2020年1月2日 姫始め
2020年1月2日
コンコン。留音の部屋をノックするのは衣玖だ。出てきた留音にリビングの方へ体へ向けながら言う。
衣玖「ルー、今日の日めくりやるわよ」
留音「ん。なにやんの?」
留音は部屋で見ていたテレビのお正月特番に目をやりながら訊いている。
衣玖「みんなで姫始めよ」
留音「ん……ん!?」
パッとテレビから目を離して、全ての神経を使って衣玖の言葉を頭の中で反芻させている。
衣玖「みんなでやるわよ」
留音「待っ、みんなで、やる!? ひ、姫始めをぉ!?」
衣玖「そうよ。みんなで姫始めをやるわよ」
留音「待て待て待て……いやあのー……えっ、みんなは……? どういう気持ちで……」
衣玖「気持ちって。あぁ、実質今年一発目の日めくりだからって気合い入れてるの? らしくないわね。まぁ意識が高まるのは悪いことじゃないけど」
留音「真凛とか、西香とか……あの子とか……」
衣玖「真凛とあの子は二人で準備してるわよ。西香は一人でアレしてるけど」
留音「……うぇええええ! やだやだ! こっわ! こっわぁあ!! やだやだやだ!」
そう言って留音は自分の部屋に入って扉をバタンと閉めて籠もってしまった。衣玖は扉越しに話す。
衣玖「んん? なにを怯えているんだか……いくら姫という言葉に憧れと拒否反応というアンビバレントな気持ちを覚えるからって、そんなに怖がらなくてもいいのよ」
留音「怖いよ! お前のその冷静さがなにより怖い! 一線を越えたお前らと今後接するのも怖い!」
衣玖「一線? はて。まぁいいわ、出来たら後で持ってきてあげるから」
留音「出来る……出来る!? お前まさかまた変な発明して男になる的な物を……?!」
衣玖「え? なんで男になる的な物を? 必要ある?」
留音「……必要な……いやすっとぼけてんのかお前!?」
衣玖「なに言ってるのかよくわからないんだけど、まぁIQが最低でも2億9999万9997違うと会話にならないこともあるわよね。まぁいいわ、私達はリビングで先に姫始めやってるから、お腹すいたら出てきて」
そう言って衣玖はすたすた歩いてリビングの方へ向かったようだ。一人部屋に入った留音が毛布に包まりながら胸に手を当てて呼吸を整えている。
留音「はっ……はぁっ……心臓が……」
留音「……あの子も一緒……?」
――――――――
西香「あら。留音さんはどうしたんですの?」
衣玖がリビングに戻ると、西香はスマホを片手にお正月番組を見ているのかいないのか、テレビをつけっぱなしにしてぐうたらとこたつで寝そべっている。
衣玖「なんかよくわかんないけど来なかったわ。キッチンの二人は準備できた?」
真凛「あ、はーい。もう少しですぅー」
あの子「(*•ᗜ•ฅ*)」
真凛「しかし知らなかったですよぉ、1月2日は姫始めの日。こんな可愛い名前のある記念日だなんてー」
西香「わたくし、てっきり新年最初にわたくしたちがお姫様になるような日かと思いましたわよ」
衣玖「諸説あるけどね。でも今日は柔らかいご飯を食べる日よ」
真凛「よし、柔らかご飯……えっと、姫飯の準備が出来ましたよぉ☆」
あの子「( ﹡・ᴗ・ )b」
衣玖「ちなみにね、姫始めのヒメ、には火水で家事なんかを始める事とかも含まれるのよ」
西香「はぁ。わたくし火も水も使いませんわよ」
真凛「手は洗ってくださいね^^」
真凛とあの子が食卓にその『姫飯』を並べ、みんなで席につく。
衣玖「あぁそうだわ、あとは秘め事という意味もあるらしくて……」
西香「ちょっと真凛さん、ご飯がふにゃふにゃなんですが」
衣玖の説明には興味なさそうな西香が一口運んだ姫飯に顔をしかめて衣玖の言葉を遮って言った。
真凛「姫飯ですから、いっぱいお水入れて作りました^^」
衣玖「あ、ごめん真凛。私も詳しくは知らないんだけど、姫飯って今で言う普通のご飯の事って話なのよ。昔は普通のご飯がもっと硬かったらしくて」
真凛「え、えーっ、今の基準で考えちゃった……じゃあわたしたちがいっつも食べてたのが姫飯ってことですかぁ……?」
衣玖「そうね、多分。調べたことなかったから多分だけど」
西香「なるほど、わたくしと同じですわね。可哀想な普通のご飯……いつもお姫様的存在なのに、それが一般化すると忘れ去られ、軽んじられてしまう。……ところで真凛さん、わたくしお粥でもうお腹いっぱいですわ。パンはありますか?」
真凛「えー! 味はいいんだから食べてくださいよぉっ!」
西香「わたくしそう言えば新年一発目の家での食事はパンかお肉かお寿司かオムライスか1万円以上の食事にしなきゃいけないって戒律に縛られてるんですのよ……お粥はNGなの忘れてましたわ」
真凛「それ、この子も一緒に作ったんですよぉ……?」
西香「そうでしたわね、失念していました。それにわたくしは西香教の主神。戒律など破った方向で新たな神話が生まれるというものでした。食べましょう」
真凛「ぷぅー……」
衣玖「あ、おしるこ入れてみたら? おはぎ味みたいになって美味しいんじゃない?(ドボドボドボ)」
西香「あーちょっと! 確認も取らずに勝手にいれないでくださいな!」
衣玖「未来料理は挑戦に満ち溢れている。そうだ、おせち料理に栗きんとんあったわね。あれも入れたら甘さがまして美味しいと思う。あと甘納豆を散らして、それから食感重視でチョロギってところね」
真凛「だ・めっ! お粥はお粥でちゃんと味付けしてるのー!」
あの子「(; ^ ー^)」
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ミニーズ一発ネタ劇場
聖美「(今日は姫始め……どうしよう、五人少女のみんなが姫始めだーって言って、本当に秘め事に及んでたら……)」
イリス「聖美ー……聖美? 聞いてる?」
聖美「(ど、どうなんだろう、やっぱり攻め側は留音ちゃんとか真凛ちゃんで……いやでも、意外と受けにまわるのも可愛くなりそう……)」
アンジー「どうしたんだろう、深刻そうな顔して」
イリス「さぁ。次の日めくり襲撃作戦の会議中だというのに」
聖美「(あぁっ……みんな可愛いからどっちも……それでそれでっ……)」
イリス「聖美っ、どうしたの?」
聖美「ひゃああっ!?」
イリス「わっ、びっくぃした……驚かせちゃった? 悲鳴あげるとは……」
聖美「べ、別に!? (私は一体何を考えて……)」
アンジー「(悲鳴初め……なんちゃって……)」