2020年1月14日 褒め言葉カードの日
2020年1月14日
西香「さぁ皆さん。今日はこの褒め言葉カードの日ですわ。ここにあるカードを使って相手を褒めるんですの。素敵ですわよね、114、の語呂合わせと、なんともまぁ安直な記念日ですが、わたくし嫌いではありません。さぁさ、今日は恥ずかしがる必要はありませんわ。存分にわたくしを中心に褒めてくださいな♡」
みんなの前には褒め言葉カード、なんて名前のつけられたカードがタロット占いのシャッフル真っ最中でもあるかのようにバラバラと散乱している。
真凛は無意識に自分の前に置かれているものから真っ直ぐに並べ直している。留音も衣玖も興味なさげで、あの子だけは裏側に書かれている動物の絵を見ながら西香の話を聞いた。
西香「ほら、これを取ると褒める内容が書いてあるんですの。めくったときに書いてあることで相手を褒めるんですのよ。ほら見てくださいな。例えばこれ、ええと『センスがいい』ですって」
西香はめくったカードを皆に見せた。西香の自筆で書かれた文字のようだ。
西香「そうですわね……これは衣玖さんですわね。衣玖さん、最近あまりドクロだのゾンビだの言わなくなって……わたくし常日頃から衣玖さんのようなちっこい方がドクロの服なんぞ着てるのを似合わないなぁ、残念なセンスだなぁと思ったものですわ。あ、服はまだ着てましたわね」
留音「(早速貶してる)」
衣玖の方はじっとりと西香を睨みつけている。
西香「でも最近あまり言わなくなりましたわね。そこはわたくし評価してるんですの。センスが多少よくなりました。最近の衣玖さんはちょっと前の衣玖さんよりセンスがいいですわ。自信を持ってくださいな……とまぁ、このような具合に相手を褒めるのです。おわかりですか皆さん。ちゃんと褒めるって難しいんですのよ?」
衣玖「……なんかこんなの前にもあったわね。……一応言っとくと、西香に言ってないだけだし。デスメタルのソウルはちゃんと宿ってるし。今日だってこの下はドクロTだし」
衣玖はペラペラと上着を引っ張って訴えている。西香は興味なさそうにカードを戻し、再び机の上のカードをシャッフルした。留音がカードを指差して尋ねる。
留音「なぁ、このカードお前の自筆だろ? 本当にこんな記念日あんのか? 褒められたいだけなんじゃないの? そもそも褒める場所なんて無いけど」
西香「失敬な! ちゃんと調べましたわ! 本当にある記念日ですわよ! しかもやたら集金額が高くてちょっと宗教チックだなと思ったところを、わたくしがキュートに変えさせていただいたのです!」
真凛「あんまり不特定の方を傷つける発言をしないでくださいねぇ?」
西香「大丈夫ですわ、相手は『寛容さ』をウリにしているんですから。合計24時間も無い講義でフル料金40万近くかかるんですのよ。そのお金はもっと有意義な使い方があるでしょうに。……ってそんなことはいいんですのよ。さぁさカードをめくってください! わたくしを褒めてくださいな!」
衣玖が面倒くさそうにカードを1枚めくった。
西香「さぁっ? 内容はなんでしたかっ? 衣玖さん。なんでもわたくしにぶつけてきてくださいなっ」
衣玖「なんで西香なの? そういうルールなの?」
西香「そりゃわたくしが作ったのですから、一番働いたわたくしを褒めるのは当然のことでしょう? さぁどうぞ、そのカードに書かれた言葉を持ってわたくしを存分に褒めちぎってくださいなっ♡」
衣玖はカードを見る。そこには『心強いよ』と書かれていた。
衣玖「あーん……えっと……心強いっていうか一緒にいると不安になるんだけど……あっ、わかった。西香ってその、すごいわよね、動じないっていうか、うん、何言われても知らん顔っていうか、けなされようと知らない子に本気で嫌われようとそれを全く気にしてないっていうか、心が強いわよね。強すぎて感じる心が消えてるんじゃないかってくらい、心が強いとこあると思う。西香は心が強いわ。無敵かもしれないくらい強い……あ私これイケそう」
