2020年1月15日 アダルトの日
2020年1月15日
冷たい風が吹き荒び、淀んだ曇天の空の下に立ついくつかの影がある。
イリス「聖美……駄目よ。ここは通さない……」
アンジー「ごめんね聖美ちゃん。でも……聖美ちゃんがどうしてもやると言うなら、ボクも君を止める」
それは決意の声だった。心の裏に怖れを抱きながらも、愛を持って意思を立てる強い二人の声だ。それが聖美に向けられている。
聖美「イリスちゃん、アンジーちゃん……通して。そこを、通して」
初めての対峙。ミニーズを結成し一ヶ月と少し経った彼女達は今、2対1の構図で向き合っていた。
イリスは両手をフリーにしている。魔法を放つための魔力のチャージは行っておらず、限界まで素手で、会話によって聖美を止めようとしている。それはアンジーも同様で、最後まで聖美を言葉だけで説得するつもりだ。
聖美「まさか二人がわたしの邪魔をするとは思わなかった。……悪いけど、絶対に通るからね」
対して、聖美の瞳は冷たく冴えている。およそ友人に向ける目とは思えないその瞳にイリスは怖気づき、その圧の強さを前に出て受け止めるのはアンジーであった。
アンジー「聖美ちゃん。悪いけど聖美ちゃんは間違ってる。ボクだってそりゃ、聖美ちゃんの言ってることはわかるよっ? それに素敵だなって思う部分もある。でもね……それは駄目なんだよ、聖美ちゃん……ッ!」
心からの訴えを背後から見守るイリス。アンジーの隣に立ち、共に聖美を止める事を決意する。
イリス「アンジー……。聖美、もうやめてっ、あたしたちがこんなにお願いしてるのよ?! 友達でしょ……? お願いよ! 正気に戻って!」
アンジー「そうだよ! 今の聖美ちゃんは危険だ……お願いだから話を聞いてよっ!」
イリスは再び強い意志を声にのせて訴えた。二人の気持ちは唯一つ。友達を危険に晒したくないだけなのだ。聖美の考えていることは無謀で意味がない。しかし聖美だけはそうとは考えておらず、半ば暴走状態にあった。
だから聖美は二人を振り払うように言う。二人の言葉は、聖美に届かなかったのだ。
聖美「……ごめん。でも私は正気だから……本気で……五人少女ちゃん達にえっちなハプニングを起こしに行くの!!」
アンジーとイリスが口に手を当て、目を見開き、驚愕の表情で聖美を見る。ついに聖美が一線を越えてしまったのだ。この作品が一度も使わなかったワードを使ってしまったのである。神話が崩れた瞬間だった。
イリス「駄目よ! そんなの……何もかも壊してしまう! 奴らを崩壊させるだけじゃないっ、ラインを越えたらあたし達にだってその余波が来るかもしれない! それほど危険なことなのよ!? どうしてわかってくれないの!?」
アンジー「そうだよ! なんだかんだで健全で、年齢制限のかからない安心安全なコンテンツ、それがボクたちでしょ!? 聖美ちゃん! その手に持っているのはなんなの!?」
聖美は自分の片手に目線を落とした。その手には所謂ハンドマッサージャーが握られていたのだ。
聖美「こ、これは……みんなの肩をほぐしに……」
アンジー「アウトだよねぇ!?(絶叫)」
イリス「聖美、日めくりへの強い意思があるのは尊重してる。でもどうして今日にそんなに強く感情を向けているの……?」
聖美「それは……だって……」
アンジー「そうだよっ……記念日なら他にあるし……ボクたちでも出来る事、他にもあるでしょ……?」
聖美「じゃあ……でよ……」
アンジー「えっ……?」
聖美「じゃあお胸の一つでも揉んでよ! えっちに! さぁ! アンジーちゃん! 私のでもイリスちゃんのでもいい! それくらいやんないと、少しもアダルトの日にならないよ! 日めくれない!」
アンジー「そ、それは無理なの!!!」
