表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
191/414

2020年1月8日 勝負事の日

2020年1月8日


イリス「今日は勝負事の日なんだけど……あの、あいつらに勝負しかけに行く?」


 イリスはやや浮かない表情でアンジーと聖美(きよみ)にそう尋ねた。


 実は昨日、真凛(まりん)の七草お湯鉄砲の襲撃にあった後、家に逃げ込もうとしたらその家を破壊され、逃げようとした場所がどんどん崩れ落ちていき、対抗する魔法も全て無効化されて体がビッショビショになるまで追い立てられたという恐怖の記憶が植え付けられている。それはアンジーも聖美(きよみ)も同様であるが、イリスは特に追い詰められた。


 が、なぜだか家などは全て元通りになっており、昨日のも本当に体験したのか、夢でも見ていたのではないかと疑いつつ、しかし笑顔の真凛(まりん)がショットガン片手に襲ってくる恐ろしさは拭いされずにいた。


アンジー「ね……勝負事……みんなのお家は汚さないようにしたほうが良さそうだよね……」


 アンジーはイリスと聖美(きよみ)ほど執拗に追い立てられなかったが、それでも真凛(まりん)の狂気っぷりをしっかり目の当たりにしている。


 しかし聖美(きよみ)は目をぱっちりと開けて首を傾げていった。


聖美(きよみ)「えっ? なんで? 勝負事の日だよ? イリスちゃん、いつもみたいにしっかり勝負をしかけにいかないとっ! みんなの日めくりに貢献するんだから! 勝負事は一か八かで勝てることがいいよね~っ」


 まさか昨日の事を覚えていないのか。イリスはそんな気持ちで言う。


イリス「聖美(きよみ)って意外とタフよね……あたしもあいつらに勝ちたいのはもちろんあるけど、でも昨日みたいな徹底的なお返しを食らうと、ちょっと戦略を考え直す必要があるなって……」


 要は怖気づいているわけだが。


聖美(きよみ)「昨日のお返し? 真凛(まりん)ちゃんのこと? 嬉しかったよね……私達のために七草の日を使ってくれて……みんなでのんびりお粥を食べるって方法も取れたはずなのに、真凛(まりん)ちゃん、私達の健康に気を使ってくれて……」


アンジー「聖美(きよみ)ちゃん……?」


聖美(きよみ)「昨日は突然のことだったからびっくりしちゃったけど、私すっごく嬉しかったんだ……だから私達もしっかりみんなの日めくりに貢献しないとだよ!」


イリス「聖美(きよみ)っ? え、昨日のあれは嬉しかったことなの? めちゃくちゃお湯浴びせられて、あたしなんて倒れたところに鍋ごといかれたんだけど、ジャーって……」


アンジー「ボクもこれでもかってくらい濡らされちゃったよ……」


聖美(きよみ)「えっ? 真凛(まりん)ちゃん言ってたよ? あれは私達の健康を願ってやったことだって」


アンジー「う、うん。そうは言ってたけど、完全に怒ってたよね……」


聖美(きよみ)「最初はそう思ったけど。でもさ、怒ってる人がわざわざ七草を煮込んだお湯を用意しないと思うっ。きっとあれは真凛(まりん)ちゃんの愛情! 私達への気遣いと期待だよ! もし本当に怒ってたら冷水を用意してくるはずでしょ?」


イリス「いやでも、七草の日っていうのにかこつけて攻撃してきてるんじゃないの、あれ……」


聖美(きよみ)「そんな事無いよ! 私は五人少女ちゃん達の事沢山勉強したけど、真凛(まりん)ちゃんはそういうふうに怒る子じゃないよ! 宇宙人説が濃厚だから普通の表現が少し行き過ぎることはあるかもしれないけど、でも怒ってたわけじゃないよ! 私達のためにやってくれたのっ」


アンジー「聖美(きよみ)ちゃんの善意がすごいよね……地獄への道は善意で舗装されているって言葉思い出した……」


イリス「聖美(きよみ)……でもそうね、ミニーズの情報担当の聖美(きよみ)が言うんだもの、あたしもアンジーも考えすぎていたところがあるのかもしれない。あいつらは異常者集団……あたしの考える常識よりも専門家の意見を尊重するべきね」


聖美(きよみ)「えへへ、専門家だなんて……私は五人少女ちゃんたちをみんなよりもうちょっとだけ見てるだけで……だから今日も……勝負をしかけにいこっ? 勝負事の日だよっ」


アンジー「(もうこの時点で一か八かなんだよね……)」


――――――――――


留音(るね)「……というわけで勝負事の日なんだよ。でもさ、あたしが勝負なんてしたところで、負けることがあるとしたらそりゃもう運とかしかないわけだよ。な?」


 五人少女たちはパクパクご飯中である。留音(るね)の話を意識半分以下で聞き流す三人。あの子だけは留音(るね)の強さを肯定しているが。


留音(るね)「だからさ、まぁ勝負ってっても可愛い感じで行きたいわけだ。だからもうさ、ここは牛乳を口に含んでにらめっことかでいいんじゃないかなって。勝負事っちゃ勝負事だし、どう思う?」