西香「んっもーう! そんなに褒めてくださって……あぁっ、衣玖さんったらそんな風に思っててくださったんですねっ。確かにわたくしの心は強いですわ。世間の荒波に揉まれようとも、折れずに咲く道端の花のように儚げで可憐、そして強く美しい。それがわたくしですからね」
留音「(なるほど)」
真凛「(こうやるんですね……)
西香「はい。それでは次の人」
留音「じゃああたしが……どぇっ、『助かるよ』!? なんだこのカード……あたしがピンチだろうが……えっと……あ、あぁっ! わかった! そうだわ、西香見てると助かるって人、多分ちょっとはいると思うよ! こんなヤツでもこうやって生きてるんだ、こんなにクズでも生きてられるんだって思えてさ、やっぱ下見て落ち着いちゃう人っていると思うんだよ、そんなときに西香ってすげー活躍すると思う。お前がいてくれるから、ちょっとゲスい性格の人も自分はこのレベルにはなるまいって最低ラインを保てるんだと思うっていうか……」
西香「ちょっと言ってることがよくわかりませんわね。まぁ日本語も下手な留音さんですからね。察するに、わたくしが人々の心のラインとなって活躍しているのが助かる、ということですわね?」
留音「そう! 多分」
西香「え~? それはちょっとごますりしてませんかぁ? わたくしじゃちょっと水準が高すぎる気もしますが……まぁ皆さん、わたくしを見て精進されるならより良い人間になれるでしょうしね。そういう意味で全人類が助かっている、というところでしょうか。わたくし大満足。はい次、真凛さんも引いてくださいな」
真凛「はーい……『運がいいね』……あっ、西香さんってすっごく運がいいですよねぇ~っ、今までそんな性格で大きくなってこられて、それにこの子みたいな宇宙より拾い心で信頼してくれる人とも出会えて……あとそんな性格で社会に淘汰されずに生きてこれたことも含めて……もう運がいいとしか言いようがないです☆」
西香「ふふっ、そうですわね。わたくしもこの子に出会えたこと、それが一番の幸運だったと自覚していますわ。この褒め言葉はこの子にも贈るべきかもしれませんわね。そして皆さんもですわ。わたくしという人間の至宝と出会えたこと……それは皆さんの運の良さですわ」
あの子は屈託のない笑顔で頷いた。みんなに出会えて本当に良かったと心から思っている。
西香「それじゃあ次はあなたですわよ。まぁあなたから送られる言葉はなんだって嬉しいのですが……」
あの子が机から悩んで一枚、捲って出した。『心が綺麗だね』である。既に答えた3人は流石に怪訝な表情を作っている。
だがあの子はすぐに言った。西香は自分を偽らないこととか、ありのままの自分でいること、それを自信たっぷりにやってくれる。それは自分には出来ないし、本当にすごく尊敬していると伝える。それに続けて、もしも人が誤解なくわかりあえるような日が来た時、人間から仮面を取り去ったときに、一番好かれて人に安心を与えるのってもしかしたら西香のような人なんじゃないか、と続けた。
それを聞いた西香は頬を染めながら俯き、小声で「いや、そんな……えへ……わたくしなんて……」と照れている。
留音「(ずる……)」
真凛「(わたしも褒められたい……)」
衣玖「(他にどんなのがあるんだろう。『イキイキしているね』……息してるね。『プロだね』……人を怒らせるプロだね。『やるね』……色々やっちゃってるね。……割と何来ても行けそうね)」
読んでくれてありがとう。この話を見つけ出したあなたはセンスも運もいいよ。
あとあなたがこの文章を読んでくれているという事実は心強いし助かるよ。そして心が綺麗だね。
……褒めることはニコニコの始まり。