2020年2月2日 【FAあり】ツインテの日、と。
2020年2月2日
イリス「むむむ! 留音! どうしてお前がここに!」
留音「え? 誰?」
町中でばったりの二人。他にそれぞれのメンバーはなく、偶然因縁の宿敵同士がそこに居合わせた。
しかし留音は眉をハの字にしていた。視線は一点に注がれている。
イリス「な……なんて挑発……あたしよ! イリス!」
イリスは多少のショックを隠しきれないような言い方で、両手を頭の左右の対等な位置に当ててそう言った。どうやらいつものツインテールの位置を表しているようだ。しかしそれに対して留音は少しだけ笑って返した。
留音「冗談冗談。髪型が違ったからさ。ちょっとからかっただけだよ。それよりむむむて」
くはは。爽やかに笑う留音の視線はイリスの髪に向けられていた。いつもテンプレツインテを決めているイリスだが、今日はスイッチ・オフなのか髪はストレートに下ろされていた。だから雰囲気はいつもの少女チックさが少し薄まって、やや大人っぽさがある。
イリス「何よ! 文句あんの?! あたしがどんな髪型してようと勝手でしょ! それよりいざ勝負よ勝負!」
留音「えー。今買い物頼まれてきてんだけど……今日は別にいいじゃん。暇なのかよ?」
イリス「それなりに暇よ! 今日はレポートのために人間界の観察目的で出てきただけだし……しかしお前とあったからには!」
留音「ふーん……じゃあそういうことで」
留音は観察がんばれよ、と片手を軽く振ってデパートを目指して歩いていった。
イリス「待っ……(……そうだわ、留音を観察してレポートにしてもいいわね。弱点とかがわかるかもしれないし)」
しかし留音は少し売り場を回ったところですぐにイリスの尾行に気づいたようだ。デパート内のゲームセンターに行くとちょいちょいと指を振ってイリスを呼び寄せた。
留音が入っていったミニシアター型筐体は二人がぴったり入れるようになっており外からはほとんど中が見えないので没入性の高い筐体だ。少し前に稼働が始まったクリーチャーシューターである。
イリス「くっ、バレていたか……流石野生の女」
留音「ゴリラじゃねぇよ。これやろ」
イリス「は? なにこれ」
留音は大画面の前に備えられた小さめのマシンガン型コントローラーをイリスに手渡し、コインを投入した。
留音「とりあえず撃ちまくるヤツ。振ってリロード。ワンプレイだけな、始まるぞ」
イリス「えっ、あっ」
イリスはそのマシンガンを両手に持ち、両方の指を一つのトリガーにかけて持っている。留音は手慣れているようで、片手をトリガーに、もう片手は発射時のマズルジャンプ表現の反動を抑え込めるように重心のブレやすい部分を握っていた。
留音「たまにやりたくなるんだけどさ、一人じゃあんまりやらないし、衣玖はあんま来てくれないし。真凛も上手いんだけどな」
デモ画面最中、留音は最初に敵が出てくる辺りに照準を合わせて待機しながらそう呟いた。イリスは画面と手元の操作方法を交互に見てボタンを確認している。リロード、ボム、アイテム切り替えなどがあるらしい。
そしてゲームスタート。留音は敵が現れた瞬間に射撃して群れの一部を掃射する。
イリス「わっ……わっバ……っ」
イリスは両手握りの銃でバカスカ撃ち、なんとか撃退している。ゾンビを始め、人外のクリーチャーが溢れかえる今作はホラーシューターとしても人気で、演出もそれなりに恐怖に寄っている。それがシアター筐体ということもあり、音、振動、映像表現を持って襲いかかる。
イリス「わっ! ぎゃーっ! バババケモノ!! びゃっ!」
イリスは肩をすくめながらもマシンガンはまっすぐ突き出してトリガーを引き続けている。留音は隣のうるさいのをクスクス笑いながら7割前後でヘッドショットを繰り出してイリスが攻撃されるのを守っていた。
とはいえ、ワンプレイでクリア出来るほどゲームセンターのガンシューターは甘くはない。運悪く留音の方が先に落ちてしまい、その後少し耐えたイリスもゲームオーバーになった。だが留音は満足そうにしながら筐体を出る。イリスは弱点の位置はわかっていたのに撃ちきれなかったのが悔しそうだ。
留音「あー楽しかった。やっぱこういうの遊ぶのはゲーセンだよな。楽しかっただろ?」
イリス「べ、別に? 疲れたし、腕痛いし、喉痛いし、音うるさかったし……」
留音「えー……?」
