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2020年4月11日 しっかりいい朝食の日

2020年4月11日



 前日夕方。スーパーにて。


真凛(まりん)「明日の朝食は……最近ご飯だったし、パンにしましょっか?」


 真凛(まりん)はあの子と二人で買い物に来ている。かごを片手にして、いつもと同じルートで次の日の買い物をしているらしい。


 あの子は真凛(まりん)と一緒に歩いて、今日はあれが安い、コレが美味しそう、と二人で話しながらぐるぐる回る。


真凛(まりん)「卵はまだありましたよね。ベーコンは切らしてたっけ……ぱんぱぱんー」


――――――――――


 前日夜。イリスは聖美(きよみ)の家に滞在しているため、聖美(きよみ)の家族とご飯を食べている。


 ごく普通の一般家庭に入り込んだ魔法使いだったが、聖美(きよみ)の家族は魔法の存在を割とすんなりと認めて、イリスを温かく迎え入れていた。


 そんな日の晩御飯の時。


イリス「あの、明日の朝食はあたしに任せてもらってもいいですか?」


 聖美(きよみ)も、聖美(きよみ)の両親も、珍しい発言に目を丸くしながらもイリスの熱意に押され、じゃあせっかくだからと、次の日の朝食をイリスにお願いした。


聖美(きよみ)「でもどうして突然朝食を作るなんて……」


イリス「たまには、ね。明日くらいは」


 そうして晩御飯を食べ終えて少し休むと、イリスは魔法の杖を取り出した。


聖美(きよみ)「どこか行くの?」


イリス「ちょっとね。大丈夫、心配しないで。きっと無事に帰ってくるから」


聖美(きよみ)「えっ。それは心配するべきって事……?」


 次の瞬間にはイリスは転送魔法で飛んでいってしまったのである。


 それから待てど暮せど帰ってこないイリス。聖美(きよみ)は心配になりながらも連絡を取る手段が無く、気を紛らせているうちに眠ってしまった。


――――――――


真凛(まりん)「ふんふーん。今日はしっかりいい朝食の日~♪」


 朝ご飯準備中のようだ。鼻歌など歌いながら手際よく全員分のご飯を用意している。


真凛(まりん)「朝はパン~ぱんぱぱーん。フルーツとー、ベーコンレタスにたまごやきー。おいしいのー♪」


 フラインパでジュージューとベーコンの焼けていく香ばしい音。それが良い具合に出来上がると、今度は卵がシャカシャカとかき混ぜられ、十分に混ぜられたらそれをフライパンに流し込み、じゅわー! と心地よい音を立ててきれいな卵焼きに形を変えられていく。


真凛(まりん)「でも毎日しっかりいい朝食~。だからいつもどおりなのー♪」


 お皿には彩りよく野菜が盛り付けられいき、そしてまんべんなく栄養を取り入れられる抜群な朝食が出来上がったのだった。


――――――――――


 聖美(きよみ)が起床すると、イリスのベッドに彼女の姿はなかった。ただ帰ってきた様子はあってホッとして、そのままリビングに向かう。扉を開けた先ではエプロンをつけてせっせと朝食を準備するイリスの姿があった。


聖美(きよみ)「イリスちゃん、おかえりー」


イリス「ただいま。ごめん、朝食もう少しで出来るから。普段やらないから手際が悪くって」


 聖美(きよみ)は食卓に並べられたイリスの用意した食事を見る。プレートには少し焦げ目のついた目玉気とレタスを炒めたもの、それからハム肉みたいなものが焼かれて、トーストされた食パンが添えられている。見た目には不器用な朝ごはんだが、頑張っていることは十分に伝わってくる。聖美(きよみ)は少しニッコリと、朝ごはんを楽しみにしながら席についた。


