2020年5月3日 ゴミの日の中で胎動するそうじの日
2020年5月3日
留音「おはよー。めしめしー」
衣玖「おはよう。そこにあるわよ」
それはよくある爽やかな朝だった。留音が寝間着のまま、目をこすりながらリビングに降りてきて、衣玖は夜通しゲームで遊んで起きっぱなしだ。
留音「んぁー……ん、なんだ今日の朝ご飯。みたらしだんごにカステラに……くるみパン?」
衣玖「記念日的な食べ物よ」
留音「ふーん……っていうか真凛は? 朝ご飯作る気なかった感じだな?」
衣玖「作れなかったのよ。今日は忙しいってどこかに行ってしまったから」
留音「そうなんだ。まぁいいや。くるみパン、たまに食べるとうまいよなー」
留音は置いてある食べ物をモシャモシャと食べながら言った。
留音「しかし何の用があるんだろうな? カレンダーは……5月3日、空白だけど……あっ、今日ゴミの日って書いてある。記念日のゴミの日なんだって。それに連動してもそうじの日まで制定されてるじゃん。こりゃ確かに忙しそうだなぁ」
衣玖「張り切って何かしてるのかもね」
留音「西香もとうとう片付けられちまうのかなー」
言いながら特に感慨無くもそもそ。カステラに牛乳を合わせて食べるのが美味しいようだ。留音は満足そうに食べている。
衣玖「……さて。私はちょっと用事があるの。この辺で失礼するわね」
留音「んー。ゴミの日かぁ……どんな記念日で今日の日めくりすっかなぁ……」
留音は部屋を出ていく衣玖を送り出しながら、みたらしだんごの棒についたタレが指に付着して、それをペロペロ舐めながら今日の日めくりについて思案するのだった。
スタスタスタと。衣玖は廊下を歩き、それから地下研究所につながる秘密スイッチを押す。壁の奥から研究所へ侵入し、確かな足取りで奥の部屋へと進んでいく。およそ30秒で地下120階に到達できるエレベータを使い、そこから更に進んだ先の部屋に入った衣玖。
その部屋には緑色の培養液が入った大型のカプセルが一つ。ゴポゴポゴポという水と空気の音が響くそのカプセルの中には人影のようなものが見える。身体を丸くしている少女のように見えた。
それの前に立った衣玖は見上げるようにして呟く。
衣玖「悪いわね……今日という日を……過ごさせるわけにはいかないの。真凛」
衣玖はそのカプセルにそう話しかけたのだ。カプセルの中にいるのは正真正銘、真凛である。
今日はゴミの日であり、そうじの日。そんな日に誰が一番張り切るか? それは当然、お掃除おばけの真凛なのはわかりきっている。
そしてその対象は? 当然部屋が片付いたと言い張り、物が散乱しっぱなしの衣玖に向けられるのである。
衣玖「これはわかりきった展開を阻止するために必要な事だった。恨まないでね。……それに私の部屋は……掃除をする必要はないのよ。全てのモノの位置を、私は把握しているのだから」
それが床よりも机の上の方がキレイな部屋を持つIQ3億の天才の出した答えだったのだ。
衣玖「あなたはその"揺り籠"の中で今日一日眠っていて。日めくりは、そうじとゴミの日以外でなんとか完遂させるわ」
そうして背を向け、リビングに戻ろうと踵を返していく衣玖……だが培養液の中にいる真凛は、ゆっくりと目を開けた。意識を失い、幸せ夢見心地にする効果のあるはずの"揺り籠"も、真凛に対しては完璧な効力をもたなかったのだ。
ドクン、ドクン。真凛の鼓動が大きくなっていく。そしてゆっくり「そうじの日……ごみの……日?」と声を発する。もちろん培養液の中から誰に届くわけもなく、泡のゴポという音のリズムが多少変わる程度に過ぎない。
しかし、完全に意識を取り戻した真凛が内側から培養カプセルのガラスを叩けばわけが違う。ドン、ドンドン。強いノックだ。衣玖は振り向き、真凛の覚醒を目にした。
衣玖「そんな……! 神経にまで作用する"揺り籠"の効果を……!」
真凛「ぶああ! ぶあああーーー!!」
真凛がなにを言っているのかは水分の影響でわからない。だが何か激しく主張しているのは確かだ。
衣玖はすぐに携帯端末を取り出し、液体の効果圧縮濃度を上昇させた。それによって真凛は一瞬、ママにギュッとされたような心地よさに眠りを覚えたが、それを振り切ってまたカプセルを叩く。
真凛「おぞうじー!! ごぼぼ! おどうじじなぎゃーー!!」
衣玖「クッ……そうじの日への渇望が、これほどまでに強いというの……!!」
そして真凛は叩くのをやめ、姿勢を整えると目をつぶり、気持ちよくなって眠りそうになるのを集中してこらえると、今度はカプセルの内側からゴゴゴゴという音が鳴り始める。カプセル内の水分は沸騰したかのような動きを見せ、やがて内側から爆発、真凛は内側からペタペタと外に歩み出たのだ。
衣玖「真凛……! 眠っていなきゃダメじゃない!!」
真凛「お掃除の日に!! ……わたしを封印しようとはいい度胸です、衣玖さん……今日は聖域なきお掃除計画を発動させねばなりませんね……」
衣玖「させないわ……! エマージェンシーコール!」
しかし、真凛は自らが割ったカプセルの破片を衣玖に投げつけ、衣玖を殺害した。
真凛「誰にもわたしのお掃除を止めることは出来ない……」
ペタ、ペタ、と液体の抜ききらない幸せほわほわの気持ちで一歩ずつ地上への道を歩む真凛。それを監視カメラで見ているのが衣玖だった。
衣玖2号「緊急警報発令! 全職員につぐ! "揺り籠"の封印が解かれた!! 対象、サイコパスお掃除マシンが地上へ向かっている!! なんとか阻止しなければ、地球からゴミというゴミが消える!! 汚いお部屋は軒並みいちいち物を取るのに立ち上がったり棚を開けたりする手間がある収納の行き届いた面倒くさい部屋に整理されてしまう!! 総員! 訓練の成果を見せろ!!」
衣玖82号「いまのを聞いたな!! みんな、ここで死ぬ覚悟をしろ!! あのお掃除マシンをなんとしても阻止するのよ!!」
衣玖168号「怖い……怖いよ、兄さん……」
衣玖167号「大丈夫だ、兄ちゃんが守ってやる……教官、衣玖マシン8号には、私が乗ります!!」
衣玖82号「……そうか……わかった。じゃあこの書類の山の中のどこかしらにあるマニュアルを見つけて、多分小物入れの中に入っている起動キーを持っていけ、なかったら玄関だったかもしれん。私はお前がマシンに乗り込むまでの時間稼ぎをする!」
衣玖167号「教官……! 弟よ、この書類の山からマニュアルを見つけ出してくれ!!」
衣玖168号「わかった……わかった!!」
という事が地下で行われていた頃。
留音「……なぁ、なんか騒がしくねぇ?」
あの子「(๑❛ᴗ❛๑)?」
留音「まぁいっか、気のせいかも。カステラうまいなー。久しぶりに食ったけど」
あの子「(⑅•ワ•⑅)」




