2019年12月25日 メリークリスマス!
2019年12月25日
留音「よし、じゃあみんなプレゼントは持ったな?」
みんなはサンタ帽子をかぶったり赤鼻をつけたり、先程引き開けたクラッカーの紙吹雪などを体につけたまま、リビングテーブルの周りに座っていた。座るのは8人。真凛とあの子が昨日よりは落ち着いた程度のごちそうを準備するために買い出しに行った先で会った聖美を通じてミニーズも呼び寄せていた。
みんなそれぞれ交換用のプレゼントを持っている。ミニーズも律儀に準備してきたようだ。
聖美「はいっ、準備おっけーです!」
衣玖「それじゃ、ミュージックスタート」
衣玖はポチと端末を操作すると、とてもクリスマスらしい音楽が流れ始めた。
♪♪♪「(ズーチキチキ! ズンズン! ズーチキチキ!)ベイビベイビベイビベイビベイベべ ベイビベイビベイビベイべべ メリィィィィ!!! グリズヴァアアア!!! イェっ! イェッ! イエァッ!! エェェェェン!!! でぇぇばあああ!!! ダラッダダダダンダーン!」
イリス「ちょっと!? なんなのよこの音楽は!?」
真凛「はーい、プレゼントを回してくださーい」
流れたメタリックなクリスマスソングについてのコメントは無視でみんなはそれぞれシャッフルしたプレゼントを横に横にと回している。
完全にシャッフルされているので、誰が誰のものかはわからないままぐるぐる回っている。
そして何週か行き来したプレゼントは音楽の終わりと共に動きを止め、貰い手が確定した。
アンジー「ぃよーっし! 開封たーいむ! これ誰のだろーっ?」
みんなそれぞれプレゼントを開封する。一番初めに開いたのは衣玖だった。とても小さな袋だったこともあってサクッと開いたようだ。
衣玖「あっ、可愛い。イヤリングだ」
衣玖の開けた袋からは小さなハート型のイヤリングが出てきた。しかもハートは少し歪んだ形で正統派のハートではなく、更に中心は矢で射抜かれたようになっておりとてもポップだった。
衣玖「これ使えるわね。イヤリングはもちろんいいけど、装飾にも使えそう。誰の?」
アンジー「あっ! それボクボク! おめでとう衣玖ちゃん! きっと似合うよー!」
衣玖「アンジーか。可愛いのをありがとう、今度つけるわね」
衣玖は満足したようで、アンジーも嬉しそうにしていた。
そんなアンジーもプレゼントを開けると、中からは3つ、よく見るようなカイロが出てきた。袋にも入っておらず、とても簡単なカイロだ。手に持てるような、一般的なホッカイロが一つ、それから貼るカイロというタイプが2つ。プレゼントにしては質素すぎるのだが。
衣玖「あっ、それ私のだ。なんだ、ここはそのまま交換になっちゃったのね。おめでとうアンジー」
まさかコンビニかなんかで買ってきたカイロを袋から取り出してすぐに使わないといけない状態でプレゼントされたのだろうか、とアンジーは不安に思ったがどうやらそうではないらしい。
衣玖「ちなみにそれ無限カイロだから。空気に触れてる限り常に50℃くらいの温度を発し続けるわ。夏場は真空のなにかに入れて保存してね」
アンジー「えっ! すっご! ありがとうー!」
アンジーは目を輝かせながらカイロを撫でる。既に暖かくなっていて、冬場に可愛い薄着をしても耐えられそうだと心を躍らせた。
留音「お前もたまにはフッツーに役に立つもの作るなぁ」
衣玖「失礼な。ま、誰に行くかわからないから無難な物作ったところはあるけどね」
そして次は真凛がじゃじゃーん! とプレゼントを取り出す。手のひらより少し大きいくらいの箱が出てきて、赤いT字のようなものが描かれている。
真凛「……なんでしょう、これ? ぱ、ぱわー……ぶれす?」
留音「あ、それあたしのプレゼント。真凛に行ったか」
どうやらその不思議なT字のものは口に咥えて使うものらしい。真凛は取り出して筒を咥えた。
真凛「ほえあんえうあー?(これなんですかぁ?)」
留音「それは負荷をつけて呼吸出来るやつ。みんな筋トレはやりたい時に出来るけどさ、呼吸のトレーニングってなかなか出来ないだろ?多分誰も持ってないだろうなと思って」
真凛「ふぁー」
衣玖「(……良かった、こっちで……)」
留音「じゃああたしも失礼して……」
留音もぱぱっとプレゼントを開ける。サイズ的にカードか何かが一枚入っているだけのプレゼントだ。その時点でなんとなく留音には中身がわかっていた。多分西香の用意した課金用カードかなにかだろうと。
