2020年4月30日 しみゼロの日
2020年4月30日
みんなの家にて。
留音「おいおいおいおい! 嘘だろ!? 西園寺! 西園寺じゃないか!」
衣玖「うわぁ……久しぶりね、遙華」
真凛「えぇー! すごーい! どうしたんですかぁ!? いつ帰ってきたの―っ?」
西園寺 遙華「みなさん、お久しぶりです。帰ってきた、って言うほどでもないのですよ。また少ししたらすぐに旅に出ますからね」
西香「……は? 誰……」
可愛らしいピンク色の長い髪。真凛よりしっかりピンクで、しかしケバケバしいわけではなく気品があるお嬢様のような立ち居振る舞い、落ち着いた口調。まるで女王のように侵し難い領域があるかのようなオーラがあるのだが、西香以外の面々は昔の仲間に出会ったように触れ合って再開を懐かしんでいる。
遙華「あなたが西香さんですね。わたくしの名前は西園寺 遙華と申します。こちらの皆さんと一緒に住んでらっしゃるのですね。きっと楽しいことでしょうね。今後とも皆さんのこと、よろしくお願いいたしますね」
遙華は嫌味なく西香にペコと頭を下げた。
西香「……ちょっと怖いんですけどわたくし。皆さん説明して? こちらはどちら?」
留音「そうか……そういや西香は西園寺に会ったことなかったか」
衣玖「遙華はそうね……旧五人少女の中核とも言うべき存在ね」
真凛「そうですね……たくさん助けられましたっけ……」
ほわんほわんほわん……(回想に入る音)
留音「なぁ真凛~、あたしのプロテインシェイカーの蓋しらない?」
真凛「知りませんよぉ。昨日ちゃんとかたしたんですかぁ?」
留音「そうだと思うんだけどなぁ……おっかしいなぁ……これじゃあプロテイン作れないじゃん……」
遙華「留音さん。タンパク質の摂取に困っているのね。でしたらこれ、ちくわです。差し上げます」
留音「ちくわ……?」
遙華「このちくわね、見た目に反してすごくタンパク質豊富なんですのよ。いっぱいありますから、今日は気分を変えてちくわを食べてください」
留音「おうまじかよ……さっすが遙華、気が利くなぁ」
場面は変わって、宇宙惑星Ga-K星。崖っぷちにまで追い詰められた衣玖と遙華。目の前には巨大原住民。1対2だが、武装のない衣玖に勝てる相手ではない。
衣玖「もう逃げ場がない……そして手元には一本の麻酔針のみ……くっ、遙華、私があいつと刺し違えてでもこの麻酔針で眠らせるわ。あなたは宇宙船まで走ってルーに伝えて……原住民は恐ろしく狡猾で強いって……! あなたはきっと守るから……!」
遙華「衣玖さん……わたくしも力になれたら……っ! でもわたくしには……くっ、今はちくわしか持っていないなんて!」
衣玖「ちくわ……はっ! それ貸して!」
衣玖は遙華からちくわを借りると、その中に麻酔針をセットした。そしてそれを口元に持っていき。
衣玖「こんな原始的な方法に頼ろうとはね……フッ!!」
圧迫したちくわに空気を送り込むことで麻酔針は一気に原住民へと鋭く飛び、首筋に刺さると即座に昏倒したのだった。
衣玖「ふぅ……遙華、お手柄だったわね。まさかここでちくわが出てくるとは思わなかった。ありがとう」
遙華「たまたまちくわの備蓄があってよかったです」
そして場面は変わって学校。
真凛「あははっ、面白いです~!」
先生「こらそこ!! おしゃべりしない! うるさいですよ!」
真凛「あう……ごめんなさい……(怒られちゃいましたね)」
遙華「(仕方ありませんよ、先生は怒るのが仕事ですから……)」
真凛「(でもお話したいですねっ……あれっ? 遙華さん、ポケットに何を入れてるんですかっ?)」
遙華「(これっ? ちくわですわ。小腹が空いたら食べようと思って……)」
真凛「(あっ! そ、それですよぉっ! それを使えば先生にバレずにお話出来ます~! 糸電話みたいで素敵ですし!!」
遙華「(いいですね。ではちくわ電話と参りましょう)」
先生「(よしよし、静かになった)」
ほわんほわんほわんほわ~ん(回想終了の音)
衣玖「あったわね……輝いていたわ、あの時の私達」
西香「ちくわのことしか話してませんわよね?」
留音「あたし今でも忘れてないんだぁ、あの時のちくわの味……お前もだろっ、西園寺?」
遙華「えぇ、もちろん。今でも食べていますから」
その返答に嬉しそうにする留音。
真凛「懐かしいですね……その後遙華さんはわたし達の元を離れて一人旅……そうして西香さんが代わる形で入ってきたんですよねぇ」
留音「驚いたよな、お嬢様口調だし、ふたりともわたくしだし、西寄りの名前してるし……だからあたしらのチームに即採用だったわけだけど、ちょうどお嬢様口調も西要素もわたくし感も欠けて寂しかったからさ……」
衣玖「それがこんな人物だと知らなくて、よね」
遙華「楽しくやっているようで何よりですわ」
西香「なんですのこの方……!」
留音「でも西香が入ってからあたしらのピュアさみたいなのが失われたよなぁ……」
衣玖「そうね、さながらワイシャツに飛んだカレーうどんのように」
真凛「一度しみになったらなかなか取れないタイプの……でも良かったです! しみゼロの日にしみのなかった頃の五人少女を思い出せて!」
遙華「まぁまぁ。それも少し変わった模様という事で良いではありませんか」
西香「わたくしに奪われたのにその余裕……少し腹立たしいですわね……名前は覚えましたわよ! 西園寺さん!」
遙華「ありがとうございます。ではわたくしはこの辺で。皆さん、今後も頑張ってくださいね」
留音「もう行っちゃうのかよー! もっとゆっくりしてけよ~!」
衣玖「そうよ、また一緒にデュエットしたい……」
真凛「せめて晩御飯を一緒に食べては行きませんか?」
遙華「ごめんなさいね。わたくしを待ってくれてる人のためにも、わたくしだけ遊んでいるわけにはいかないんです。でも落ち着いたらまた顔を出しますから、そのときはまたゆっくり遊びましょう、ごめんなさい、またいつか」
残念そうな表情で見送った四人、西香は敵対的な視線を送り、再戦を誓うのだった。(そして恐らくその日は来ないだろう)




