2020年4月17日 働けないハローワークの日
2020年4月17日
今日は公共の職業安定所、ハローワークの日。今日はその辺の話。
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留音編
ジョギング中の留音の元へ電話がかかってきた。
留音「もしもし?」
『あどーもー! お久しぶりです留音さん。あのぉ……訊ねにくいことなんですけれど」
留音「あっ? もしかして会社やめた話?」
『あ、はい……なにがあったのかなぁと……』
留音「いやだってさぁ……あいつらあたしにデータ入力させるんだぜ?」
『えっ……でもそれが仕事で……』
留音「あたしは接客と営業で行ったんだろー? なのにさぁ、色んな事を体験する必要があるとか言ってまずはパソコンの操作を覚えましょうねーなんつって。めちゃくそつまんねー事させてさぁ」
『あの、ですから……』
留音「そういうのはパソコン作業好きなやつがやるべきじゃない? ほんでめっちゃ静かなやつに営業させてんだよあの会社。しかもやらせといてやたら要求高いし。だからやめたー」
『……そうですか』
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衣玖編
職業安定所にて、面談員と話している。
「それで、えー、如月 衣玖さんですね。こちら長所の方に天才とありますが、これは……?」
衣玖「は、はい。IQ3億と端数があるので……天才、です」
「な、なるほど。それで具体的に、これまで経験してきたような職種というのは……」
衣玖「働いたことありません……」
「そうなんですね。じゃあやってみたいことってありますか?」
衣玖「特に無いんですけど、新しい発想のためには適度なルーチンワークで退屈を感じることで脳は新しい閃きをすることがあるので、適度につまんなくて暇でお金になることがいいです」
「はぁ……工場とかですか……?」
衣玖「え……工場ってなんか怖そうな人いそうでやです……」
「じゃあデータ入力なんてどうでしょうか?」
衣玖「在宅ワーク……?」
「いえ、出社ですが、ここから1時間くらいで行ける距離ですよ」
衣玖「1時間って、年間休日120日なら単純計算1年で490時間ロス……嘘でしょ!? ……何もかも非効率……やです……」
「働く気ありますか?」
衣玖「実はあんまり……でも天才だからなんでも出来るから……どこでも働けるかなって……」
「じゃあ思い切って接客とかどうですか? これなら近場で」
衣玖「絶対やだ……」
「……じゃあいい仕事がありそうならまた紹介しますね」
衣玖「はい」
その後連絡が来ることはなかった。
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真凛編
真凛「ふんふんふーん。今日の晩御飯はー」
買い物を済ませて家に変える道すがら、携帯電話がコールする。
真凛「はいもしもし?」
『あ、どうも真凛さん。お世話になっています~』
真凛「……あっ! ハロワのお姉さんだ!」
『そうですー! お久しぶりです、真凛さん、お仕事の方、調子はどうですか??』
真凛「え? あー。……実はやめちゃいました」
『えっ! なにがあったんですかっ?』
真凛「だって……」
真凛はレストランのコックとして雇われていた。その時のことを思い出しながら話し始める。
料理長「吉野さん……困るよこんな事されたら」
真凛「でもあのおばあちゃん、お野菜には火を通してほしいって……」
料理長「でもね、うちにはちゃんと炒めた野菜のレシピもあるの。前菜のサラダを代わりに調理するなんて普通しないよ?」
真凛「でも喜んでくれましたしぃ……」
料理長「あのね吉野さん、そうやって色んなお客さんの要望に答えてたら他のコックもパンクしちゃうよ。お客さんが食べたいのを注文をすればいいんだから。それに混んでたらどうするの? 他のお客さんも待たせちゃうしさ」
真凛「はぁい……」
という感じで、真凛は客とコミュニケーションを取って、焼き加減程度ではすまないような調理の変更を行っていたのだ。例えば今のは付け合せのサラダを炒めて別のレシピにしている。
