2020年1月26日 五人少女おとぎ話 ~雪女~
2020年1月26日
これは日めくり少女たちによる決して扱う記念日に困ったりしたから作られたわけじゃないおとぎ話。
今日は冬のお話、雪女です。始まり始まり。
※なお、このお話はフィクションです。本編の登場人物とは一切関係ありません。
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昔々のある寒い冬の夜。吹雪で帰れなくなった親子らしき二人は小屋に逃げ込み、そこで眠ることにしました。
そこに訪ねてきたのか、帰ってきたのか。吹雪の中で小屋の戸を開ける者がおりました。親代わりである西香は家に入ろうとする人物にこう言いました。
西香「ここ今わたくしたちが使ってるんですけど。使用料1億万円ですわよ」
舐めた冗談を本気で抜かした西香は、なんとたちまち凍っていき、カチコチの氷になるとガターンと床に倒れてしまいました。
イリス(氷属性)「あたしの魔法工房でなにをやってんのこいつは。……子供にまで見られてしまったか」
女は雪女なのでしょうか。その正体は青の装飾が施された白いローブを身に纏う美少女。吹雪地帯につき冷気の扱いを極めた魔法使い。名をイリス・フォン・ルクレツィア・セーヌ・ラプソディ(氷属性)。通称雪イリスと言いました。
雪イリス「魔法の工房に入られるとはね。……この物欲にまみれた女はまぁどうとでも処理出来るとして……問題はこっちね」
雪イリスは4歳か5歳の少女の顔を覗き込みました。目に宿った少女の光は人類、いや宇宙にすら優しさを訴えかけるような瞳、そして心を見透かす雪イリスにして、このように澄みきった湧き水のような魂を見たことはありませんでした。
雪イリス「……何この子尊い、尊すぎる……天使、天使なの? いや女神……生物の希望の星? いい、あなた。今日のことをもしも誰かに喋ったらその時はあなたの命を奪う事に、いや酷い目に……いやそんなの絶対無理よ! どうしよう詰んだ……」
雪女であれば喋れば殺すと言い残して消えるところですが、全宇宙を統べられるレベルの美少女にそんな事言えっこないのです。
雪イリス「とにかくお願いだから誰にも喋んないで! あっ! この氷漬けにしたヤツならいいや! もし喋ったらこいつがこのまま溶けるから!」
雪イリスはその子にお願いをしました。怯えたその子は困り顔で頷くと、雪イリスはその子にフッと息をふきかけます。
するとその子の意識は飛び、気づけば実家に戻っていました。この子が悲しまないようにと雪イリスは氷漬けの西香も一応冷凍庫に保存しておきました。
それから数年の月日が経ちました。冷凍庫に保存された西香は、友達の一人である衣玖という子が科学的に解凍してくれたため既にすっかり元通りになっていました。なのでもう秘密を守る義理はありませんが、喋ったらあの時の人が可哀想かもしれないと思い、あの日の夜の事を喋らずに成長しました。
そうしてあの子はそれはもう美しい、いや美しいという言葉などでは到底表現しきれない次元の住む世界が違うレベルの美少女に成長していたのです。
そんな学校生活をしていく中で、ある転入生が現れました。名前はイリヤと言い、チラチラとあの子の事を見ています。
あの子は最初こそなんだろうと思いましたが、思い返せばまんまあの夜出会った雪女でした。名前以外隠す気0でしたが、一応黙っていて欲しいと言われた手前、既に義理もありませんが知らないふりをして過ごすことにしました。イリヤはバレてないかな? みたいにして、最低でも一日一回はチラチラとあの子を横目に伺います。
イリヤという少女は外国人のような見た目をしていたため、クラスの子からやや敬遠されていました。それに話しかけた子を少し邪険に扱うと言うか、知らない人だらけのクラスに立った一人で入ってきた緊張からなのか、態度は少しツンツンしていました。
