2020年3月31日 真凛を襲う悪魔の囁き ~破壊者・真凛の誕生~
2020年3月31日
記念日を題材に活躍する日めくり大使、五人少女。
時に記念日に縛られ、時に出来事に翻弄され、そしてまた時には語呂合わせに幸福がもたらされる。
日めくり大使はそんな記念日や出来事を大事にするのである。
普通に暮らしているように見える五人少女たちであったが、常に日めくりの者としての自覚を持って行動している。
しかしそんな今日は一体何の日なのか。
西香。トイレから出ても手を洗わない常習犯である。今日もまたトイレから出てきたにもかかわらず手が濡れていない事を真凛に見られた。
真凛は西香がトイレに行く度にこのような事から小さくストレスを感じていた。それによって猟奇殺人を犯したこともあるが(3月15日参照)、やはり西香はなんとしてでも手を洗わなかった。
真凛「もぉー! いい加減に洗ってくださいよぉっ」
それを言われた西香。こっちもいい加減にトイレから出てくるところを監視されたくないのである。そこで西香はある思いつきから、真凛に近づき、こう言った。
西香「真凛さん……今日が何の日だか知っていますか?」
真凛「西香さんがはじめておトイレの後に手を洗う日ですかぁ?」
西香「そんな日は来ませんわ。……今日はね、"些細なことを気にしない日"ですわ」
331でささい、の語呂合わせというわけだ。西香は真凛の耳元で囁いている。
西香「いいのですか真凛さん。あまりそうやって細かいことを気にしていると日めくり大使として大きな間違いが生じることになると思うのですが……?」
西香は余裕の表情で説得力をもって真凛に迫った。真凛は「その手で触らないで」という気持ちであったが、同時に知らなかった記念日を知ってどうすればいいのかわからないでいた。
真凛「えっと……え……でも手はちゃんと洗ったほうが……」
西香「言ったでしょう真凛さん、わたくしは汚れていないの。わたくし的に些細な事なんです。汚れていないのに洗うなんて"些細なことを気にしない日"の精神にもとるとは思いませんか? わたくしは思いますけど」
では。と西香は洗っていない手を振って自分の部屋へと消えていった。真凛は「些細なことを気にしない日」と呟いて呆然としている。
それからリビングへ戻っていつものようにご飯を作っていると、今度は留音が現れた。どうやらトレーニングを終えてプロテインの摂取に来たようだ。
留音「ふぃー。追い込んだ追い込んだ。今日は昨日仕入れたミルクティー味……っと、シェイカー」
留音はゴキゲンにシェイカーに牛乳を入れ、そこにプロテインの粉末を加える。軽量スプーンにもりもりもられたプロテインが少しこぼれて机に落ちる。それから留音の汗も床に落ちる。
真凛「ルッ……だッ……」
留音「ん?」
真凛はなんらかの奇声を放ち、手を中途半端な位置で止めてプルプル震わせていた。脳裏にあの言葉がこだましている。「今日はね、"些細なことを気にしない日"ですわ」ですわ」ですわ」……真凛の魂は縛られた。日めくり大使として「些細なこと」は気にできないのである。
留音「あ、すまん。こぼしてたな」
自らプロテイン粉末が机に落ちていたことに気づいた留音。真凛は指摘せずとも気づいてくれたことに顔をぱぁっと明るくした。これなら"些細なことを気にしない日"に抵触しない、と思ったのだ。
そして留音は。
留音「フッ!」
粉末を吹き飛ばしたのである。真凛は表情を一気に変えた。「なんで!?」という戸惑い、「吹いてどうする!?」という怒り、様々な感情が入り混じった複雑な表情である。信じられないものを見た衝撃で「だぇっ!!」という奇声もあげた。
それから留音は残った粉末を手で振り払い、その辺でパンパンと手を叩くようにして目一杯プロテインの粉末をその辺にバラまいたのである。
留音「おっけおっけ」
