2020年3月1日 マヨネーズの日
2020年3月1日
第366星雲の遠い星。五人少女たちは宇宙平和維持を目的とした惑星調査のためにそこへ降り立っていた。
衣玖「それじゃあ西香、見張りは頼んだわよ。燃料の補給もよろしくね」
西香「はぁめんどくさい。でも調査もめんどくさいですし。わかりましたわ。ぱぱっと終わらせてきてくださいな」
宇宙の平和と幸福を保つために、五人少女達はこうして人知れず宇宙の調査を行っているのである。
その星のコアには不思議な施設があった。恐らく地球よりも広大なテクノロジーを持ったどこかの宇宙人が作った人工惑星なのだろう、管理システムが動いている。だが何があったのか、その星にはもう知的生命体は住んでいない。
その施設深部にある管理システムの具合をチェックする衣玖。他惑星の技術であれIQ3億にとっては大した弊害にならない。
真凛「どうですか、衣玖さん。この星は壊す必要がありそうですか?」
真凛は破壊係だ。良くない挙動をする星を消滅させ、宇宙の平和を保つのである。
衣玖「そうね……今の所害は見えてこないわ。しっかり衛星軌道に乗っているし、今ざっと計算してこれから最低でも1000万年はどことも接触しないでしょうね」
真凛「そうですかぁ」
どうやらその星は安全らしい事がわかった。つまりここへ来たのは無駄足だったのである。しかしこういった調査が、宇宙の日々の平和に繋がっている。五人少女たちはこの苦労を厭わないのである。
留音「今日はあたしの出番もないな。それじゃあ戻るか」
管理システムのある施設を抜け、西香の待つ宇宙船を止めた建物へと戻ったのだが。
留音「なにやってんだこいつ」
そこには建物の壁に体を埋めた西香がいた。下半身だけがこっちに出てきている。
西香「あっ! 皆さん! お戻りですか! ちょっと助けてくださいませんか?! ここにこの星の紙幣らしきものがあったのですが、取ろうと思ったら体が抜けなくなりましたの! 引っ張ってくださる?!」
足がバタバタ動いている。
衣玖「……燃料は入れたの?」
西香「お金らしきものは入手しましたわ! でも燃料を入れる暇はありませんでした!」
真凛「忙しそうですもんね~……」
留音「置いてく?」
西香「ちょっとー!」
やれやれ。そんな気持ちで留音が西香の足を引っ張るのだが、かなりしっかり埋まっていて抜けない。西香が「いたいいたいいたい!」とバタつくものだからなかなか動かないのだ。
そしてそんな時だった。先程の管理システムのあった施設から、大きなサイレンがなり始めたのだ。続いて地響きまで。
留音「お、おい! どうなってるんだ!?」
真凛「……むむっ。地面の奥の方で何か動いているようです」
真凛は惑星の現状を読み取る能力があった。それで何かを察知したらしい。
衣玖「なんだろう、システムトラップに引っかかった……? いや私に限ってそんなことがあるわけない。でもそういえば……」
留音「おい、なんか急に気温上がってきてないか、この星……」
衣玖「やっぱり。記録の中で炎や煉獄という意味を持つ言葉がたくさん使われていた。詳細な解読は後でするつもりだったけど……こういうことか」
真凛「そうみたいです! 地下深くのマントルが吹き出してきているのを感じます―!」
西香「ちょっとー! 誰か! 早く抜け出させてくださいな~っ!」
留音「仕方ねぇ、この壁を破壊して……」
真凛「待ってください留音さん! どうやらこの壁の作り、地下の深いところまで刺さるように作られています……あまり強い衝撃を与えるとマントルが一気にこっちに流れてきてしまうかも知れません~!」
留音「そんな事ある!? どうすんだそれ!?」
西香「や~! 早く出してください~! 燃料補給もしっかりやりますからぁ~っ」
西香は足をばたつかせて訴えているが他の3人には既に頭の中に「やっぱり置いていく」という選択肢が浮かびかけている。気温は急激に上昇し、もうみんなじわりと汗をかいていた。
衣玖「暑いわね……この気温上昇の速度だともう10分もすれば皮膚が焼け始めるわよ……」
真凛「絶体絶命じゃないですかぁ!」
