはイリスの制御を外れ、光線のような速さでイリスチームのゴールネットに突き刺さるようにシュートされた。ゴールキーパーのアンジーは一歩も動けず。
留音「よし! 1点!!」
イリス「なんてこと!!! 油断した!! 地上20メートルよ!? ここまで飛べるプレイヤーがいたなんてね……だがいい。それなら別の魔法を使うまで!」
次のゲームへ。スタート時、プレイヤーは軽いパスを出してスタートするルールだ。聖美がイリスへパスを出すためにボールへ触れた瞬間、二人の足元を閃光が過ぎ去っていった。
紛れもなく留音だった。留音は自陣のゴールから助走をつけ、聖美がボールに触れてゲームがスタートした瞬間にスライディングをしたのだ。その速さはすでに光のレベルに達しており、留音はスライディングをする足裏でボールを転がしながら、相手のゴールにまでスライディングで突っ込んでいった。
留音「さぁどうした? あたしのサッカースキルはまだまだこんなもんじゃないぞ」
イリスは初めて押されるという経験に戦慄する。バケモノだ、自分は今バケモノを相手にしている。
チームメイトはゴールで座っていたり、勝手にフィールドを抜けてお弁当を食べていたり、応援に来たファンからお金を徴収したりしているチームなのに、一人だけ怪物がいる。
今このサッカー界に新しい因縁が生まれようとしていた。彼女たちはやがてプロの舞台で出会うことになるだろう。




