2020年1月10日 十日えびす
2020年1月10日
西香「というわけでですね、わたくしをこの祭事の行われる神社のお賽銭箱の前に送ってほしいのです。最前列ですわよ」
西香は殊勝にもお参りを希望していた。それもこの家からはかなり遠くにある神社へのお参りである。
西香「そこでしっかりお祈りして、わたくしの、わたくしたちの繁栄と商売繁盛を祈ってきますわ。みなさんの分まで」
そんな事を言って衣玖は渋々ながら「まぁ面倒なのがいなくなるし……」なんて気持ちで転送装置を起動し、西香をある神社に送り込んだ。それから数十分ほどした後で、西香は再び転送装置によって帰ってきた。
真凛「あっ、西香さんおかえりなさーい☆ しっかりお願い事出来ましたかぁ?」
西香「知りませんわよそんなの……はぁ……行って損しましたわ」
西香の表情は暗く、フードのついたコートを脱ぎ捨ててソファーにごろんと寝転がった。
真凛「えぇっ? 何かあったんですか?」
すると西香は「はぁ」とため息を吐きながらポケットからスマホを取り出し、ちょちょいといじって真凛に見せる。
西香「……見てください、今日の記念日。十日えびす。どっかの遠い神社での……はい、ここ読んでくださいな」
真凛「『商売繁盛を願って神様のえびす様に思いを託し、たくさんのお賽銭をする。奉納されるのは大金で一万円札が飛び交うほど』……はぁ、すごいですねぇ~」
西香「わたくしね、てっきり……てっきりお札を投げまくるお祭りだと思ったんですの。普通のお賽銭ってそうでしょう?ちょっと後ろからでもお金を投げて、お賽銭箱の前にはちょっとお金が転がってるのなんてザラでしょう?」
真凛「そうなんですか?」
真凛も参拝には行ったことがあるが、わざわざ足元にお金が落ちているかを見たことはなかった。
西香「そうなんですのよ。わたくし拾ったことはありませんけどね、どうせ小銭ですし。で、それがお札で起きるのがこの十日えびすだと思って、それで張り切って行きましたのに……はぁ……お賽銭箱って、ぜんっぜん想像と違いましたの。なんか布みたいなの広げて、ちょっとしたプールみたいなのにポイポイ直接入れていくんですのよ。ほんっとうにつまんない!」
真凛「はぁ……」
西香「お賽銭は後ろの方の人が焦れて投げ入れようとするのがいいんじゃありませんか! それでコートの後ろのフードを開いてるとあくまで不可抗力としてお金が入っていってしまう……それがお賽銭の醍醐味でしょう?!」
真凛「醍醐味ではないんじゃないかなぁ……」
西香「わたくし、最前列でお参りしているふりをすればフードの中にどんどんお金が入るんじゃないかって思ったんですの。でも無駄ですわ、あのシステムじゃ例え1円だって入りますか! あぁつまらない! 行って損しましたッ!」
真凛「そんな力強く言われましてもぉ……でも、それって犯罪に当たるんじゃないですかぁ?」
西香「フードの中に入ってしまったお金を気づかずに帰宅すれば不可抗力で無罪ですわよ。意図的だった場合はグレーだそうですが、故意でなければ犯罪は成立しないのです。仮に見つかっても『いやぁ~ん、気付きませんでしたぅわぁ~っ♡』でごまかせるのです。わたくしはホワイトで清楚な美少女ですからね、その辺はしっかり調べてますわよ」
真凛「調べようと思った発想がろくでもないのによく清楚って言えますねぇ」
西香「はぁ……あの中には大量のお金が……十日えびすって参拝客100万とかいるらしいですわ。3万円近くの小切手を投げていく人もいるんだとか。それを最後に数えて……はぁ。なんていやらしい祭りかしら。わたくしへのお貢に投げなさいよっ、ねぇ?」
真凛「同意はしないですねぇ~」
衣玖「神様信じる信じないはともかく……あいつにバチが当たりますように」
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ミニーズショート劇場
聖美「ねぇ二人とも、今日は110番の日なんだって! だから五人少女ちゃんたちに法的にアウトな事をしかけて通報してもらうっていうのはどうかな?」
イリス「他人を巻き込むのは気がひけるわね」
アンジー「それに……割とシャレにならない展開になっちゃうかもしれないし……」
聖美「そっか、逮捕劇になっちゃったらみんなの評判下がっちゃうよね。あっ、でも110番の日の本来の意味って『警察を呼ぶ適切なラインを知ってもらう』ことにもあるらしいんだ。だから私達の方が通報ギリギリな事をして、五人少女ちゃんたちに通報してもらうでしょ? でも警察の人に『どうしてそんなことで通報したんだー』って怒られてもらうっていうのはどうかな? 豆知識みたいでみんなのためにもなるよねっ?」
イリス「最近ちょっと聖美が怖いのよね」
アンジー「ボクも同感……(でもちょっと羨ましいな……)」
聖美「五人少女ちゃんたちのためにもなる日めくりネタにしないと……!」
一生懸命であった。