真凛の今の表情にある言葉は「何が!?」である。留音は満足したようにプロテインをシェイカーでシェイクしながら汗をポタポタ流してプロテインを飲み干し、やがてクールダウンを行いに戻っていくのだった。
真凛「はぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁはぁ……」
相当の疲労感にさいなまれる真凛。些細なこととは一体なんだろうか。相手が気にしていないということは、相手にとっては些細なことであろうか。しかし些細さのレベルは人による。自分の場合は、相手の場合は。どこを持ってして「些細なことを気にしない」を実践できるのか。
真凛の中でそんな哲学じみた考えが巡り巡る。次に現れたのは衣玖であった。既に嫌な予感しかしていない真凛。しかし。
衣玖「あぁ真凛、ちょうどよかった。ちょっと手頃な箱を探してるの。今棚が一杯になっちゃって……冬用の上着がしまえるような箱みたいなのって無い?」
真凛「え……? は、箱……?」
聞き間違いでなければ、衣玖はもしかして片付けをしているのではないか。
衣玖「流石にね、最近思ったのよ、季節モノの上着くらいは片しておいても良いのかなって」
真凛「はっ……わぁっ……!」
衣玖の上着、ここで話しているのは羽織るようなタイプの物の事だろう。それらは基本的に何か棒的な物に引っ掛けられて一年中見えるところに放置される。今着たいものが一番上に引っ掛けられ、季節が外れたものは床に丸まっているか下の方にかろうじてくっついている。出来の悪いクリスマスツリーがいつでもそこにあったのだが。
真凛「ついにアレ片付けてるんですかぁ!? すごーい!」
真凛は先程までの暗い気持ちを吹き飛ばし、衣玖のために急いで収納ボックスを用意した。
真凛「手伝いますよぉ! そうですよねっ、まだちょっと寒いですけど、冬本番の時の上着はもうそろそろしまって良さそうですし……!」
ただでさえ外に出ない衣玖だ。なんであれしまうべきである。
衣玖「そんなに気合入れなくても……」
衣玖はやれやれと部屋に戻り、その収納ボイスを開けて丸まって団子みたいになった冬本番用の厚手の上着をボックスの中へ……ぽいぽい放り込んでいった。
真凛「あ、あれっ……あの、ちゃんと畳んで入れたら……」
衣玖「いいのいいの。また次着る時に洗うなりクリーニングかけるなりするんだし今の状態なんてどうでもいいの、些細なことよ」
真凛「ぎゃ!!!」
踏んだ。地雷を。真凛は言霊の爆風で中空へ、そして成層圏を飛び越え、宇宙へと飛び上がっていった。
真凛「もうだめです……今日はやっていけません……"些細なことを気にしない日"なんて……あああああ!」
真凛は無重力状態でくるくる回って考えた。
些細なこと。気にならないような事。とるに足らないこと。でもそれは誰の目線で見たかによるのだ。
真凛「そうですよ……この考えはそれこそハラスメントの温床じゃないですか……些細な事! そう断じる人間ども……! わたしにとってはお前たちこそ些細な存在であることを知るが良い!!」
真凛のストレスは極限状態だったのである。人から些細さを要求される事……それは誰にとっても小さな事であるという確証は無いのだ。塵は積もる。真凛がそれを掃除する。
真凛「おりゃああ!!! 些細な地球は滅べ!!!」
こうして真凛は"真凛にとって些細な力"で地球を破壊し、この悪しき"些細なことを気にしない日"という概念を駆逐し、それが生まれない世界として再構築したのである。この文章を読んだ読者は"些細なことを気にしない日"があった世界には恐らくいないだろう。
つまりそういうことである。真凛は一つの記念日を破壊した。これが解放者ルネと対となる存在、後の破壊者マリンの誕生の瞬間であった。
明日の日めくりは更新が少し送れる可能性があります(数分だけかもですが)
でも絶対見に来てね!