留音「あたしの超最強波でマントルを散らしてなんとかできないか……?」
衣玖「そうね……リスクは大きいけど最終的にはそれしか……西香を引っ張り出せなかったらね……」
西香「早く助けてください~!!」
留音「抜けないんだよ! なんで穴にハマったあとで抜けなくなるんだよ!」
西香「知りませんわよ!! この壁もわたくしのゲキカワスリムボディを離したくないんでしょッ!」
真凛「う~、困りました……今はお外で小腹が空いた時にマヨチュッチュするためのマヨネーズしか持ってきていませんし……しかも熱でなんかとろとろしてきてます~……」
衣玖「マヨチュッチュ……それよ! 真凛、そのマヨ貸して!」
真凛「えぇっ! 何に使うんですか?!」
衣玖「この油で西香の体を滑りやすくするわ! ちょうどいいドロドロ具合ね……熱で脂分が出てきていしまっているから」
そう言って衣玖は西香と穴の辺りにマヨネーズを塗りたくった。
西香「ひぃっ、マヨネーズ塗られてるっ」
衣玖「我慢して! ……よし、これでトロマヨを塗れた。ルー!」
留音「よしきた! 抜けろー!」
西香の体をすこし押したり、それから引いたり。穴の部分とマヨの部分を交差させることで更に滑りやすくした西香の体は、ヌメッとしたタイミングでスルッと抜けたのだ。
留音「抜けた! 宇宙船へ戻るぞ!」
西香「マヨネーズの匂いがしますわ~……」
こうしてみんなは船に乗り込み、衣玖がコックピットのコンソールで操作すると宇宙船は空高くへ飛び立った。その星がマントルまみれになる前に脱出が成功したのだ。
真凛「ふぅ。よかったですねぇ」
衣玖「そうとも言えないみたい。新しい問題発生よ」
留音「おい……今度は何だ?」
衣玖「燃料よ。ここへ来るのでそこそこ使っていたからね。いま現状、地球へ戻るための燃料が搭載されてない状況よ」
西香「そうでしょうね。わたくし入れてませんから」
留音「開き直るんじゃねーよ……でもそれならどっかの星に降りてまた入れればいいんじゃないか?」
衣玖「それが……燃料パック、あの星に置いてきたみたいなのよ」
西香「そうでしょうね。わたくし入れようとはしましたから」
つまりこういうことだ。西香は燃料パックを宇宙船に詰め込もうとするところまではしたのである。だがその途中で何かお金らしきものを見つけてパックを一度置いたのだ。それはそのまま、今マントルマグマに飲み込まれて跡形もなく消えている。
留音「おい……どうすんだよそれじゃあ?!」
衣玖「どうしようもないわね……数年宇宙で漂ってれば地球圏に戻ることは出来るわ」
留音「そんなのって……おい西香!!」
西香「だぁーって! 仕方ないじゃありませんか! 起きてしまったことは!」
真凛「でもあの、問題が一つ……」
衣玖「ふぅ……なに?」
真凛「食料備蓄……マヨネーズしかありません……」
留音「なんで!?」
真凛「マヨネーズは栄養価も高いからいいかなって……それに日帰り予定だったからおやつ代わりにって思って……」
留音「……その話どこかに納得する要素あるか?!」
衣玖「マヨネーズ……ハッ……!」
西香「衣玖さん……? まさか妙案が?」
衣玖「ふふ、そうね……そうだわ。マヨネーズは油を含んでいる……つまり分離すれば燃料にもなる! それに貯蔵庫一杯のマヨネーズなら十分に地球へ帰るための燃料の代わりになるわ! みんな! ありったけのマヨネーズを集めて! 私は油分分離機と直接燃料として注ぎ込めるシステムを作ってくる!」
留音「おい! 流石に無理やりすぎるぞ!! そんなことできるのか?!」
衣玖は不敵に笑い、そして自分の頭をとんとんと指でさして言った。「3億」と。クルーにとってこれ以上無い、心強い言葉だった。それもしかしてマヨネーズ無くても行けるんじゃないの、みたいなことは誰も言わない。
真凛「さすがマヨネーズです……安い、美味しい、栄養価も結構良いってだけじゃないなんて……!」
万能、マヨネーズ伝説。彼女たちを救ったのはマヨネーズだったのだ。食べ過ぎはもちろん良くないが、マヨネーズは良いものなのである。




