2020年3月29日 八百屋お七の日
2020年3月29日
ドラマチックデー長編、すなわち擬態虫との戦いが終わって二日。収束したかに思えたその戦いは未だ地球にその火を燻ぶらせていた。
真凛「まさか聖美さん……あなたまで乗っ取られてしまうなんて!」
そう、何故か擬態中は最強の変顔使いである聖美に寄生していたのだ。
黒い服と赤い目。聖美はニタリと笑って五人少女たちの前に現れる。
聖美「さぁみんな……私の名前は擬態虫。この聖美ちゃんの命が惜しくば私に従うがいい……!」
擬態虫は聖美の身体を操り、完全に新しいアプローチを持って五人少女たちを陥落させようとしているらしい。
西香「聖美ちゃんて」
西香は面倒くさそうにその様子を座って見ている。
留音「く……まだ生き残りがいたのか、あの虫に……でもいい加減引っ張り過ぎだぞ……!」
真凛「そろそろうんざりされてくる頃だからすぐ終わらせないと!」
聖美「そんなこと言わないで乗っかって……。油断をつく作戦ではみんなに勝てないと思った擬態虫はこの皆のことが大好きな聖美ちゃんを人質として使うことでみんなに近づくことに決めたの……」
衣玖「どうしたのかしら擬態虫、すごく解説してくれてるけど……」
聖美「さぁみんな!! この聖美ちゃんの命が惜しかったら……どうしよう……」
留音「何だ……何を要求してくるんだ……っ?」
聖美「……あの、じゃあ……私に抱きついて!!」
真凛「そんな事出来ません! そうしたらまたわたしたちに寄生するつもりでしょうー!」
聖美「あ……じゃあどうしよう……じゃあこうしよ! 一人ずつ個室で写真を撮らせて! そうしたら聖美ちゃんは解放してやろう!!」
衣玖「えやだ……」
留音「というか待て。要求のレベルもおかしい。というかそもそもイリスとアンジーは……あいつらはどうしていないんだ?」
衣玖「確かに……イリスは擬態虫への特効魔法を習得してるし、仮に寄生されてもそう簡単に野放しになるとは思えないけど」
聖美「んふふ、知りたい? あの二人がどうなったか……」
聖美の挑発するような言葉に息を呑む五人少女達。西香だけはどうでもいいやと退席してどこかへ行ってしまった。それを聖美は「あっ……」と見送りつつ、今はこっちだと気を取り直してから言った。
聖美「イリスちゃんもアンジーちゃんもね……私が食べちゃったの! キャッハッハ!」
留音「た、食べた!?」
聖美は素直に「うん!」と頷いている。
衣玖「どういう意味なの……!?」
聖美「文字通り、パクパクむしゃむしゃ……だから二人共ここにはいないの!! あーっはっは!」
真凛「な、なんて猟奇的な事を……擬態虫さんはそんな事しないはずですけど……」
聖美「えっ? そうなの……?」
何やら風向きが怪しい。
衣玖「そうね……宿主の過ごし方がそのまま擬態虫に反映されるという話だから……食べないでしょ普通……」
聖美「……」
聖美は考え込んでいる。それから。
聖美「ふ、ふははは! 食べたというのはご飯にしたという意味ではない! ここでは言えない別の意味で、だ!」
その意味については深く考えていなかったが、留音がぎょっとした表情で言った。
留音「エッ……どどど、それはどういう……? えっ……どういう事? やめろよお前、そこはラインだろ……」
聖美「ち、違うよ! その食べたじゃなくて……っ」
何故か留音の発言にあたふたする聖美。二人共共通の知識を持って話しているようである。
衣玖「……んん? よくわからないけど、聖美、本当に寄生されてるの? 言動諸々ただのおかしい人になってるけど……」
真凛「光を当ててみればわかりますよね? えーい」
真凛は次元に穴をあけると、そこから太陽光が差し、聖美を真夏の直射日光のように照らした。
聖美「ぎゃあああああー! 眩しいー!」
暑さこそ遮断されてはいるが、その明るさだけで焼き尽くすほどの光量に聖美が叫ぶ。
真凛「あれれ? 黒いのが元に戻りません。おかしいですねぇ☆」
真凛は楽しそうに次元の穴の位置を変えて光によるストレスを与え続けている。
衣玖「薄々わかってたけど。聖美、あなた寄生されてないでしょ」
聖美「うわーん! もう許してぇ~!」
真凛「そんなはずありません! つい一昨日から今日ですよぉっ、きっと擬態虫さんの生き残りが……」
真凛は昔の刑事ドラマの如く、聖美の顔面に向けて光をオンオフでチカチカ。聖美がどんなに嫌がってもまぶたの上からでも感じるほどの光を浴びせ続ける。聖美の脳にダイレクトで光ストレスが送られる。
聖美「うぐっ、ごめんって~!」
留音「おい、もうやめてやれよ……ガチ泣きしそうだから……」
どうやら真凛も途中から聖美の悪ふざけだとわかっていたらしい。それでお灸をすえるつもりだったようだ。やれやれと光を閉じられ、そこに留音が聞いた。
留音「……だいじょぶか? なんでこんな事してんの?」
留音が近づき、聖美の首筋にある擬態虫のような模様を見る。どうやら水性マジックで自分で描いたもののようだ。服もわざわざ真っ黒な物を選び、目にはカラーコンタクト。完全に擬態虫による悪堕ちコスプレであった。
聖美「だって……ぐすん」
衣玖「だって?」
聖美「こうやってまた大きな問題に直面すればまた長編が出来るかなって思ってぇ……」
留音「いや、聖美の要求はそう大きくもなかったけど……」
真凛「もぉー。聖美さん、また長編がやりたくてこんな事したってことですかぁ?」
聖美「どっちかっていうと……」
衣玖「どっちかっていうと?」
聖美「みんなに感動的な方法で助けられてヨシヨシってされたかったの……」
真凛「犯罪のサンプルケース☆」
今日は『八百屋お七の日』である。かつて火事による避難先で出会った男に恋をしたお七は、もう一度火事を起こせば会えるのではと考え火事を起こし、後に極刑がくだされたのだそうだ。