聖美「どうしてっ! アダルトの日なのに……私達の目指す日めくり大使は、たとえいつも健全でもアダルトの日にはちょっとえっちになってもいいでしょ!? だってアダルトの日なんだから!! 健全ってなんなの!? 女の子同士のじゃれあいでも駄目なの!?」
アンジー「い、色々な理由で無理なのー!」
イリス「聖美……わかったわ。じゃああたしがアンジーのを揉む。それでいいでしょ……?」
アンジー「え゛ッ、ちょっ」
イリスはアンジーの背後に周り、両手でアンジーの胸元に手を回し、耳元でつぶやく。
イリス「ごめんねアンジー……あなたのをからかうつもりは無いの。でも今は、聖美を落ち着かせないといけないから……」
イリスのささやき声と吐息に背中をゾクゾクと震わせるアンジー。そしてイリスはむんずっとアンジーの胸元を持ち上げるようにした。
アンジー「(あれ、ちょっとまって……ボク、この設定が色んな意味で役に立つときが……)やんっ……」
アンジーの嬌声に聖美がピクっと反応した。ちなみにアンジーはとっても可愛い女の子の格好をしている男であるので胸筋を撫でられただけである。ムキムキマッチョメンに「わーすごい腹筋ですねー」ってつんつんするのと全く同じなので少しも健全から外れていないのだ。彼はその設定を持って日めくりを守った。
聖美「こんなの……少しもアダルトの日にならないよ……っ」
聖美は崩れ落ちた。アンジーの反応は本当にちょっとだけえっちな感じだったにも関わらず、アダルトの日ができたとは思えなかったからである。
しかし動きを止めることは出来た。イリスは聖美に駆け寄り、肩を抱き寄せる。アンジーはイリスに触られたこともあるが、背後に回られたときに背中にあったなんらかのやわらかい感覚にドキドキして少し動けなかった。
イリス「聖美……一体どうして……? なんであいつらにそんな感情を抱いたの……? 色気なんて無い、美少女美少女言って色々誤魔化してるだけの連中よ……? 今日という日にはきっとそぐわないのに……」
聖美「……そんなことないよ……。私ね、隠していたけど……実は子供になった日に……留音ちゃんとお風呂に入ったんだ。……えっちだった……とってもえっちだったんだ……」
留音の話に気づいたアンジーも合流する。
イリス「そんな……じゃあ聖美をこんな風にしたのは……やはりあいつか留音……! おのれ、聖美を惑わせて……絶対に、絶対に許せない!」
聖美「お風呂上がりにね……留音ちゃんの髪がストレートになるの……それがとっても……えっち、だった……うっ、思い出したら鼻血が……」
聖美は吐血するように鼻血をぶしゃっと拭き出した。
アンジー「そ、そんなになの……?」
聖美「(静かにうなずく)」
イリス「喋らないで聖美、今治癒の魔法をかけるから……あなたはあいつらの事を謎なほど好きになってしまっているからそんな風に思うのよ。留音なんてただのがさつなゴリラよ、どうか目を覚まして……」
聖美「ううん、あれは……LLサイズの禁断の……か、じ……つ(がくっ)」
アンジー「聖美ちゃん……? 聖美ちゃん!?」
イリス「いやぁっ! 聖美ィィィィぃぃぃ!!」
聖美は死んだのだ。鼻から失われる血液と、アダルトの日をあんまり出来なかった無念からのショック死である。そしてシリアスに人が死ぬのは大人向けの証拠だ。
―――――――
真凛「あーっ! 今日は手洗いの日ですよぉっ☆」
西香「(ちっ……真凛さんがこっちを見てますわ……)」
真凛「西香さぁん……おトイレから出て、もういい加減に手、洗ってますよねぇ……?」
西香「洗ってませんわよ。汚れませんので。残念でした」
留音「挑発すんなよ……怖いなぁ……」
真凛「はぁ……でも西香さん、いくら言っても聞かないから……この話は疲れるんですよね……はぁぁぁー……もういいです。西香さんが触ったものも触るものも綺麗にしておけばいいだけの事ですもんね、はぁあ……」
衣玖「(真凛が諦めた……)」
西香「ふっ、わたくしの勝ち」
留音「(無敵かよ)」