2020年2月3日 鬼はそこ
2020年2月3日
町中でざわめきが起こっている。その中心には五人の少女たち。とはいえ、うち三人はミニーズである。
イリス「ふふふ、どう? 自分が今どういう状況に置かれているか理解し、そして恐怖しなさい……!」
不敵に笑うイリス。指には魔法の残滓が漂っている。どうやら魔法を行使した直後であるようだ。
そしてその魔法を受けたのは他でもない、五人少女のうちの、ここにいた二人。
留音「……うおっ!? なんじゃこりゃ!? 寒っ!!」
まるで水着のような格好になった留音と。
西香「なっ……なんでメイド服なんですの!? わたくし仕えられる側ですわよ!?」
すっかりメイド服をまとった西香である。
イリス「今からあんたたちは鬼よ!」
アンジー「いいなーかわいいなー」
聖美「ねー……写真撮っておこ……」
留音は虎柄の水着に、髪の色が緑を中心とした虹色に変化している。西香は青い髪がぱっつんで、あざとさマックスのミニスカートのメイド服である。その二人を見た待ち行く人々が感嘆の声をあげているのである。
イリス「聖美もアンジーも憧れては駄目よ。あいつらには今属性『鬼』を付与したの。……くっくっく、怯えるがいい……今日は一日、日本中から蔑まれ、豆を投げつけられることになるのよ……さぁ家にも帰れないでしょう! なんたって鬼は外なんだから!」
つまるところ、留音と西香は鬼化したのである。彼女たちに最も適した形での鬼属性の付与は単に角を生やすだけではなかった。日本的な意味での鬼はこんな感じなのである。
イリス「さぁ民衆たち! こいつらに存分に豆をぶつけるが良いわ!」
イリスの号令に合わせ、主に男性たちがざわめきが強くなる。
「ま、まじっすか……」「いいの? まじでいいの?」「それより自分も写真いいですか」「ラムレムやんけ!」「むしろぶつけてもらいたい」
西香「なんだか空気が悪いですわね……」
留音「ちょっと怖いな……撤退するぞ! 寒い!」
西香と留音はダッと駆け出し、その場を離れて家に戻ることにした。
イリス「はーはっは! 今回こそ勝てるわ! 追うわよ聖美! アンジー!」
炒った大豆を片手に追いかける三人。イリスはオラオラーと豆を投げながら前の二人を追従する。聖美も「今日はそういう日だから!」と豆を投げつけている。アンジーは二人のサポートに豆の袋を開けては二人に適度な量の豆を取って渡している。
留音も西香も豆が当たる度に静電気が走ったような感覚を味わう。どうやら豆に込められた霊力が二人に付与された鬼属性に反応し、的確にダメージを与えているようだ。
鬼の二人はなんとか家に辿り着き、滑り込むように玄関へ入って戸をしめた。その様子に顔を見せた衣玖が驚いていた。
衣玖「うぅゎっ、二人共なんて格好してんの」
留音「知らねーよ! いきなりイリスが鬼だとかなんとか……」
西香「豆投げてくるんですのよあの人達! なんか痛いですし! 大体これのどこが鬼なんですのぉ!? こんな俗っぽい服着て……」
イリス「おらおらー! さっさと鬼は外ってされなさい! 出てこい留音ー! 西香ー! 負けを認めたら解呪してやるわよ!」
聖美「もしあれだったらうちで迎えるよ―!?」
家の外からそんな声が聞こえてくる。
衣玖「なるほど、イリスの魔法か。しかし私は『鬼は内』もアリ派なのよね」
留音「そんなことよりうちに大豆って無いかっ?」
衣玖「あるわよ」
留音「こんな寒い格好で外走らせやがって……応戦してやる!!」
西香「わたくしもやり返さないと気が済みませんわね……」
留音は台所から炒った大豆の袋を見つけるのだが、直接持つと静電気が流れるような痛みがあった。
留音「持てねぇなこれ……衣玖ー! 大豆的なのなんか無いか!?」
衣玖「大豆的なの? 納豆とか豆腐?」
意図を理解しかねる衣玖がそう言うと、「なるほど!」と留音は豆腐を一丁取り出した。西香は納豆をかき混ぜ始める。
留音「あんま食材を無駄にすると真凛が怒るからな……これで勘弁してやる!」
留音は芸人が持つパイのように豆腐を平皿にのせて持ち、西香は納豆をしっかり糸が引けるようになったのを確認している。
イリス「出てこないわね……この家は鬼をも受け入れるというの?」
アンジー「あっ、でもあの子がいるから……鬼なんてすぐに浄化しちゃうのかも……」
イリス「くっ、しまった、計算に入れていなかったわ。そうよね、あの子が住む家に鬼なんていないか……」
そんなところで玄関の扉が開かれた。
留音「お返しだオラァァァァ!!」
留音はイリスに瞬時に近づくと、その顔に豆腐皿を押し付けた。
イリス「ぶへっ!!」
西香「これはわたくしの分!!」
西香もスプーンからちょっとずつ納豆をすくい取り、ピッピと眼の前にいる4人に投げつけている。
聖美「うわっ! 納豆! ネバネバしてる!!」
アンジー「あー! やめてよー! やだー! ネバネバー……顔に飛んだぁっ」
ちょっと色っぽいアンジー。
留音「ってあたしにも飛んでんだろうが!」
皿をどけられたイリスの顔は豆腐まみれになっている。「つめった!」と豆腐を拭って今度はそれを留音に投げつけている。それを避けると今度は西香に当たったり、家の壁に付着したり。
その騒ぎを聞きつけて。
真凛「あの……皆さん^^」
留音「あっ」
西香「あっ」
アンジー「あっ」
聖美「あっ」
イリス「何!? お前も食らうかあたしの新しい……」
真凛「何やってるんですか? お豆腐? 納豆? えっ、ホントに何やってるんですかぁ?^^^^^」
真・鬼降臨。この鬼は絶対に撃退出来ないのである。
鬼は外。でも豆を投げても怒らせるだけかも知れない。話せるならば共存の道を考えるべきだ。




