2020年1月23日 ワンツースリーの日
2020年1月23日
今日も今日とて勝負に来たのはミニーズの三人。
イリス「あっ! いた! 勝負よ留音!! いざ勝負!」
イリスが先陣をきって進み出て、リビングで集まっている五人少女たちに早速宣戦布告したのだが。
西香「おかえりなさいませ、お嬢様」
なんだか様子が違っているようだ。ひらひらのメイド服、そしてひらひらのホワイトブリムを着用した西香がペコリとお辞儀をして出迎えている。
聖美「えっ? あ、どうも……ど、どうしたの西香ちゃん……?」
アンジー「(いいよいいよ! 怖いから放っておこっ?)」
戸惑う聖美の腕を引っ張り、小声で下がるように声をかけるアンジー。
西香「見てくださいお嬢様、メイド服を新調したんですの。似合っています?」
聖美「う、うん、すっごく可愛い……」
西香「嬉しいですっ。お嬢様のために着て待っていたんですの」
西香から闇を感じない微笑みにぽやぽやした表情で応える聖美。
イリス「こんなのいいから。おらおら留音! ハーフを迎えて早い段階であんたらを倒そうと思って気合入れてきたわよ!」
イリスはさっきから背中を向けたままの留音に食って掛かった。するとこれみよがしにため息を付き、イリスに振り返る。
留音「なんだね君たちは。全く騒々しい。あたしの研究の邪魔をしないでもらえるか」
留音はカチャリとツリ目メガネをかけ直すような動作をして見せた。入ったときからおかしいと思っていたが、似合わない白衣を身につけてどこか高慢な雰囲気を感じさせている。
イリス「い、一体なんのつもりよ……? ちょ、ちょっとそこの真凛、留音は一体どうなってるの?」
真凛「……知らない」
真凛は無表情で冷たくそう言うのみで、いつもの真凛の雰囲気は一切感じられない。
聖美「なんかみんなおかしくなってるよね……?」
留音「まったく。君たちのせいであたしが新たに発見した数式への集中が途切れてしまったじゃないか。次の学会で発表しようと思っていたのに……どうしてくれるんだね?」
ホワイトボードを前に苛ついたような口調でそう言った留音。ホワイトボードにはこう書いてあった。
『いちばん気持ちいい掛け算の段は 11の段←確定
特に11×7=77はすごい。なんか得した気分になる。でも7×11は違う。11の段を義務教育に取り込むことを提唱すべき』
イリス「めちゃくそにバカみたいな事書いてある……」
留音「失敬な。11の段をバカにするのかね? 今の義務教育では9の段までしかやらないから知らないかもしれないが、11の段はとても素晴らしいぞ。掛けた数字がをそのまま2個並べるだけで答えになるのだ。こんなに簡単で爽快なのにどうして小学校の先生は教えようとしないのだろうか」
アンジー「どうしよう、なんて言って教えたらいいのかわからない」
イリス「バカは放っておきましょう」
西香「ねぇところでお嬢様方、お茶の方は何を飲まれますか? 実は良いローズマリーが入ったんですよ。お淹れしますか?」
聖美「あ、あのでも、お金全然持ってきてなくて……」
西香「もう、お嬢様ったら何を言っているのですか。わたくしメイドはお嬢様に仕えることが仕事。お金なんていりませんわ」
その言葉に背中を震わせて鳥肌を立てるイリス。
イリス「この変貌ぶり……でもなんかこいつら弱そうね……今なら制圧出来るかも……?」
すると部屋の明かりが落ちて、入り口の方にスポットライトが当たった。そこから扉をバーンと両手で開いた衣玖がサングラスを掛け、シルバーのファサファサがついた昭和時代のスター的な服装で登場した。
衣玖「ヘーイソウルブラザー! いらっしゃあーフォーイッ!!」
聖美「ああぁっ、ヤダっ!!」
衣玖はサンバの音楽を響かせながらマラカスをシャンシャン振って登場した。それに嫌悪感を持った聖美が脊髄反射的に拒否の意思を表している。
衣玖「ヘイヘーイ! 冷たいねぇミニーーーズ!!(マラカスシャンシャンシャン) いっつもゴキゲンじゃないかーい! それで今日はどうしたんだーい!?(胸に刺してた薔薇ポーイ)」
真凛「……あ。捨てないで……」
イリス「あ、あ、あ、あんた……どうしたんだーいはこっちのセリフじゃい! 何があったっての!?」
衣玖「HAAAAAHAHAHAHAHA! 何が・何が何が何が何がぁ?(人差し指フリフリ) 何があったか聞いてるのっ?(眉毛上下クイクイ) 何があったか……それはそれはそれはねっ?! フッフーーーっ! ひみちゅっちゅっちゅー! あーHAAAHAHA!(マラカスシャンシャン)」
アンジー「ア、ア……っ、なんか見ちゃいけないのを見てる気がする……」
イリス「なんだってこんな……哀れなことに……」
真凛「それは……今日が、ワンツー……スリーの、日……だから」
真凛は無表情のまま冷たく、そしてか細い声を三人に届けた。
聖美「あっ、そうだ、ワンツースリーの日……新しいことを始めるきっかけにする日……そっか、きっと五人少女ちゃんたちは新しい事を始めるためにみんなのキャラクター性をチェンジしたんだ……っ」
衣玖「Oh NOOOOOOOO!! ババレ・バレバレ・バレちゃたネ! ぽぽぽポーウ!! 真凛たーん! かんべんかんべんべべんべーん! あーHAHAAAHA!!(マラカスシャンシャカシャン)」
イリス「キャラ性チェンジって……他の3人はともかく、衣玖、あんたのは崩壊どころじゃないわよ……」
衣玖「発明しちゃったちゃったちゃったからー! うーらー!!」
西香「衣玖お嬢様はですね、発明した装置を目の前で起動したせいで影響をもろ受けしたんですのよね」
衣玖「だって? だってだってだって~? 天才なんだものー!(シャカシャカシャンシャン)」
聖美「う……半年記念の直後に登場してこれは……」
アンジー「イリスちゃん、元に戻す魔法とか無いの……?」
イリス「そうね……流石に戻してやるか……『混乱解除魔法!』」
イリスが手をパーっと横薙ぎに振った。するとひとりひとり、自分が今まで何をしていたかわからないのか、自分や立っている場所の確認をした。
衣玖「はっ……なんだか悪い夢を見ていた気がする……」
西香「あら? なんでわたくし、こんな下々の者が着るような媚び媚びな服を?」
留音「んん? あたしはこんな難解な数式の前で何をやってんだ……?」
真凛「あは、衣玖さん変な格好だ~」
イリス「あー良かった……」
アンジー「やっぱりこうでなきゃね~……」
聖美「うん……変化は大事だけど、急激な変化は体に悪いよね……見てる方も怖くなっちゃうよぉ……」
ワンツースリーの日。いきなりジャンプをしても高く飛べないもので、ホップ・ステップも大事なのだ。