2020年3月3日 3x3の日
2020年3月3日
イリス「滾るわね。滾るわ。日めくりの中で日めくりとしてチーム戦が出来る瞬間が来るなんてね」
留音「ふ、今日はスリーオンスリーの日。お前達に合わせたレギュレーションの記念日だな……」
イリス「ふふ、そういう事。あたしらはその記念日に乗っ取り……このバスケスリーオンスリーで勝負させてもらう! 受けて立ちなさい留音!」
留音「望むところだぜ……! いくぞみんな!! バスケ大会だ!!」
衣玖「私はパス。審判するわ」
留音「期待してないし。というわけで、こっちのチームはあたし、真凛、そしてあの子だ!」
聖美「えっ! あの子も一緒に遊んでくれるの!? いいの!?」
真凛「本当は突き指とかが怖いのですが……お上手だそうです!」
アンジー「そうなんだ……やった……あの子と遊べる……!」
イリス「良いでしょう! 勝負よ五人少女共!!」
こうして戦いの火蓋は切って落とされた! バスケ、スリーオンスリー開始である。
ダムダムダムダム! 先行してボールを取った留音のドリブル音が体育館に響いている。器用にボールを捌き、三歩ほど前に出たところでイリスが立ちふさがった。瞬間、キュキュとシューズのグリップを効かせて真凛にパスを出す。
真凛はそれを両手でガチッと受け取ると、そのボールを両手でダムダムし始めた。
衣玖「ピーっ(笛の音)ダブルドリブルー。ミニーズにボールが渡りまーす」
真凛「え~」
留音「……あれっ、待って……まさか……」
留音は嫌な予感がしたが、試合の再開に合わせて聖美とアンジーの付近につき、パスのルートを制限していた。イリスの投げたボールがアンジーに渡ろうとするのだが、それを留音がさっと奪い取り、そのままドリブルをしてスリーポイントシュートを決めた。それなりに距離がある場所からのシュートだ。
留音「っしゃー!」
アンジー「うわ、うっまぁ……」
イリス「大丈夫! まだ取り返せるわ!」
そしてすぐに再開される試合。留音はあの子へパス、あの子は真凛へと、的確にパスをつないでいった。真凛は再び両手でガッチリキャッチ。その後再び両手でドリブルを始める。
衣玖「ピピー。はい、ダブドリ―。ミニーズボールね」
真凛「えぇっ、もう衣玖さん、意地悪言わないでくださいよぉ」
衣玖「だってバイオレーションってところに書いてあるんだもん。両手でのドリブルはだめらしいわよ。左右の手でドリブルをするタイミングが完全に一致なら大丈夫だそうだけど、真凛のはちょっとずれてるし」
留音「お、おい真凛……お前バスケ好きって言ってたけど……」
真凛「バスケット漫画は読んだんですよぉ><」
留音「あ、そうか……それなら確かに好きっていうよな……」
イリス「くっくっく、ふははは、実質3対2ってわけね! 勝てる、勝てるわよ二人共!」
試合再開。ミニーズボール。次のパスはアンジーから、イリスに向けて出されたものだ。ボールをキャッチしたイリス、一歩、二歩とボールを持ちながらステップを踏み、その流れでもう一歩。
衣玖「はい、トラベリングってやつね。ボールの所有権交代ー」
イリス「えっ! 三歩歩いただけなのに!」
留音「それがトラベリングっていうんだよ」
イリス「……難しいわね」
ちなみにこのあと、イリスもダブルドリブルを行って真凛と同様、バスケをやったことがないということが判明した。実質2on2となったわけだが。
イリス「くっ……仕方がない、聖美、解放するわよ!」
留音の快進撃を止めるべく、ミニーズ側は秘策を用意していた。
聖美「オッケー! ……ハイッ!!(変顔ディフェンス)」
留音「んぶっふ!!」
ボールを奪った留音の視界に入る聖美の変顔。ここからは怒涛の戦いが始まる。聖美は常に留音の視界の中で変顔をし続けた。笑って力を無くす留音と真凛&審判、たまにイリスも。
ちなみにバスケには変顔禁止のルールは無い。だからいくら変顔で相手の妨害をしようとなんのファールにもならないのだ。
戦力を直接割く変顔に、場は荒れに荒れていく。