西香(さいか)「パスですわ」


真凛(まりん)「汚したらイヤですので。汚したらイヤですよ?」


衣玖(いく)「……(パクもぐ)」


 西香(さいか)はごちそうさまと席を立ち、真凛(まりん)も興味なさそうに、しかし言葉にどこか圧を持って食器を片し始める。あの子はどうするんだろうと衣玖(いく)留音(るね)の様子を見ていた。


留音(るね)「やっぱ日めくりに前向きなのはお前だよな。じゃあぱぱっとにらめっこしよう。牛乳はとりあえず無しはいあっぷっぷ」


 留音(るね)が白目向いて衣玖(いく)を見ると、衣玖(いく)はそんな留音(るね)の顔をちらりと見て、でも何も気にしないように残っているご飯をもぐもぐと口へ運ぶ。まるでいつもの留音(るね)の顔を少し見ただけ、というほどに自然だった。


留音(るね)「あぁっ目ぇ冷える。寒いと余計感じるよな。ってお前もなんかしろよ、張り合いないな」


 留音(るね)は今度は舌を出しながら白目ひん剥いた。


西香(さいか)「ぶっふぉあッ! あ、あわっ、哀れ……ぶっふ……人間の底辺ですわ……」


 全然関係ない西香(さいか)がその顔をスマホで撮影して立ち去っていく。衣玖(いく)は再び留音(るね)の顔をちらっと見て、やはりいつもの留音(るね)の顔を見た程度の反応でパクパクとご飯を食べている。


留音(るね)「……なんだよもー。お前ももうちょっと張り合ってくれよなぁ……」


 その留音(るね)の言葉を"見て"衣玖(いく)はやっと反応した。箸を置き、耳元に手をやったのだ。そして耳から何かをつまんで離した手には白くて小さなイヤホンが出てきた。


衣玖(いく)「なんか言った?」


留音(るね)「えっ、お前今までイヤホンしてたの? 全然聞こえてなかった?」


衣玖(いく)「あぁ、これノイズキャンセリングすごいのよ。自分の心臓の音と筋肉が動く音くらいしか聞こえなくなるくらい外の音消しちゃうから……で、なんて言ってたの?」


 ちなみに今日は1と8の語呂合わせでイヤホンの日でもある。


留音(るね)「いや、にらめっこ勝負って思って……してただろ今、あたし。舌出して白目剥く美少女って結構攻めてたぞ?」


衣玖(いく)「えっ? なんかしてた? いつものルーっていうか……全然気づかなかったけど……」


留音(るね)「殴ろっかな……」


 その時、ピンポーンと家のベルがなった。外から「こんにちはー!」と聞き覚えのある声がする。留音(るね)がミニーズだと気付き「あっ!」と何かをひらめいたようだ。


 留音(るね)はトトトと玄関を出ると、入って入って!とミニーズを家に迎えた。イリスとアンジーはやや身構えているが、聖美(きよみ)はホクホク嬉しそうだった。真凛(まりん)は昨日のことを既に忘れているのか、朗らかに「いらっしゃーい」と迎えて、台所でジャージャー食器を洗い始めた。


留音(るね)「じゃあ代打聖美(きよみ)ね。さぁ聖美(きよみ)、変顔で衣玖(いく)を笑わせてくれ」


 既にイヤホンを耳に戻していた衣玖(いく)は興味なさそうにご飯の最後を口に入れ、しめに飲み物を口に持っていこうとしていた。


聖美(きよみ)「えっ、えぇっ? なんで??」


留音(るね)「今日は勝負事の日なんだ。で、あたしは衣玖(いく)に勝負を仕掛けてたんだけど、こいつ全然動じなくてさ、お前の変顔で一発KOしちゃってほしいんだよ、頼む!」


聖美(きよみ)「わっ……留音(るね)ちゃんにお願い事されてる……う、うんわかった! 任せて! せーのっ」


 よくわからないまま聖美(きよみ)は顎を外して目玉を飛び出させるほどの勢いのある変顔を披露した。衣玖(いく)はちらっと見た瞬間に口に含んだ飲み物を机にぶちまけて咳き込むほどに笑撃を受けたのだった。


 それを横で見ていた留音(るね)も巻き込み、キッチンからちらっと様子を窺った真凛(まりん)をも大爆笑させ、あの子は女の子の顔で笑ってもいいのかというジレンマに苛まれながらも顔を隠して笑った。


 これによって五人少女たちはしばらく行動不能となった。


 実質ミニーズの勝ちである。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] おめでとう。聖美ちゃん。初勝利だね(^_^)。
[一言]  アンジーが常識人枠にスライドしてきた感じですかね。変顔ちゃんが壊れ始めて。留音さんの常識人枠は他の三人より普通寄りってだけで最初から微妙だったし。でも舌出して白目剥く美少女が結構攻めてるっ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