2020年2月18日 安眠の日
2020年2月18日
安眠。気持ちよくぐっすりと眠ること。それは人類の命題。
五人少女たちもまた日々の活動の英気を養うため、睡眠という最大の休養方法については余念なく向き合っているのである。
順番に見ていこう。まずは衣玖からだ。彼女は技術力の塊でありながら、眠りについては非常に原始的であった。
つまり彼女の安眠の手段は「眠くなったら寝る」である。人が眠い時、それが一番安眠出来るタイミングなのだ。
時間を気にせず、眠くなったら寝る。それは数十分の仮眠であったり、数時間の昼寝であったり、みんなと同じタイミングで眠り、同じように起きることだってある。
生活リズムの構築は出来ないが、それが逆にテンポのいい生活を送ることに繋がっている。衣玖に眠気はほとんどなく、常に好調を保っていられるのである。
ただこれの欠点は、次の日に決まった用事があると対応しにくくなることだ。決まった時間に眠れないので、それをしようとした時に苦労する。もっとも最終手段としては衣玖自身が眠れる何かを開発してしまえばいいだけの話なのだが。
続いて留音である。彼女の場合は非常に健康的だ。眠る数時間前に行う運動で血流でも良くなるのか、体は安心して眠りに落ちていくのだ。ただそれで体は眠れる状態にあっても、心の準備が整わないという事もある。
そんな時に留音の傍らにいるのがそう、ぬいぐるみだ。一体どんなぬいぐるみなのか? デフォルメされたペンギンのようなキャラクターで、つぶらな瞳と非常に短い起毛ですべすべの触感。そして綿がパンパンに詰められた顔と、余裕を持って綿が詰められた胴体。顔を見ると常に「抱っこして」のポーズをとっているそのぬいぐるみが夜の相棒である。
留音「あーすべすべ……すべかわ……」
ムギュッと抱きしめて頬をスリスリとぬいぐるみの一番弾力のある場所に当て、とろけそうな顔を作っている。その場所をすこしずらしてキスをすると、そのまま目をつむると自然と眠りに誘われていく。こうして留音は安眠を作り出しているのだ。
だがそんな時に。
衣玖「ねぇルー、これなんだけど……」
なんてノックもなしに入ってこられると。
留音「どぅわぁあああ!」
という奇声をあげて急いでぬいぐるみを引き剥がし、何かを取り繕う留音を見ることもできる。
ともかく、安眠の為に体力の調整は良い方法ではあるのだが、それとは別に心の安心を持つこと、それも安眠するためには必要なことだ。
そして西香もまた、眠れない時には留音と同じように心の平穏を求めるタイプなのだ。
西香「はぁ……なんだか今日は寝付きが悪いですわね……ひたすらソシャゲに課金してガチャを回し続けてても一向に眠気が来ませんし……」
ちなみにスマホやPCの光は睡眠に良くないと言われている。眠る一時間前には見ないこと、なんて話もあるのだが、今日日それが難しい人は多いだろう。ならばやはり適度な疲れと、安心するための心のゆとりが必要である。
西香にとってその安心とは。
西香「はー金塊ちゃん……あなたはいつでもその輝きを失いませんわね……いいこいいこ」
部屋においてある金塊のひんやりした部分を撫でるのも一つだが。
西香「うーんそれでも眠れませんし、久しぶりにやりますか」
西香はそう言って金庫に入っていた札束を取り出し、一枚一枚ベッドの周りに散らしていく。
西香「はぁ……お金布団はたまらないですわね。諭吉さん、どうしてあなたの顔がたくさんあるとこんなに安心するのでしょう……」
約百万円をベッドの上にばらまくと、最後の一枚にキスをして布団に入った。寝返りをうってもどこを見渡してもそこには諭吉がいる。それに西香は満足して、幸せそうに目を閉じるのだった。
だがそんな時に。
真凛「西香さーん」
なんてノックなしに入ってこられると。
西香「どろぼーーーー!!!」
という奇声を上げてベッド上の万札をかき集める西香を見ることもできる。