そんなイリヤを見て、たまらずあの子が声をかけると、イリヤは嬉しそうに「別に嬉しくないけど!」と言いながら一緒にいられるタイミングを見計らうことをしていました。
「一緒に帰りたいわけじゃないけど」と一緒に下校して、「仕方ないから寄ってもいいわよ」とどこかへ寄ったりして。あの子にとって、もうあの夜のことは過ぎた話です。わだかまりは一切なく、ただの友達として接します。
そんなイリヤでしたが、ある時こんな事を聞いてきました。
イリヤ「そういえば……子供の頃に怖かったことってある? 例えば誰か知らない怖い女の人に何か言われたとか、そういうの。トラウマになっちゃってるような事みたいな……」
かなり直球でそんな事を聞いてきました。しかも表情はどこかワクワクしています。あの子は一応、首を横に振りました。だって一度は喋っちゃ駄目だと言われたことですし、雪女の伝説では話してと言った雪女が『どうして話した。話したから殺す』なんて言い出した末に子育てを任せて消えていくのです。
だから一応、その話を覚えてない体で伝えました。
イリヤ「あ、そうなんだ……じゃあほら、昔寒い夜に知らない女の人に出会ったこととか……」
こちらに関しても無いと伝えます。すると寂しそうにへぇ~……と頷いていました。それはそれで可哀想だと気を回して、やっぱり思い出した、雪女みたいな人に会ったと伝えます。
イリヤ「あっ! そうなの!? 実はあたしもあるんだ、その人に会ったこと!! 一緒の経験があるなんて偶然ねっ! だからなんだって話だけど!」
あの子は苦笑いを浮かべてイリヤの話を聞きました。一応本人だよねとは言わずにいます。
イリヤ「ねぇねぇ、その人の事あんまり覚えてないんだよね? どんな印象だったか覚えてるっ?」
イリヤはとても掘り下げようとしてきました。
イリヤ「優しそうだったって? あ~っそうかもー! え、可愛かった?! そ、そ、そうかも~!」
イリヤは嬉しそうだったので、あの子もちょっとうれしい気持ちになって素直に褒めることにしました。するとイリヤは、まるで伝え聞いたことをただ言ってるだけ、という口調でこんな話をし始めました。
イリヤ「あの人も言ってたのよ! 昔とっても可愛い女の子と話したって。その子はまるで人類の希望の星のような存在に見えて、その子と一緒にいられたらどんなに幸せだろうなーって」
チラチラと、イリヤはあの子を見ています。イリヤは「それは自分の話じゃない」というような事を言って謙遜しましたが。
イリヤ「いやね、あの女の人曰く、少女に話をしたのは二人だけって言ってたのよね。あたしとあんただけってことだから、これってあんたのことよ。だからあんた、あの人からそんな風に思われてたのよね。それにめちゃくちゃ可愛くて包み込むような人間性を持ってるって言ってたわ、あたしの意見じゃないけど!」
それからもイリヤはちょくちょく雪イリス名義で褒めちぎってくるのでした。だからあの子にとって、既に秘密を守る必要は無いにも関わらず、雪イリスを覚えていると言ったら可哀想なことになりかねないと、しゃべることは出来ませんでした。
しかしある日、イリヤが家に遊びに来ることになりました。
西香「いらっしゃ……あっ! この女! わたくしの事をカキンコキンにした雪女!! おのれ許すまじ! あなたも覚えてますわよね!? 完璧に10000%あの時の雪女ですわ! 見ただけでわかります! なにも隠せていない誰の目にも明らかな雪女め! わたくしの失われた数回分の誕生日プレゼントとお年玉とサンタさんのプレゼントを返しなさい!!!」
イリヤ「え!? バレバレ!?」
西香「当然でしょう! 隠す気0じゃありませんか! 仮にこの子が覚えていないと言ってもそれは気遣いですわ!」
その一件を最後に、今まで雪イリス名義で褒めていた事が恥ずかしくなったイリヤは二度と二人の前に現れることはありませんでした。