 やがて聖美(きよみ)の両親も席につくと、イリスが最後にフルーツの盛り付けを出して、みんなで食べ始めた。


聖美(きよみ)「……んっ、美味しいー。なんだろうこのお肉……?」


 聖美(きよみ)の両親も物珍しそうにそのお肉を食べている。それから見覚えのないフルーツ。香りは酸味の抑えられたいちごのように甘い。聖美(きよみ)の父親はむしゃむしゃとそのフルーツを食べている。


イリス「んっふっふ、2つとも魔法界の食べ物よ。こっちじゃ絶対食べられないの。すごく栄養価が高いものだから朝食にぴったりなのよ。一日どころか数日元気でいられるわ」


 聖美(きよみ)の両親は高いものじゃないのか、と心配しているが、イリスは「自分で採ってきたものだからタダなの」と告げると安心でもしたように食べている。


聖美(きよみ)「ハムみたいだけどちょっと違うし……タン? 牛でも豚でもないもんね?」


イリス「魔法生物だからね。これは食べやすく薄切りで焼いたんだけど、あっちではステーキが一般的かな」


聖美(きよみ)「へぇー。でもこれでもすっごく美味しいよぉ。フルーツもシャリってしてるのにすっごく甘くて……」


イリス「でしょう? 取りに行った甲斐があったわ。今日みたいな日じゃないとなかなか振る舞えないからね」


聖美(きよみ)「それにしてもなんの食材なんだろうー。美味しい~」


イリス「ええと、こっちのお肉はね……」


――――――――――


 前日夜。


イリス「悪いわね。勝手にこの渓谷に踏み入って。でももう一つだけ。あなたのしっぽを少しだけそぎ取りに来た」


 イリスは巨大なドラゴンと対峙していた。イリスと比べてしまえば、まるで人間の大人と生まれたての子猫ほどにサイズが違う。常に雷鳴が響き渡るその渓谷の最も奥に済む、その渓谷の王、通称雷帝。雷を纏うドラゴンだ。


雷帝龍「(小さな人の子。王たる我にしっぽをよこせだと。何故だ)」


 長く生きるドラゴンはたくさんの知識を吸収し、やがて多用な生物と脳内で会話をするようになるのだ。


イリス「……明日の朝食を、しっかりいいものにするため」


雷帝龍「(朝食、だと……? 面白い。変わりに我がお前を食ってしまおう)」


イリス「それは良くないわね。人を食ったら駆除対象だから、あたし以外にもそんな冗談は言わないこと」


雷帝龍「(……力関係がわかっていないようだな。小さき人の子に我が駆除出来るものか)」


イリス「やめといたほうがいいわよ。あたしはあんたの1000倍は強い。仕方ない、若い王龍、あんたに魔法使いの強さを教えてあげる」


雷帝龍「GGGGRRRUUUURRRR―――――!!!!!!」


 耳をつんざくほどの咆哮は魔法の力でかき消して、イリスは雷帝龍の住処の奥を確認する。しっぽはそちらに伸びているのと、奥には特別な果物をつけた植物が自生しているのが見えた。


イリス「……そこに生えてるドラゴンサップもいただくわね。うごかないでいてくれたら痛くしないようにしっぽの先を切り取るわ」


 ドラゴンはイリスの魔法の気配に再び吠える。渓谷の魔物全体が怯え、逆に静まり返っていた。


イリス「ま、抵抗するわよね。仕方ない。でも安心して。無駄な殺生はしない質なの。しっぽのさきっぽだけよ。痛くないようにするから」


 イリスは魔力を身にまとい、雷帝との戦闘を開始した――!


イリス「悪いけど速攻でケリをつけさせてもらうわ。慣れない料理をしなきゃならないのよ……!」


 今日はしっかりいい朝食の日。朝食を取る、取らないで一日のコンディションを左右するという話しもあったりなかったりする。


 そして異世界料理モノもできそうな懐の深い日めくりなのであった。

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― 新着の感想 ―
[一言] これが本当のジビエ。 まさに美食ハンターですね。
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