2020年5月1日 恋の始まる日
2020年5月1日
今日は恋にまつわる記念日が制定されている日。
「はぁぁ……」
湿ったため息、遠くを見る瞳。思考はどこかへ飛んでいき、誰かのことしか考えられません。
さて、このため息は誰のものでしょうか。
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留音編
留音「よっ、読者!」
登校時、とぼとぼと校門を入り、学校の昇降口へ向かう途中に背中を少し強めに叩かれる読者。爽やかな声で話しかける留音はニッコリと読者に微笑んでいる。
留音「お前の教えてくれた場所、今日はバッチシ覚えてきたからさ! 今日の試験行けそうな気がするよ! ありがとなっ」
読者は昨日、テスト勉強をする留音に要チェック箇所を教えてあげていた。読者は微笑んで、今日の試験頑張ろうと伝える。
イリス「おーい、留音ー」
留音「んっ? おー。じゃ読者、また後でな!」
留音は隣のクラスのイリスに呼ばれて行ってしまった。「今日の試験勉強、今回はちゃんとしてきたんでしょうね?」というイリスに、留音は自信たっぷり「もちろんよ! 今回は余裕で赤点超えるぜ―!」とケラケラ笑っていた。
そんな様子を遠くから見ている読者。留音から目を離せず、それからため息をついた。
いつも快活で、元気で楽しそうな留音。その割に丁寧だし、面倒見が良くて困ったときは助けてくれる。
控えめで静かなあなたにとって、彼女は太陽のような存在だった。そんな彼女の事を想うたび、湿ったため息が自然と出ていってしまうようになったのはいつのことだっただろうか。
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衣玖編
私は悩んでいる。
衣玖「(作ってしまった……)」
自分の技術と、その行き場に。
衣玖「(作ったけど……作ったけどどうしよう……)」
そこではぁ、と自分でも意識せずにため息が出てしまった。
そのため息の源泉は、一人の紳士にある。どこかミステリアスで手先が器用で、ロックな魂を持つその人に、私は初めての感情を抱いていた。いや、ある意味「いつもの感情」を抱いたと言える。
その感情とはつまり知的好奇心。私は一人の男性に初めて興味を抱いてしまった。こんなに相手を知りたいと思ったのは宇宙の先にある壁を超えたいと思った時くらいなものだ。
話したことはほとんどない。学校の先輩で、その人は生徒会をしている。接点は私個人の同好会の月報告に話に行く時に少し見たり声をかけるというだけ。
ある時、彼に打つかってしまった時には、「大丈夫?」なんて声をかけられただけで私の顔は真っ赤になって、その場を逃げ出してしまったくらいに自分が制御出来なかった。
衣玖「(でもいくらなんでもこれはダメよね……)」
知りたいと思っていたら勝手に手が動いて……気がついたら小型ドローンと小型監視衛生、それもどちらも建物を透視可能な強力な赤外線カメラを搭載したものを作っていた。
衣玖「(はぁ……なにやってんだろう私……)」
ため息が止まらない。でもこれを使うかどうかは……もっと自分に勇気があれば自分から声をかけられるのに。
私はひとまずそれらのスイッチを入れること無く、今日もあの人と肩のぶつかった場所の近くへ行って、あの人が通るか遠くから見ることにした。
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聖美編
あたしはイリス。友人の聖美の家に住まわせてもらっていて、彼女のことはもうだいぶ知れてきたと思う。
そんな仲なんだけど、最近聖美の様子がおかしい。いや、おかしくなるのはよくあるんだけど、そういうことじゃなくて。
聖美「あぁーん! 五人少女ちゃん達ぃー! なんでみんなこんなに可愛いのぉおお!」
西香「最近ムーブが面倒くさいことありますわよね、あなた」
西香にすらこうして言われたりして。戦いの時にはそういう部分出さないでほしいなって思うんだけど、これがピタリと止んだことがある。
これは街中で奴らとエンカウントした時の事だった。
イリス「おらおらー!! 今日こそ決着をつけるわよ!!」
なんだかちょっと懐かしいその口上。でもその日は聖美が妙に静かだった。
イリス「(どうしたの?)」
聖美「(えっ? な、なにが……?)」
どこかしおらしいというか、よそよそしいというか。まぁ結局その日も勝負はつかず。
また別の日にも、同じ場所で奴らとの戦いになった。他の場所だと聖美も乗ってくれるのに、そこだと妙に静かになる。近くにあるのは大きな家電量販店くらいで、聖美はチラチラとそこを見て気が散っているようだった。
一体どうしたんだろう。
イリス「聖美、一体どうしたの? あの大きな店が気になってたみたいだけど……」
聖美「えっ!? いや、別にっ……な、なんでもないよっ、あははは……」
また別の日。聖美がいつもより準備に時間をかけて出掛けていく。電池を買ってくる程度の話だったのに、妙に大人ぶった格好をしているから不安になった。もちろん本人に訊いても教えてくれないし、悪いとは思ったけど、あたしは魔法でついていくことにした。
聖美が楽しそうに出掛けて、やっぱりあの家電量販店に入っていく。私は気配遮断の魔法を使って、聖美からは気付かれないように彼女を見張ることにした。
すると聖美ったら、ある店員のおじさんの前でパソコンのグッズを漁り始めた。あたしはパソコンってよくわからないんだけど……そのおじさんとニコニコしながらどの製品が、みたいな話をしているみたい。
……なんだかすごく幸せそう。ほっぺたがポワポワしてて、普段見る聖美と違う女の子がそこにいた。あぁ、なんか察した。邪魔したら可哀想ね。
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あの子編
あの子は一人、とある漫画を読みふけっていた。留音から貸してもらった恋愛モノだ。
五人の少女達が主人公の男の子と紆余曲折ありながら、最終的に一番地味だった子と運命的にくっつく話だった。
「(いいなぁ……)」
自分にはそんな魅力無いけど……もしもこんな王子様がいたら。
今はみんなといるのが楽しくて、好きな人もいないけど……もしかしたらいつか、誰かを好きになったりするのかな。人を好きになるってどういう事なんだろう。そういう気持ちに憧れてしまう。
あの子は窓の向こうの青空を見上げて、軽くて浮いてしまうようなため息をする。
恋に恋するあの子だった。
なお、当然IFである(念の為)