イリス「まぁちょっとだけは楽しかったけど……」
留音「だいぶ楽しんでたよなぁ? わーきゃー言ってたぞ」
イリス「はっ? 言ってないし!!」
クスクスと留音が笑うと、イリスは恥ずかしそうにツンと目を反らした。
留音「で、あたしは何しに来たんだっけか……あっ」
デパート内のゲームセンターを出ると、近くにある何かが目に止まり、イリスに「ここで待ってな」とベンチに座らせて姿を消した。イリスは素直にそこに座って、留音を見送った。ここに来て留音が逃げるとは考えていないようだ。
ほんの数分で帰ってきた留音は何かを買ってきたのか、そのショップの袋から小さな包を取り出してイリスに手渡した。
イリス「……なにこれ?」
留音「ヘアゴム。ツインテ可愛いし、今日のお礼」
イリスが見たそれは黒いリボンが二つついた髪留め用のゴムだった。
イリス「別に、ゴム失くしたわけじゃないんだけど……家にあるし」
留音「知らんが。つけてみなよ、可愛いからさ」
イリスは困ったような顔で袋を開け、口をムーと閉じながら仕方なく鏡なしでいつもの感覚でツインテールを作ってみせた。
留音「ちょっとずれてる」
留音はひょひょいと位置を調節して「おー可愛い可愛い」とイリスの頭をポンポンと優しくなでた。イリスはツインテールをいじられている辺りから顔を赤らめていた。
イリス「ぐぬぬ……! 仕方ない! 今日のところは勘弁してやる! おのれ覚えてろ留音!!!」
イリスはなにかに耐えきれなくなったのか、そんな言葉を残して走って消えていくのだった。
何照れてんだ? なんて留音はいつものように少しだけ呆れたように見送って、当初の買い物を済ませるのだった。
今日はツインテールの日。女性にヘアゴムを二つ渡して、その女性がツインテールにすれば恋人関係になるだとか、承諾のサインになるそうだ。
それともう一つがカップルの日。
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※本来は上の部分までで終わりだったのですが、なんと奇跡的なタイミングで芸術神hatimituhanao様よりFAを頂きました。
この話(↑)は数日前に書いていたものですが、これのアップの直前に素晴らしいFAが届いてしまったのです。
200回記念で頂いたものですが、絵の内容的に奇跡的合致としか言いようがない抜群のタイミング届いた特別回は以下より!
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イリス「ただいまー」
留音とのクリーチャーハントより聖美宅へと帰還したイリス。聖美はリボンを付けて、ツインテにしていることが気になったようだ。
聖美「おかえりなさい。あれ? さっき出かける時は髪下ろしてたよね?」
イリス「あぁこれ? 実は留音に会って、バケモノを倒したらくれたのよ。おのれ留音……」
聖美「んん? 留音ちゃんと遊んできたってこと? いいなー」
イリス「んべっ、別に遊んできたわけじゃないわ。弱点を探ろうとしたらよくわからない展開になっただけよ。……で、聖美は何やってるの?」
イリスは覗き込みながら聖美の隣に座って様子を観察している。
聖美「あっ、これ? ほら、人形だよー」
イリス「あぁ、ちょっと前にあいつらの家に行った時に見て反応してたやつね。まさかうちでも作るとはね。ホント、聖美のその熱意はたまによくわからないわ。それに、よりにもよって留音とは」
聖美「あれ? よく留音ちゃんの人形だってわかったね? イリスちゃんかもしれないのに~。こほん、『今日は楽しかったな、イリヤ!』」
聖美は茶化し、わざと名前を間違える留音のように言った。
イリス「ちょっと! からかわないでよ。別に、だって……そうかなって思っただけっていうか……」
聖美「ごめんごめん。部屋に衣玖ちゃんもあるから取ってくるね。ちょっと持っててくれる?」
イリス「ん、うん」
聖美はイリスに留音人形を預けると、トトトと自分の部屋に取りに行った。イリスはそういえば何か作っていたな、と思い返しつつ渡された留音人形を見つめる。
イリス「イリヤじゃないってば。『わかってるってー』……おのれ。いつか絶対倒すんだから……」
布の質が柔らかくて気持ちがいいし、綿の感触も丁度いい。と同時に、今日の出来事も思い出していた。
イリス「…………~~~~~~…………」