それが何度か続いたのだが、店からのお咎めでそれが出来ないでいた。常連は真凛の味付けを楽しみに来ていたが、それを振る舞えないのが真凛にとって残念だったし、常連も仕方ないことだがと納得しつつ、やはり残念がっていた。
そんな時、ほとんど他の客がいない中でその常連がやってくる。厨房も開いてるし、今ならやっても大丈夫だろうという気持ちで、前に作っていた料理を振る舞った。すると。
下っ端コック「ちょっと吉野さん、こっち来て」
真凛「はい?」
下っ端「あのさ、料理長が言ったでしょ、そういう事するなって」
真凛「でも今だったら皆さんの邪魔にならないかなって……」
下っ端「はぁ……そういうことじゃなくてね、お客さんだって勘違いするでしょ? そういう事出来る店だって。私が客に要求されたこともあるんだから。ホント迷惑なんだけど」
真凛「でも……喜んでもらえてるし……」
下っ端「そんなのどうでもいいのよ! 新人のくせにちょっと料理が出来るからって粋がらないでよ!」
というような話をハロワのお姉さんに話した真凛。
真凛「だからちょっとやだなーって……」
料理を作るなら美味しいと言ってもらえたり人を笑顔に出来る方がいい。ちょっと工夫しただけで出来るなら、という気持ちだったのだが。
『あー……それは……でもその場所でそうしろって言われたのなら……』
真凛「ぷぅー……」
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西香編
職業安定所にて、面談中の西香。
「それで……はい、特技が弓道、茶道、華道……全て全国大会1位の成績と……」
西香「大したことではございませんわ。それで、わたくしにふさわしいお仕事というのを紹介していただけるのでしょう?」
「えー、はい……それでは……こちらの飲食店での接客業なんてどうでしょうか。都内出てスグのお店ですよ」
西香「飲食店! なるほど、超高級懐石料理のお見せということですね。お賃金の方はおいくらなの?」
「ええと、そうではなく、こちらは家族で焼き肉が楽しめるお店ですね。給料は月給20万円です」
西香「すみません。よく聞こえませんでした。家族で焼き肉を楽しむと日給20万円?」
「いえ、焼き肉のお店です。月給、20ま……」
西香「月給!!!! 20万円!?!?!?!」
「はい……?」
西香「バッ!! ドッ!! どうやって暮らしていくんですの!? たった20万円ポッチで!!」
「えっ……?」
西香「ちょっとまってください、場所は都内……通勤時間、1時間……!? ということは朝起きて準備をして、電車の時間を考えて出勤。見積もり大体2時間ですわね。行きで2時間、帰りはなんやかんやで1時間半と見ましょう。疲れて帰って1時間休憩、8時間労働で……半日つぶれるどころじゃないじゃありませんの!!」
「は、はぁ……」
西香「それで20万円……!? たったの20万円という仕事を、あなたがた『職業安定所』の職員が勧めているんですの……!?なるほど……職業さえ紹介すればその人の人生はどうでもいいということですわね……」
「えっと、もっと近場がよろしければお家から10分の場所に16万円の場所もありますが……」
西香「じゅっ……はぁぁぁー……貧血が……」
「大丈夫ですか……?」
西香「大丈夫なわけありますか。見れば労働基準はこんなのばっかり。およそ人間を人間と思っていませんわね。わたくし、睡眠は8時間きっちり取りたいんですの。そうすると残った時間は3時間? その時間でおトイレやお風呂を済ませて、残った1時間程度で何が出来るんです? そんなんじゃ時間もお金もありませんわよ!」
「あの……」
西香「わたくし決めました。自分のなるべき職業を」
「えっと……?」
西香「政治家ですわ……わたくし政治家になってこの時間とお金のおかしな配分にきっちり罰則を敷きましょう!! こんなお金の職しかない、時間もないのでは、人に生きている意味がありません!!!」
「お、おぉ……」
西香「何よりわたくしに貢げませんわ!!! なるほどわかりました。こんな世の中のせいでわたくしが潤わないことが。もっと人にはゆとりを与えてわたくしを世に知らしめるべきです! そして時間とお金にゆとりができれば自然とわたくしの不労所得となっていく! どうですかここの利用者の皆さん! わたくしに清き一票を投じていただけますか!?」
『おーーー!!!』
適職が見つかった。




