2020年5月5日 たくさん記念日
2020年5月5日
衣玖編
衣玖「ついに手を出す時が来てしまった……レゴブロック……」
衣玖は本日、レゴの日である。
衣玖「あまりにも面白そうだし、時間はなくなりそうだし、結構値段はするしで手を出さなかったけど……レゴブロック……あぁっ、緊張する……」
0505でレゴ、ということだそうだ。ジャラジャラジャラとブロックをひっくり返し、恍惚とした表情でそれを手にとった。
衣玖「こんなの楽しいに決まってる……楽しいに決まってる……! あぁっもうダメ!! とりあえずかっぱでも作ろう!!」
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真凛とあの子編
真凛「ねこさんいた! あむっ。(バリバリ)」
真凛「いんこさんもいた! あむっ。(ばりばり)」
真凛「次はぺんぎんさん! あむっ。(ばりむしゃ)」
真凛「全部美味しいー☆うさぎさんだ! あむっ。(むしゃっむっしゃ)」
真凛はどうぶつを見つけては種類を言って一口で平らげている。隣りにいるあの子も同様である。
真凛「どうぶつの素朴な味が癖になっちゃいますね^^ あ、口乾きますよね。午後ティーありますからっ」
あの子「(´ڡ`)」
今日はたべっ子どうぶつの日と、午後の紅茶の日。ほんのり甘いバターのクッキーで乾いた口に、飲みやすい紅茶がぴたりと合うようだ。
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イリス編
イリス「(今日こそ乗るわよ……魔法無しで……)」
誰もいない公園にて。イリスは自転車にまたがっている。
イリス「(えっと、とりあえず足で地面を蹴ってバランス感覚を養うのよね……)」
イリスはペダルに触らず、自転車から直接地面を蹴り、そのスピードに乗ってバランスが崩れないように自転車を操り、少しずつ前へ進む練習をしている。
イリス「(……慣れてきたら箒と似てるのかも……あっちは魔力で支えられてる感じがするからもっと簡単だけど……)」
イリスは足を蹴っては地面から離してペダルに置き、転げそうになったら再び足を地面に置く。こうして少しずつバランス感覚を養い、タイミングを見てペダルを漕ぐようにし始めた。するとほんの数十分ほどの練習で、ついに自転車に乗れるようになったのである。
イリス「(やった……!! ついに乗れた! 魔力を使わずに自分の力だけでこんなに早く進める乗り物……物質界の素敵な発明ね!)」
今日は自転車の日。4月にあった薬物まみれの日ではなく、正しく自転車の日なのである。
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聖美編
聖美「(許してくれるかな……)」
暗い部屋で一人の聖美。何かを考え込んでいる。携帯のコールに気づいていないのか、部屋ではリズミカルに『ヴヴヴヴ……』という振動音がしている。
聖美「(でも、今日はおもちゃの日だし……みんなもきっと楽しめるはずだし……)」
聖美「(うーん……でも……やっぱり思い切った買い物だったかも……)」
聖美「(でもこれで遊んでる五人少女ちゃんたち……絶対可愛いし一緒に遊……あぁだめっ……なにを考えているの聖美……)」
一体何に悩んでいるのかは定かではないが、なんらかのおもちゃで五人少女と遊びたいと思っているようである。今日はおもちゃの日でもあるのだ。
誰からのコールだったのか。聖美が立ち上がると携帯のコールが止んだ。決して年齢制限はかからない。
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アンジー編
アンジー「ふんふーん♪」
アンジーは一人、部屋でお化粧中である。今日はメンズメイクアップの日。
アンジー「(男の子だと入りにくいパステルで可愛いスイーツショップで出たレアチーズケーキの新作……)」
チークでパンパンと可愛く決めて、薄い化粧で出来上がり。とても可愛い美少女が鏡の中にいる。
アンジー「(うーっ、早く食べたーい♡)」
今日は甘党男子の日。
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西香編
西香「そこのボーイ。ちょっとお待ちなさい」
西香は公園でつまらなそうにブランコに揺られている孤独な少年に声をかけた。
「えっ……? なぁに、お姉ちゃん」
西香「はい、これ。差し上げますわ。今日の記念日に感謝するといいですわ」
「……なぁにこれ? 本?」
少年は訝しんでその表紙を見ている。目の前にいる女の子が表紙になっているのを見て、西香と本を見比べるようにしていた。
西香「わたくしの本ですわ。写真集。嬉しいでしょう」
「え……よくわかんない……別にいらない……」
西香「まっ。失礼なボーイね。わたくしのファンが泣いて喜ぶ限定の一点モノですわよ。こどもの日にそんな風に孤独なボーイを哀れんだわたくしの贈り物ですわ。持っておきなさい」
「でも知らない人から物を受け取っちゃダメってパパが……」
西香「堅苦しいですわね。そんなのだまってりゃいいんですのよ」
「……うん。そうかも……ぼく、もうパパと暮らせなくなるし……借金のせいで、パパ……」
西香「あら重い。それは大変そうですわね。ではボーイ、お達者で」
「えぇっ、ちょっと……訳も聞いてくれないの……?」
西香「知りませんわ。今日がたまたま子供に本を贈る日だったから目についたあなたにわたくしの写真集を手渡したまでのこと。そこに写るわたくしを見れば孤独感も紛れ、未来に希望を感じる事でしょう。グッバイボーイ」
そうして風のように去っていく西香。少年は本をめくってみた。そこには可愛らしい西香の画像が乗っていたが、少年にその価値はよくわからなかった。
それよりも少年にとって、家族がバラバラになるという実感の方が重かったのだ。無理もない。何も悪くない父親が突然借金を負わされ、家族に迷惑はかけられないと母親と離婚を決意し、母親もシングルマザーとして少年を育てなくてはならなくなってしまったのだ。
こどもの日に、少年は大人になることを選ばされている。
そんなときだった。ブランコを降りようとした少年の前に、一人の男性が立っていた。
「君……その本を、どうしたんだい……?」
「えっ……?」
少年は少し怖いな、と感じた。対面した男の人は少年の持つ本を見て上気して肩まで使って息をしている。
「それは……もしかして西香様が発売イベントが面倒になって結局発売まで中止された伝説の第311弾写真集じゃないのかい……?」
少年が本を見る。表紙にはたしかに「Vol.311」という数字が見えた。
「よくわかんないです……さっきこの表紙の女の人が、ぼくにこれをくれるって……」
「おおおおおおおおまああああいがあああああああああああ!!! 本人のナマ手渡し本!?!?!?デュっフッ!! しょ、しょしょ、少年ッ! それを私に譲ってはくれまいか!! い、いやっ、もちろんただとは言わない!! い、い、い、いくらだっ!? いくらなら売ってくれる!?」
少年は昨日、襖越しに聞いた両親の会話を思い出した。父親が「400万くらい、きっとすぐ返せるさ……」と疲れた声で言っていたのを。実際には長引くほどに利息がついていくらになるかわからないらしい。
少年「えっと……じゃあ400万円……」
「よよよ、よんひゃっく!!! 安い買った!!! こんなに素晴らしいプレミア本をたった400!!! これはファンナンバー一桁の上位メンバーにも自慢できるハイステータスになるぞぉ……!! 少年よっ!! ありがとう!! ありがとう!!」
一冊の本が少年の人生を変えたという一例である。
今日は子供に本を贈る日。