これについて真凛はあまりいい顔をしない。というかむしろ嫌だった。なんせお金だ、衛生面が気になりすぎる。一応西香がばらまくのは綺麗な新札ではあるのだが、それでもイメージとして、やはりお金を触ったら手を洗いたくなるはずだ、というのが真凛である。
眠るということに心配事は大敵なのである。だから真凛がこういうシーンを見てしまった時には数日間、家の衛生に関して心配事を抱えるのだ。
そういう時はやはり眠れなくもなってしまう。安心感のためにはまず不安があってはならない。悩みはストレスに繋がり、眠る前の暗く静かな時間にはどうしても頭の奥から湧き出てきてしまうものなのだ。
真凛「(はぁ……こんなに悩みがあったらぐっすり眠れません……)」
ならばそうした悩みを抱えた時、一体どうすればいいのか。こういう時、悩みに対するアプローチは矛盾するほどに世の中に溢れている。考えすぎるな、眠ってしまえなんて矛盾したものもあるが、反対に考えて頭の中にビジュアルとして起こすものもある。
つまり悩みを具体的な形であると想像し、それを捨てるというイメージを浮かべて心を楽にする方法である。
真凛「(そうです、こういう時は悩みをしっかり思い浮かべて、それを解決できるように……)」
真凛は目を瞑りながら、お金に住んでいるバイキンたちのイメージを頭の中に浮かべた。丸く、チクチクした体をしたツリ目で槍をもったバイキンだ。
真凛「(うっ……いろんな場所を通って集まったバイキンたちがお金に……そしてそれをベッド上にバラまいて眠っている西香さん……信じられない……バイキン達……よし、これを一所にまとめて……)」
頭の中でバイキンたちを重力圧縮の要領で一箇所にまとめる真凛。
真凛「(トイレに行って手を洗わない西香さんももう手遅れだ……一緒に集めて……)」
それからイメージの中でそれら集めたものを圧縮し、小さく小さくしていく。自分はハンマーを持ったイメージで登場した。
真凛「(これを叩いて潰しましょう……バンバン叩いて……ふふ)」
バイキンたちをハンマーで叩き潰していく。こうして粉のようにしていくのだ。ちなみにその粉の中には西香も含まれている。
真凛「(粉微塵にしたバイキン達をしっかり箒とチリトリで取って……綺麗になぁれ綺麗になぁれ……)」
一番自分が納得できるように問題を片付けたイメージを作る。悩みについては自分がコントロール出来ているという実感を持てることがとても大事なのである。
真凛「(あとは水拭きして、ゴミをまとめてぽいっと捨てて……)」
捨てることが出来たら悩みは軽くなったりする。そんな事を考えているうちに眠ってしまうこともあるのだ。
そして最後にあの子の場合だが、この子はぐっすり眠れないという悩みを持った時、誰かに相談するというスタイルを取っていた。
衣玖「わかったちょっとまってて! すぐに何か作ってくる!!」
ただ何度かそれをするごとに。
留音「もしかして寒いからじゃないのか? あたしの毛布使うか?! あたしはタオル一枚でいいよ!!」
みんなの対応が重いので。
西香「わかりました。ストレスが溜まってらっしゃるのね。ほら、それでしたらここ10連ガチャというボタンを押してくださいな。ワンタップで約5,000円ですわ。大した価値もなく溶けていくんですの。でも貢がれたお金なのでわたくしたちの懐にダメージはゼロ。ストレスも消え去っていきますでしょうっ?」
そのうち相談するのを遠慮するようになっていった。
真凛「やっぱりストレスの原因があるなら徹底的に、物理的にも概念的にも消し去ってしまうべきなんですよ……この子のは特に」
人は食べ物が無いことよりも、眠れないことのほうが先に体を壊すのだと言う。
自分にあった安眠法を見つけることが、より良い生活を送るために必要な事なのだ。
すこし疲れてみる、ぬいぐるみを抱く、好きなものに囲まれる、イメージをする、誰かと話す。
皆様にもよい眠りあれ。