しかし聖美は、その変顔をあの子にだけは見せることが出来なかった。もしもあの子に見られたら自分を深く恥じることになるだろうし、夜寝る前に思い出し、恥ずかしくて消滅したくなると思うだろうからだ。
だからあの子は五人少女チームの中で唯一万全に動くことが出来た。そして意外にもその動きは悪いものではないどころか、2点や1点でのシュートを何本か決めていたのである。
それに対抗出来るのがアンジーだった。華奢な体ながらドリブルの練度が高く、スピンとクロスを使ったボール運びを決めていき、同じようにシュートを決めていく。
拮抗する二つのチーム。試合は終盤になり、お腹のよじれた留音は戦力にならず、聖美も留音の変顔ディフェンスで忙しい。
真凛とイリスはボールを持てばバイオレーションで相手にボールを渡すだけなので、もはやほとんど動いていない。だから活躍しているのはほとんどアンジーとあの子の二人だけである。
試合終了までのタイムリミットはも十数秒。点差はミニーズが2点リード。そんなタイミングでミニーズゴール前、あの子は爆笑中の留音からのヒョロヒョロパスを受け取った。目の前にはアンジーがディフェンスのために立ちふさがっている。
そしてあの子がシュートのためのジャンプ、アンジーもそれに合わせて手を掲げてブロックするが、あの子はフェイントからサイドへのパス出しで、差し込むように真凛へボールを流した。受け取る真凛は「ボールを持ったら自分は動いてはいけない」事を学習しながら、もう一度素早く動いたあの子へとパスを回した。
時間的にここがラストチャンス。さっきよりもすこし離れたポイントで受け取ったボールを、あの子はゼロステップでゴールに詰め、即座にジャンプ。沿った背中、綺麗なジャンプフォームで優しくシュートされたボールは、3点の位置から綺麗な放物線を描く。
タイマーは3,2とカウントを進め。
イリス「(入らなければ勝ち!)」
真凛「(お願い入って!)」
衣玖「(かっこいい……)」
聖美「(べろべろばあああーーー!!)」
留音「ぶっひゃっひゃっひゃっひゃ!!! ひぁああああ! 死ぬ! 死ぬ!」
あの子「(……入った)」
アンジー「(負けだ……ボクたちの……)」
ボールは空中にありながら、シュートを放ったあの子と、それを間近で見ていたアンジーだけはその結果をいち早く頭の中で察知していた。
カウントはゼロとなり、試合終了。ボールはリングを通過して、ダムダムと音を立てて跳ね転がっている。
ほんの一点差の決着だった。
衣玖「かっこいいー! 試合終了ーー!」
イリス「そんな……1点差で負けるなんて……」
留音「ぶっふ……ぶっはははあ、やめで……もうおわっだがら……死ぬからぁ……ひぃいい……」
ミニーズは肩を落とし、五人少女達は笑って瀕死状態になっている留音の介抱にあたりながらその勝利を喜んだ。
アンジー「ごめんね、ボクが最後に防げてれば……」
聖美「何言ってるの! アンジーちゃんがいなかったら点取れなかったもん!」
イリス「そうよ。あたしがルールをよく把握してないのもいけなかった。10回位相手にボールを渡しちゃったんだから……」
ちなみに同じくらい真凛もミニーズにボールを渡しているのでどっこいである。
そこにあの子が歩いてきて、アンジーに片手を伸ばした。ニッコリと笑って「楽しかったね」と。あの子から流れる汗はまるでダイヤモンドのようにキラキラと光り輝いている。
アンジー「あっ……」
アンジーはおずおずと手をのばすと、あの子のほうから掴み、「また遊ぼうね」と言って優しい握手と手のぬくもりをアンジーに伝えてチームに戻っていった。
イリス「次こそ絶対に勝つわよ……あたしももっと仕上げてきて、今度こそボールを持ったら二歩以上動かないように意識するわ」
聖美「私も次こそ勝てるように、もっと変顔を極めなきゃ……!」
それぞれが次の戦いに向けて気合を入れる。
アンジー「……楽しかった……」
やはりまだミニーズは届かない。だが精一杯戦ったアンジーには言葉にできない充足感に満ちたのだった。




