2019年12月26日 ボクシング・デー
2019年12月26日
留音「ふっ……ふふっ、熱いねぇ、この記念日は……」
留音は不敵に笑う。腕にテーピングをすると数回ほど空をその拳で切り裂いた。
衣玖「本当にやるの? ルー。言っておくけど今日は……」
衣玖は呆れたように問いかける。その言葉を遮って、留音は「シュッシュ!」とシャドーボクシングをしながら言った。
留音「ボクシングデーだろ? ……あたしが遂行するのにピッタリの記念日じゃないの。ふふ、腕がなるぜぇ……!」
衣玖「まぁ……やりたいならいいけど……じゃあ行くわよ。まずはロッキー。あまり強くはないけど、主人公補正がついてタフネスが尋常じゃないわ」
衣玖が装置のボタンを押すと、留音の前にもじゃもじゃ髪の男が立ちふさがった。ボクシンググローブを手にはめている。今ではスターとなった俳優、スタスタスター・スタローンその人である。
留音とスタスタの二人が立つのはスーパーバーチャルリアリティリング。実体化した人物はハイパーAIによって元となった人物のようなステータス、人格を得て戦うことが出来る。
これは衣玖が部屋にいる時、部屋の出窓にカラスが立った音にびっくりして、その時に思いついたので試しに作ってみた装置だった。カラスの足とは言え、窓の外からノックされるというのはとてもびっくりするのである。
留音「まさか、スタスタスター・スタローンと戦える日が来るとは思わなかった……今日という記念日に感謝するぜ! おら! 行くぞ!」
留音はなんらかのテーマソングと共に動き出す。相手はプロのボクサーだ。しかも何度やられても立ち上がる、ボクシング映画界で最も有名なこの男である。
ではあったのだが、留音はスウェイとダッキングを組み合わせて相手の懐に踏み込むと、ほんのジャブを打ち込む。するとスタスタの体力は一瞬で枯れ果てた。だがスタスタは映画からの召喚である。ありえない補正を持って留音の一撃に立ち上がるのだ。
留音「っしゃー! こうじゃなきゃな!」
はしゃぐ留音であったが、既にスタスタはボロボロになっており、片目でフラフラしながら鈍いパンチしか打てないエイドリアンモードである。
「エイドリアーン! エイドリアアアーン!!」
スタスタはこのモードになると、完全に敗北していても愛の力で作品を感動的に終わらせるのである。最早戦いにはならない。留音は立ち上がってくれたことには感動したものの、試合としては面白くないとして衣玖に終わらせるように頼んだ。試合開始3秒での決着だった。
留音「やっぱ実写は駄目かも。次はもっとぶっ飛んで強いのがいいな。あたしがボクシング縛りするからさ。悟空にしよ悟空に。スーパーサイキョー人3にもなれる作品終盤の悟空ね」
衣玖「……じゃあアーカイブからドラゴンボーリング読み込ませるから……」
留音「あーいいなー。ボクシング・デー。あたしの超かっこいいスウェイとダッキングで全てを躱して完璧なストレートとアッパーでノックアウト! ってなー。最近やたら甘ったるい話が続いてただろ? まぁ悪かないけどさ、やっぱバランス良く戦闘とかかっこいい話も無いとだよなぁ?」
留音はクリスマスの次の日にこんなかっこいい日めくりが出来る記念日が制定されていた事に心を踊らせている。
衣玖「うーん……言っちゃ馬鹿話、なんだけどね……今日は……」
留音「ん? なんか言った? うー、早く戦いてぇー! ワクワクすっぞ!」
その後衣玖が召喚したスーパーサイキョー人3の悟空を数発のジャブで倒しきった留音は、不完全燃焼だと様々な作品から最強と思われる人物を呼び寄せたが、留音のほうがあまりに強すぎたため、最終的にジャブ固定縛り、移動制限、片足固定、片手封印までして戦ったのだが、やはり留音はいかなる格闘も最強だった。
