2020年3月19日 カメラ発明記念日
2020年3月19日
真凛「うーん、固いですねぇ」
お昼過ぎのこと。今日の日めくり、カメラ発明記念日を終えた五人少女たち。なんとなく用意したカメラで写真でも撮っておこうという流れになり、衣玖の発明した美少女カメラによって撮影をしていたのだが。
西香「現実写りもよくありませんのに……」
真凛と西香は撮影された写真をディスプレイで確認している。
衣玖「だって記念写真とか言うから……」
留音「それにしてもガッチガチなんだよな。もっと普通にしてればいいんだよ」
衣玖「それはわかるけど……突然撮ってくれればいいのよ。カウントダウンとかいらないから。ハイチーズっていうのがもう、駄目」
真凛「わかりました。じゃあ皆さんが油断したくらいでリモコン押しますから」
真凛は再び記念写真の撮影のための位置につく。片手にはリモコンを持っており、真凛のタイミングでいつでもシャッターが切れるのだ。
留音「まだ駄目だぞ。カッチカチだから衣玖」
衣玖「そういう事言わないで。すこしずつ油断させて」
はぁあ、と西香は呆れたようにスマホをいじっている。あの子はみんなの光源となってみんなの写真うつりをおよそ百億倍上昇させている。
真凛「(そろそろかな……)」
真凛はこのようなタイミングを図るのが得意なのかもしれない。相手の呼吸の隙を突き、ぬるりといつの間にか背後を取り、凶器の切っ先を相手の首につきつけるのと同じようにシャッターを音もなく押した。
留音「ぅわっ、アブな……完全に油断しかけたところだったわ今……」
再び写真を確認する五人。真凛はニコニコ、留音は凛として、西香はスマホをうまく机の影に隠し、なんと目線だけカメラに向けて微笑んでいた。見るだけなら美少女である。あの子は相変わらず光源。そして衣玖は……。
衣玖「さっきよりずっとマシね。よく撮れたと思う。これでいいわもう」
真凛「目、瞑っちゃってますけど……」
西香「はぁ無様。写真一つこなせないなんて。いいですか、写真を見た人をすべからくわたくしを好きにするような視線を……あっ、衣玖さんとわたくしは違う生物でした」
衣玖「あーもう! 仕方ないでしょ! あの光るレンズがこっちを見つめてくる感じが怖いのよ!」
留音「お前は鳥か」
カメラで撮られるよりカメラを作るほうが得意。そんな衣玖だった。
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続いて場面は変わり夕方、アンジー宅。
今日はカメラの日でもあり、ウィッグの日でもある。そんな今日、男の娘アンジーはシスジーことリアル姉にウィッグで遊ばれていた。基本的にアンジーの髪型はふんわりとした肩にかかるかかからないか、くらいの髪型なのだが。
シスジー「ひゃあああアンジーちゃん! こっち! こっち見て! 髪さらーってしながら!」
今日はウィッグによってロングヘアになっている。
アンジー「こう?」
アンジーが斜めに首を傾げながら、涼しい表情で髪をさっと流すようにする。それをレンズ越しに覗くシスジーはカメラの連写モードで撮影しまくっている。
シスジー「ああああああがわいいい!!……で、ちょっとッ……ちょっと四つん這いに……それで腕をこう……」
シスジーは手首をくいくいっと曲げて、いわゆるネコのポーズというか、女豹のポーズを要求する。
アンジー「もう~! 姉ちゃんがやっても変わらないんだから姉ちゃんがやってよー!」
シスジー「全然良くないよー! 男の子だからいいんでしょ!!! ときめくでしょ!!! あああロングも似合う!! 髪をこうやってクルってやって……あぁっ!!!」
ウィッグを得たアンジーは美少女力を大幅に増し、その姿をしっかり画像に記録されている。
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その日の深夜。最小の明かりの元で聖美はコソコソと数枚の写真を眺めていた。
聖美「(今日はカメラの発明日……ダゲールさん、発明してくれてありがとう……)」
聖美は一枚ずつ、愛おしそうに写真を整理している。
聖美「(こうして五人少女ちゃんたちの可愛い姿を写真に収めることが出来るのはあなたのおかげです……)」
同居人であるイリスはすっかり眠っているようですやすやと吐息が聞こえてくる。
聖美「(あとはいずれ瞬きと同時に写真が取れて、目で見たものをそのまま残せて音も光も出ない上に相手にも悟られない超高性能カメラが発明されればいいのにな……)」
整理を終えた聖美は鍵付きの机を開き、奥の方に大事にしまう。
聖美「(今音がしないカメラってあんまり画質良くないし……これみたいに……)」
聖美は手に持ったペンをじっと見つめている。そのペンの上半分は不自然に膨らんでおり、その一部には良く見ないと気づかないような丸いレンズがついている。
聖美「(世界がもっと便利になりますように)」
机にそのペンもしまい、鍵をかけた聖美。イリスの隣のベッドで眠りにつくのだった。