留音「……って……んじゃこりゃあ!」
取り出したものは、やはり予想通りの西香のものだ。というか西香だった。
西香「あらおめでとうございます留音さん。わたくしのサイン付きチェキ。ファンクラブで50万円~100万円を貢いだ方に抽選で10名に当たる限定品ですわよ」
留音「くそいっらねぇー……」
煽り散らすかのような西香がウィンクして可愛いポーズを撮った写真に呆れ、ポイと後ろに放る。とは言え、有識者に売却すれば数十万円の価値になることを留音は知らない。
次に袋からプレゼントを取り出したのは西香だった。サイズ的に本か何かだろうと、西香は転売額に期待を持てず、その動作は鈍い。
西香「さてわたくしのは……なんですのこれ」
中から出てきたのはやっぱり本だった。それもタイトルは『世界の毎日カレンダー』。表紙の情報を見るに、世界中で起きた出来事を日付ごと366日分記載された内容の本のようだ。
西香「……なんですのこれ……」
西香は二度ほど空に問いかけると、嬉しそうに聖美がそれを確認する。
聖美「あっ! よかったぁー! 皆に渡ればいいなって、それ毎日の日めくりのネタになるかなって買ったんだぁ! もし何かネタに困った時の助けになればいいなと思って……よかったーっ、五人少女ちゃんたちのところに行って!」
西香「全然良かないですわよ……くっそつまもがもがもが」
留音「だぁれが何言おうとしてんだぁ……?」
西香の口を留音が無言でポッキー一袋分を詰め込んで封じる。留音的にはこの本のほうが数千倍価値が高い。本の値段を見た西香、1800円とある。売っても100円かとがっくり肩を落とし、これなら1500円の課金カードを寄越してくれればよかったのにとポッキーをがぶがぶ噛み砕いた。
そうしている間に、次にプレゼントを開けたのはあの子だった。中からはカードくらいの大きさのガラスケースが出てきて、そこに何かキラキラするものが保存されているようだ。あの子は首を傾げ、それを電気にかざしてみる。光の反射がとても美しい。
それを見ていたツインテ少女が反応する。
イリス「……それあたしの。氷の魔法を雪結晶のように保存しただけのものなんだけど……まぁ綺麗でしょ?」
あの子は目をまんまるにして何度もうなずく。横でいた真凛らも「わーっ」と声を上げた。透明で光を乱反射し、形として完全な対称性を持った雪結晶は誰が見ても一度はまじまじと見つめるほど興味深い。
留音「へぇー! すげえじゃんイリス! いいなー! あたしもこれ欲しいかも……」
衣玖「綺麗ね。おめでとう」
西香「(こっちだったら質屋に入れればお金になりそうでしたのに……)」
あの子は嬉しそうに微笑んで、イリスにありがとうを伝えた。イリスは嬉しいのを隠すように顔をそむけて「別に! お金もかかってないし!」と強がって、恥ずかしいのか自分のプレゼントを開けるのに専念し、手元にある薄っぺらいケースから何かを取り出した。
イリス「……真凛食堂、お食事券……?」
ペラ、と紙を取り出したイリスは、書かれている文字をそうやって読み上げた。名前の通り、真凛が嬉しそうに手を挙げる。
真凛「あ、はーい! わたしのだー☆事前に予約してくれたら、いつでも好きな料理を作ってあげる権利です! すっごく難しいのとかは大変ですけど、家庭料理くらいだったらなんでも注文してくださいね^^」
イリス「ふーん……でもここに来なきゃならないじゃない。ここに来るのは決戦の時だけと決めているのに……」
留音「今いるじゃん」
イリス「敵内部の視察に決まってるでしょ!」
イリスはそれを財布にしまった。それをいいなー、と言いながら次に袋を開けたのは聖美だ。
聖美「わっ! 綺麗な手袋!」
中から出てきたのはゴージャスなワインレッドをした手編みの手袋だった。ラムウールで編まれたそれはつけた時のチクチク感のなさを考慮されつつも、もこもこで暖かさを両立している。
それを見て嬉しそうにしたのはあの子だった。この子が編み込んだものだと知って、聖美は「ひゃああああ」と奇声を上げ、飛び跳ねて喜んだ。みんなが小さな嫉妬心を燻ぶらせ、西香などは「わたくしのと交換しませんか!?」なんて持ちかけている。
留音「さて、それじゃあこれで全員行き渡ったか。みんなメリクリ~」
アンジー「いえーい! メリークリスマース!」
真凛「さてっ、ブッシュドノエルを切り分けますね~っ」
今日は普通にクリスマス。