2020年2月20日 アイラブミーの日
2月20日
西香が何やらパソコンを使ったテレビ電話で話している。それもスマホのゲームをしながら。
西香「……というわけですから、あなた方はとても幸せなのですよ。わたくしのような……あっ……またUR出ないじゃありませんか……なんでしたか。そう、わたくしのような超絶美少女に貢ぐことが出来て。ほら見てください。今回のガチャ結果を。最低保障。最低保障ですわよ。SR一枚だけ。こういう事がありますからね、わたくしは皆さんからお金を頂いているんですの。もう100連分溶けてしまいました」
パソコンの音声からはどこかに繋がった音声なのか「あ~……」という残念そうな野太い声が聞こえてきている。家の五人少女たちは黙って自分のやりたいことをしながら、西香のやり取りを聞いていた。
西香「ですからね、皆さんは本当に幸せなのです。わたくしのようなかわいいかわいい美少女の笑顔を作る手伝いが出来る立場にあるのですか……あーっ!来ました!来ましたわよUR!!これで完凸ですわぁー!」
やったやったー!と、0.03%×5枚分の壁を破り、ついに目標に到達したことで西香は満足感に満ち溢れた笑みを浮かべた。パソコンのカメラを通じてその様子がどこかへと送られ、今度はわぁー!という歓声が聞こえてくる。
西香「早速限界突破をしなければなりませんわね。……でありますから、皆さん、わたくしのために懸命にもっと頑張りなさいな。でも体を壊してしまっては意味がありませんからね。全力で働き、全力で休む。そしてギリギリのラインまでわたくしに貢ぐのですよ。わたくしは常にあなた方の前に立ってあげますから、安心して貢ぐと良いですわ。じゃ、そういうことで。わたくしは忙しいので本日のファンミーティングは終了ですわ」
そう言って一方的に通信を切った西香。どうやらファンクラブ会場と生中継がつながっていたようだった。
会場では落胆の声もあがったが、それ以上に最後に西香の満足そうな顔が見られてよかった、今日は声がたくさん聞けたなと、歓喜の声も上がっていたようだ。ファンクラブメンバーたちは月会費3万円を払っている価値があるなと喜びを分かち合ったのだった。
それを脇で聞いていた同居人達。
留音「ほんとにわかんねぇなぁ……どこがいいんだろ……あくどいと言うかなんというか」
衣玖「まぁ本人たちが満足してるならいいんじゃない」
留音「それにしたってさぁ……いつか粛清されるんじゃないか、西香のヤツ……」
衣玖「でも私はね、そういうところに関して実は西香に事尊敬出来る所があるのよ。人が見習うべき点があるっていうか」
留音「……は? いま脳が一瞬理解を拒んだんだけど……一応小さい声にしとけ。あいつに聞かれたらやばいから……」
衣玖「うん」
西香「お二人共、なにか言いました?」
留音「……こういうときだけ地獄耳なんだよな……」
衣玖「西香って自分大好きよねって話よ」
西香「はぁ。自分ですか。どうでしょう。もちろんこれだけ可愛くて器量の良くて美少女すぎる自分を認めているところではあります。でもお友達が出来ないことについては毎日悩んでいるのです。……でも、それもまたわたくし。あまりにも高貴すぎて近寄りがたいのもあるでしょう。わたくしは高嶺の花。お友達が出来ないことこそ、わたくしが美少女すぎるという証明というものですわね……はぁ……本当に人生って過酷……」
そんな事を話し、自分に酔いながらどこかへ消えていく西香だった。
留音「……あれが尊敬できるのかぁ……?」
衣玖「私は心理学については曖昧で興味深い読み物程度にしか思ってないけど、アドラー心理学で言えばね、幸せになることについてはありのままの自分を認めているかっていうのが大事、とかなんとか」
留音「それで言ったら西香は幸せなんだろうなとは思うけど……」
衣玖「だからね、今満たされてないなって思う人とかにとって西香みたいなのって多分薬になり得るのよね。あんな振る舞いって私達じゃ出来ないでしょ。そういうところは尊敬出来るっていうか……西香ほどではないにしろ、もう少しみんな自分の価値を信じられたらいいわよねって」
留音「……どうしたんだ衣玖、なんかおセンチって感じだぞ」
衣玖「ちょっと隷属的な人を見る機会があってね……」
今日はしっとり、アイラブミーの日。自分を好きになってねという記念日だが、そう簡単に好きになれない人だっていることだろう。でもそんな時にはいつでも心に西香ちゃんなのである。
西香「わたくしったら人類の希望の星すぎますわね……はぁやれやれ」
誰にでも、自覚はあるかはともかく、良い面があるものだ。