留音「あーぁ。せっかくボクシング・デーだったのにな。こんなんじゃあたしのかっこよさが伝わんないよ」
衣玖「多分最終的に伝わるのは馬鹿さくらいよ」
留音「えー? 馬鹿みたいに強いって? かーっ、ホントそれ」
衣玖「じゃなくて今日は……」
――――――――――――
前日の事。
イリス「サンタクロース、本当に実在するとは思わなかったわね」
イリスはクリスマスツリーの下に置かれた三つの箱を見ていた。
アンジー「プレゼント来たねぇ~! ボクのプレゼント無いなぁーって思ったら、サンタさんこっちに置いててくれたんだぁー♡」
聖美「嬉しいね~……私達が良い子で頑張ってるってサンタさんも認めてくれたってことだよねっ」
三人はプレゼントの箱を取り上げ、何が入っているのかなぁと楽しそうにしている。
イリス「んっふふ、しかし一体何が入っているんだか。早速開けてみましょうか」
イリスは興奮した面持ちでプレゼントをテーブルに置いた。それに続いてアンジーもテーブルに置き、二人はリボンに手をかける。
アンジー「わーい! ボクも開ける開け……」
聖美「駄目!!!!! 待って!!!!!!」
二人がリボンを引っ張ろうとした瞬間、爆弾があることでも指摘するかのような圧の強すぎる声音で聖美が二人の動きを制止させた。
イリス「びっくりした……なに? どうしたの聖美……」
アンジー「聖美ちゃん、思い切りがすごいよね……心臓止まるかと思った」
手を止めた二人にホッとした聖美は二人の前に座る。プレゼントを二人から少しだけ遠ざけると言った。
聖美「あのね二人共、今日はクリスマスだけど、明日はボクシング・デーって言って、古くはプレゼントを開ける日、ってなってたの。きっと五人少女のみんなはそれを知ってると思うんだ。だからきっとサンタさんのプレゼントが来てても日めくりの意識が高い五人少女ちゃんたちは開けないで26日の日めくりの目玉にすると思うんだ。だから私達もプレゼントを開けちゃ駄目。みんなと一緒に開ける機会がなくなっちゃうし、例え一緒に出来なかったとしても、もしかしたら私達の開封の儀が明日の日めくりになるかもしれないから……ね?」
イリス「なるほど……そうか、あいつらと一緒に開けるかはともかくとして、今日開けないことで明日の日めくりを奪うチャンスが生まれるということね。それはそれで良い話を聞いたわ。やるわね聖美、あなたも日めくり大使らしくなってきたってものよ」
聖美「そんな……私なんてまだまだ、五人少女ちゃんたちには及ばないし……」
アンジー「ねぇねぇ、でもなんとなーくだけどね? ボクシング・デーって聞いたら『殴り合うボクシングの事』って思うんじゃないかなぁ?」
イリス「クリスマスの次の日よ? 仮に殴り合いのボクシングだと思っても調べるでしょ。まさか調べないままそれを日めくりにするほどの馬鹿じゃないわよ、あの留音でも」
聖美「そうだよっ、五人少女ちゃんたちは日めくりに全力投球してるんだもん! 仮にボクシング・デーを殴り合いスポーツの日だと思ったとしてもしっかり調べてクリスマスプレゼント開封の儀を執り行う日めくりにしてくるはずだよっ! そんな適当な日めくりしてるお馬鹿な人たちじゃないよっ!」
アンジー「そうだといいねぇ……そうだといいなぁ」
イリス「そうだっ! 今のうちに箱型の容器に爆発魔法を込めて、あいつらの家の入り口に置いとくってのはどう? ボクシング・デーに合わせて一緒に開封して爆発してくれるかも!」
聖美「だ、駄目だよ! もし私達が開封式に呼ばれたら一緒に爆発しちゃう!」
アンジー「……箱を開ける日だって思ってるとしたらね~……」