2019年12月29日 五人少女おとぎ話 ~ブレーメンの音楽隊~
2019年12月29日
記念日がもうほとんど無くなってしまったけどめげずに展開される、決して苦し紛れじゃないおとぎ話。
今日のお話はブレーメンの音楽隊。今日は国際的な記念日である「生物多様性の日」という事を念頭に置いてみてください。
それでは始まり始まり。なお普段の日めくりの登場人物とはあんまり関係ありません。
読み手は衣玖が担当します。
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昔々あるところに、音楽家を目指す馬、もしくは鹿の留音がいました。
馬鹿留音「ネーミングがひどすぎる。それにあたしはロバだ」
馬鹿はブレーメンという音楽の街に向かいます。その途中、同じく音楽を目指す仲間に出会いました。
馬鹿留音「ただの悪口……もうこれでいいや……」
一人目はとても小さいリスの子。名前をイリスと言いました。
イリス「あたしは打楽器の担当。木の実を叩いてリズムを作るの」
馬鹿留音「おぉ素敵じゃないか。一緒にブレーメンに行こうじゃあないの」
イリス「ふ、ふん。あんたがそこまで言うならついていっても別にいいけど?」
イリスはテンプレのツンデレみたいな反応でついていくことにしました。ちょろいです。
二人目は猫の子、名前は聖美ャンと言います。
馬鹿留音「くそ、なんか名前ずるいぞ……無難なのと可愛い名前にされて……」
聖美ャン「あ、よ、よろしくねっ!私はあの、にゃーにゃーって可愛い声で歌えるよっ」
イリス「いいわね。一緒にブレーメンに行きましょう」
聖美ャン「やったぁっ!よろしくね、イリスちゃん、馬鹿留音ちゃん!」
馬鹿留音「馬鹿は外れないんだな。ロバだっつってんだけどな」
正式名称なので仕方ありませんでした。
続いてみんなが見つけたのは綺麗な翼を携えた鳥さんでした。名前はアンジェルと言いました。
アンジェル「ボクはラッパが吹けるんだ。よかったらボクもブレーメンに一緒に行きたいな♡」
アンジェルは天使っぽい羽と二本の足で立ち、二本の手がある天使っぽい鳥です。
馬鹿留音「いや人型じゃねーか。ブレーメンの音楽隊は動物の話で……」
イリス「いいでしょ別に。ついてきたいって言ってるんだから。融通が効かないのはバカってものよ」
まさにそうでした。今のは多様性を認めない発言です。天使のようなアンジェルにだって動物に混ざって音楽隊をしたい気持ちがあるのです。
聖美ャン「一緒にいこっアンジェルちゃん」
馬鹿留音「くそー、このメンツだとアウェイ感マシマシになるじゃん……地の文の読み手もなんかあたしに対して攻撃的な気がするし……」
そんな意味不明なつぶやきをしながら、ついに結成された音楽隊はブレーメンへと向かいます。しかしもう日も落ちてきてしまいました。そんな道の途中で音楽隊は小さな小屋を見つけました。屋根のある場所で一晩明かしたいなと思い、そこを覗いてみることにしました。
中からはご飯の良い香りと、数人の人間の影がありました。
「へ……見ろ、こんなにたくさんの金貨が手に入ったぞ……」
「あぁっ、あとはここで腹ごしらえをして街に戻って……」
男たちはテーブルに金貨を広げ、この小屋にあったご飯をお腹に入れていました。どうやらそれは誰かから盗んだ、悪い金貨だったようなのです。男たちは強盗でした。
「これで……西香様ファンクラブへの上納金が出来た。やめさせられずに済むな……」
音楽隊たちにその理由はよくわかりませんでしたが、しょうもない理由であると思って強盗たちをここから追い出し、休むために小屋を使わせてもらおうと考えました。そこで強盗たちを追い出す方法を考え、そして実行に移します。
イリス「"火魔法!!"」
馬鹿留音「魔法じゃねぇか!」
強盗たちに先手を取ったのは中距離から火炎弾を飛ばすイリスの魔法でした。魔法の火は便利な事に物は燃やすことはありませんでした。驚いた男たちは飛び跳ねて窓の外を見ます。
聖美ャン「ンッ」
すると月明かりに照らされた変顔が窓に浮かんでいました。
「ぃぎゃあああああああああああ!!!」
普段なら面白い変顔も、ぼんやりとした光に照らされて闇に浮かぶ変顔は恐怖の対象でしかっ……ありませんっ。ふっ、ぶふふっ……んはっはっは!
男たちはこの家が呪われているのだと思い、急いで外に出ていきます。家の扉の外には天使の格好をした子が立っていました。
アンジェル「ねぇ、おにいさんたちぃ……」
男たちはその天使に救いを見出しました。霊障にあったと思っているのですから、天使に縋るのも無理はありません。
アンジェル「盗みをしたら悲しい気持ちになる人がいるよ? そんなのだぁめ。そんな事をしなきゃファンでいられない人のファンなんてしてる必要あるのかなっ?」
「で、でもっ、天使さま……その方は地上で見たこと無いほどに可愛いのです……少しでも彼女の視界に入っていたいとっ……」
アンジェル「でもお金をたくさんみんなからむしり取って……そんな可哀想だし酷いって思うな。そんな人より……ねぇ、ボクのファンにならない……? ボクもかわいい……でしょ……?」
アンジェルは肩にかかった布がずれていくのを直さないまま、強盗たちの胸を人差し指でツツツーと触れ、撫でています。サキュバ……インキュバスか何かでしょうか。
「おっふ……あ、悪魔めっ! 西香様と俺達の仲を引き裂こうとする悪魔めっ!」
アンジェル「えっー、ひどぉい。こんなに可愛いのに悪魔なんてぇ。肌も白いんだよ、見えるでしょぉ?」
馬鹿留音「いつまでやってんだ。はい、超最強歯」
留音は馬のいななきというか、ロバがツバを飛ばす要領で歯から超最強波を飛ばし、男たちを吹き飛ばしましてしまいました。
そうしてその家で一晩を明かした音楽隊。なんだか居心地がよくなって結局ブレーメンは目指さずにのんびりそこで過ごしましたとさ。
馬鹿留音「まぁ過ごしたのはいいんだけどさ、もうちょっと音楽とかそういう方法で撃退するのがこの話のキモなんじゃないのか?」
イリス「そう言われても。木の実コツコツやって強盗びびらせらんないでしょ」
馬鹿留音「にしたって攻撃魔法使うリスってどうなんだよ……」
イリス「それをいったらあんただって。なんで必殺技が歯から出るのよ」
馬鹿留音「仕方ねーじゃん! 四足なんだから! 格闘したらあいつら蹄で貫いちゃってたかもしれないだろ?」
聖美ャン「ま、まぁまぁ、無事撃退出来たからっ、喧嘩しないでー……」
アンジェル「ボクのお色気攻撃ももう少しで効いたはずなのになー」
ブレーメンの音楽隊は多様性がありました。魔法を使うリスがいても、歯から波動飛ばしても、ギャップ特化の変顔が出来るのも、天使なのに男の子でお色気使いでもいいのです。そういう方が楽しいからね。